関電不動産八重洲ビル×LIXIL
多様化する時代に求められる、オフィスのオールジェンダートイレ
関電不動産開発株式会社/大成建設株式会社
基準階トイレの設計について
──基準階トイレの設計では、両社で議論を尽くして取り組まれたと伺っています。
杉本氏:基準階のトイレの設計でパウダールームなどは実寸大の模型を作り、使い勝手を確かめながら設計したので、リアルに使いやすいサイズなっていると思います。また、鞄やポーチをトイレに持ち込んで何かをするというのは女性ではよくあります。そういったものを置けるだけの幅を考え、フックを用意するなどの配慮をしているので、とても使いやすくなっていると思います。
植田氏:やはり男性では分からないところもあります。また大成建設さんにお世話になった京橋MIDビルはちょうど同じ規模で竣工後7、8年経ちますが、そこもトイレにこだわりを持って設計していて、テナントに入られた女性社員の皆さんにヒアリングした結果を八重洲ビルに反映しています。
髙田氏:プランは植田と私が担当しましたが、女性スタッフによるプランの見直しは数十回に及びました。この八重洲ビルの検討中のプランをテナントの皆さんに見ていただき、率直な意見をいただくことができました。基準階のトイレプランでは、洗面空間を通常よりかなり広く取っていますが、これもヒアリングの意見をもとにしています。
植田氏:最初、洗面空間を用途別に細かく区切っているほうがいいかと思っていたのですが、広々したほうが使いやすいという意見が多かったのです。そこで大きな空間にし、洗面、パウダーカウンターなどを配することにしました。
金子氏:ワーカーさんに伺うと、私たちが使いにくいと思い込んでいたところが、実は便利だったということがありました。例えば、合せ鏡になるような位置に鏡を設置すると、他の人と目が合ってしまうのであまり良くないと思っていたのですが、それよりも自分の後ろ姿を確認することができるので便利だという方がいました。
藤本氏:関電不動産開発さんが収集されたデータは、私たちにも大いに役に立ちました。洗面器の奥行や、人が通る通路の幅など、実際にモノを置いて確認されていましたから。設計者の私たちを上回る情熱とリサーチ力で研究されていて、大変刺激を受けました。
中藤氏:ビルの設計思想自体がものすごくきめ細やで、ユーザー側のどんな目線に対しても一つひとつ解決して応えていくという姿勢でしたので、私たちも感化され、なんとか実現させようと気持ちが入りました。
髙田氏:当社のビルづくりの考え方として、常にテナントに入られるお客様目線でものづくりをしていますね。
テナントビル事業で差別化のポイントとなるトイレ
──なぜトイレがこれほど注目されてきたのでしょうか。
植田氏:テナントリーシングにおいては、各企業様がビルを検討されるときに当然立地や賃料が重視されますが、ある程度絞られたときに女性社員様を伴いビルを見に来られることが多く、その際に女性トイレの良し悪しが決め手になることが多々ありました。ある企業様が見学に来られて、聞けば自社のトイレもずいぶん力を入れておられ「食事のできるトイレ」を標榜されているとか。われわれに限らず、更衣や化粧直しだけでなくトイレにプラスαが求められていく時代なのだと思いますね。
実際、ツアーで来られた女性の方がこのオールジェンダートイレがあることで決められたと聞いています。「Restroom+」の評価はこれからだと思いますが、あと一押しのところで決め手の一つになればいいですね。
髙田氏:「Restroom+
オフィスのトイレはどこまで進化するのか
──最後にお一人ずつ、これからのトイレはどうなっていくと思われますか。
髙田氏:働く場所が多様化して、オフィスだけでなく在宅という選択肢も加わりました。オフィスは人と話をしたり、集中して作業をしたりする場所になっていくと思いますが、オフィス空間のどこかに住む家とのつながりを持てる空間が必要になってくるでしょう。それがトイレになるのではないかと。体調が悪いときに休憩するなど、本来、家でやりたいようなことをする場所ですね。この先技術が進み遠隔操作で家事や育児ができるようになったら、仕事以外の何かをする場所としてトイレ空間が担う可能性は大いにあると思います。
金子氏:今回オールジェンダートイレについてお話させていただきました。多様性=ジェンダー(社会的、文化的性別)という認識の人が多いと思いますが、働き方の違いも多様性ですし、年齢、身長の違いも多様性の一つだと感じています。そこで、なるべく多くの選択肢を用意することが相対的満足度を高めることになると思っています。具体的には八重洲ビルのアンケートで出された要望を、次の開発で実践していけたらいいですね。
杉本氏:男性、女性でくくられていることにそもそも違和感を持っていました。男女の性別の間もグラデーションになっています。私の同年代からさらに若い年齢層ではそういう感覚を普通に持っている人が増えていると実感しています。オフィス選びの決定権を握っているのは、今はまだ上司の男性が多いですが、今後は少しずつ変わってくると思います。若い世代に対して考えるきっかけを与えるような提案をすることで、それ以外の世代の人にも気づきをもたらすことができるかもしれません。ですから女性トイレだけでなく男性トイレもきちんと商品企画をする必要性を感じています。まだまだ不勉強ですが、“個”に対する意識を持って設計に取り組んでいきたいと思っています。
植田氏:アンケートでは4割以上の方が「Restroom+
女性の場合は事務所に戻る前にここでワンクッション取られる方がほとんどでした。利用される理由として、お化粧直し、歯磨き、ストレッチがありました。ラグジュアリーとナチュラルの2タイプがありますが、ラグジュアリーのほうは照明が暗めなので、お化粧直しには不向きのようですが、いろいろな仕掛けを入れたことで、それなりに使われているのだろうと思います。
利用頻度は思ったよりも高く、2月、3月の平均で1日あたり30〜34回。在館想定人数を1200人とすると3割の方が利用されていて、リピート率は高いです。仕事のフロア以外の受け皿として、それなりの役割は果たせているのではないかと思います。
なぜ利用されたかの質問には、「事務所階のトイレを利用しにくい」という方が男性で13%、女性で19%いらっしゃいました。体調が悪いとか、トイレで声をかけられるのが嫌だなどの理由が考えられますが、予想以上に事務所階のトイレに行きづらいと思っている方がいるようです。
今後の「Restroom+
使われはじめてそれほど時間が経っていませんが、今のところ目論見通りに利用されているのではないかと思っています。
中藤氏:これからのトイレは、さまざまな機能を取り込みながらいろんな人に対応していくと思っています。ですが、鍵がかかるプライベート空間の中に衛生陶器があるという本質は変わらず、使う側が変化していくのでないかと思っています。トイレの取扱説明書のようなものを示すことで新しい使われ方が進むかもしれません。
金子氏:そのことは私も感じていました。ここのビルでも基準階トイレにはLIXILさんの歯磨きボウルを置いていますが、歯磨きをする人の1割しか使っていませんでした。時々使うという人も含めてやっと半数です。理由として、直接水を口にいれることに抵抗があるという人もいましたが、使い方がわからないという人も多かったのです。使い方をきちんと伝える必要を感じました。
髙田氏:歯磨きの話がでたので少し補足させてください。八重洲ビルには当社もテナントとして入っていますが、歯磨き男子が多いので、歯ブラシをしまうニーズがあるということで、基準階トイレ内にプライベートボックスを設けました。「デスクから歯ブラシをもってトイレに行く姿をお客様に見せるのはどうなの?」という意見もあり、プライベートボックスは男女両方に必要と判断しました。女性トイレの場合は化粧品のほかに、コップや歯ブラシを入れると聞いています。
藤本氏:世の中を見ると豊かな空間やおしゃれなインテリアに対する知識が高まり、オフィス空間自体もそのように変化しています。トイレ空間も“ラグジュアリー”や“ナチュラル”などさまざまなデザインがあると思いますが、その先に何があるかですよね。
今回、オールジェンダートイレで、「プラスαのトイレを」というお題をいただいたので、これまでの固定観念を捨て、使い方を含めディスカッションしながら考えることができたことはとてもいい経験でした。豊かな空間とは何かを考え、これからの設計に活かしていきたいと思っています。
酒井氏:通常は床面積を増やすためにトイレはなるべくコンパクトに納める設計が求められる中で、1階の「Restroom+
今回は、トイレはオールジェンダートイレでありリフレッシュ空間、という2つの観点からアプローチしました。オフィスでは集中力を高めて仕事をされていると思いますが、一息つく場所としてトイレがあるので、ストレッチしたいというニーズはよくわかります。そう考えると、例えばトイレが外壁に面しているプランであれば、外の空間が見える窓を設け、外気を取り込むことができれば、五感全部がリラックスできますよね。リフレッシュ空間という視点でもう少し挑戦できたらいいと思っています。
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公開日:2023年06月29日