INTERVIEW 008 | SATIS

デメリットをメリットに変える

設計:中村高淑/中村高淑建築設計事務所(自宅+アトリエ)

デメリットをメリットにかえる

中村さんは家の場所を決めるとき迷いはなかったと言います。土地は縁だとも言います。たまたま自分のところにこの土地の話があってすぐに決めたそうです。狭小間口の細長い敷地もデメリットと考えずに、それをどう料理していくかを楽しんだそうです。建築家の仕事は、こうしたデメリットをメリットに変えていくこと。窓のない家であればトップライトを設け、また隣接する人との視線が気になればあえて目線に開口部をつくらずその土地の持つデメリットをメリットへと変換していくのです。そして中にはデメリットをあえて残しそのデメリットを楽しむというように、人間に例えるのなら、良い面、悪い面は表裏一体のもの、両方あるから楽しく、そして豊かなのだとも言います。こうした積極的なものの見方が中村さんの建築に豊かさをつくっているようです。

建築家 中村高淑さん

建築家 中村高淑さん

2階、陶芸家の奥さまの工房。

2階、陶芸家の奥さまの工房。短手方向に壁がいらない構造を生かして仕切りの壁はあえて透明感のある素材でつくった。

3in1のサニタリー

中村さんご夫婦で使うサニタリーは3in1。廊下との間も、脱風呂とトイレの仕切りも透明なガラスになっています。トイレには収納が細やかに設計されていて普段の生活では掃除用品やトイレットペーパーなどのストックが見えないように収められています。ガラス張りで見通しがよいだけに、余計なものが目にとびこんでこないようにする配慮です。この明るく開放的なお風呂に1時間ぐらいはいることもあるといいます。お風呂から向かいの家越しに見える小高い山を眺めながらお風呂にゆっくり入るのは極上の時間と言います。またトイレから流れる音楽「リラックスミュージック」も気に入っていて、小鳥のさえずりが夜中に流れるとまるで山の中にいるような気分だそうです。

3階の水まわり、ガラスで仕切ることで明るく広がりのある空間となった。

3階の水まわり、ガラスで仕切ることで明るく広がりのある空間となった。左のブラインドは上部だけを開けることも可能で、遠くに見える小高い山を見ながら入浴するのは最高の楽しみだと。たまに長い時間をここで過ごすこともあるという。

スケルトンのトイレは女性の方が積極的

この家にはたくさんの仲間が訪れます。友人が材料を買い込んで2階のキッチンで料理を披露してくれることもよくあるとか。そんなときに、特に女性のお客さまの方が積極的にこのガラス張りのトイレを使うそうです。棚のタオルや備品などで少しは隠れますし、人がいることがわかるので見られることはないのですが、階段に面して視線は開いて、たしかに開放的で気持ちの良いサニタリーです。1階には来客用のトイレはありますが、女性の方は気持ちの良い開放的なトイレを選ぶといいます。女性の方が快適さへの欲求が高いのかもしれません。トイレを使用中にサティスからリラックスミュージックが流れるのは使用している合図にもなるようで、その意味でも便利だそうです。

建築が暮らしの質を高めていく

先のデメリットをメリットにかえる話同様、依頼主の課題をどうやって建築で解決していくのか、そこが中村さんの建築に向かう基本姿勢です。作品をつくるというより建主の暮らしの質をどう高めていくのか。無機質な空間でなく、日常の暮らしがより楽しく、そして美しくなるように考えるのです。
こうした考えは空間づくりだけでなく、設備機器など少し高くても毎日使うもの、長い時間使うとすればより上質なものにこだわって選んでもらうようにするそうです。建築家の自邸の取材ではありましたが、なにより中村さんご自身が暮らしを楽しんでいること、豊かな暮らしを実現させていること、そのことがとてもよく伝わってきました。

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公開日:2018年02月28日