関電不動産八重洲ビル×LIXIL

多様化する時代に求められる、オフィスのオールジェンダートイレ

関電不動産開発株式会社/大成建設株式会社

取材を行った東京都府中市にあるEuclidのアトリエで、左から吉永氏、白石氏、芦澤
関電不動産八重洲ビルの開発に携われた皆様。後列左から植田氏、藤本氏、髙田氏、中藤氏。前列左から杉本氏、酒井氏、金子氏

参加者(敬称略)

■関電不動産開発株式会社 首都圏事業本部 ビル事業部
植田博之(建築技術グループ長)
髙田 拓(建築技術グループ チーフリーダー)
金子千穂(建築技術グループ リーダー)
杉本香澄(建築技術グループ)

■大成建設株式会社 設計本部
中藤泰昭(建築設計第一部 設計室長)
藤本鉄平(建築設計第七部 設計室長)
酒井江梨子(建築設計第一部 設計室(中藤)アーキテクト)

2022年5月、JR東京駅八重洲口から徒歩約10分の立地に関電不動産八重洲ビルが竣工。関電不動産開発の初の試みとして、性別問わず利用できるテナント専用の「オールジェンダートイレ」が1階に設置されました。働き方の変化やオフィスワーカーの多様化が進む中、皆が快適に過ごせるオフィスの未来を見据えたプランニングにおいて、トイレの在り方が注目を集めています。
テナント獲得の重要な決め手ともなるトイレについて、施主である関電不動産開発の担当者様と、設計を担当された大成建設の皆様に、オールジェンダートイレ設置のいきさつや設計のポイントを伺いました。

多様化がもたらした新しいトイレへの流れ

──関電不動産八重洲ビルのコンペ要項にオールジェンダートイレが盛り込まれた経緯についてお聞かせください。

髙田 拓氏(関電不動産開発株式会社 首都圏事業本部 ビル事業部 建築技術グループ チーフリーダー)
髙田 拓氏(関電不動産開発株式会社 首都圏事業本部 ビル事業部 建築技術グループ チーフリーダー)

髙田氏:コンセプトを考えるときに、当時コロナ禍前でしたが、働き方改革などが言われはじめ、働く場所も人も多様化していく流れがありました。それをどのようにビルの設計に盛り込んでいこうかと考えていく中で、オールジェンダートイレの設置に結び付きました。
5年前になりますが、まず性的マイノリティについて勉強していこうと、LIXILさんのセミナーに参加しました。そこで性的マイノリティの方の6割がパブリックトイレを利用する際にストレスを感じていることが分かりました。
2015年に竣工した京橋MIDビル(設計・施工/大成建設株式会社)では、身体障がい者対応のトイレを各階に設置しましたが、これからは身体障がい者だけでなく、性的マイノリティの方のストレスも軽減するトイレにしていきたいと考え、コンペに盛り込むことにしました。
働く人の多様化を社会的なテーマとして取り上げ、「働き方提案型オフィス」の中でまず「オフィスワーカーとは健康な日本人男性」という固定的観念から脱却することが重要だと述べました。その中で、コンペ要項におけるサブタイトル「働く人の多様化をできることから」では、オールジェンダートイレについて触れさせていただき、性的マイノリティに配慮した共用トイレを設置することなどを想定しました。コンペ参加企業には、これまでの実績や経験を活かして、テナント企業のダイバーシティの取り組みに資するアイデアや提案を求めたのです。ですから当初より“トイレに対する配慮”ということに絞った要項になっています。
前出のLIXILさんのセミナーで、トイレ利用についての性的マイノリティの方へのアンケートでは、男性トイレも女性トイレも使いたくない、さらに、車椅子対応の“誰でもトイレ”も使いにくいという回答が多かった。その人たちは、コンビニのトイレやカフェのトイレのように不特定の人が使う男女共用トイレが一番使いやすいということでしたので、それに近いものができればいいと思い、コンペ要項に盛り込みました。

コンペに臨む「ONE(ワン)」という思想

──中藤様にお聞きします。今回のコンペ要項に対して大成建設としてはどのように対応されましたか。

中藤泰昭氏(大成建設株式会社 設計本部 建築設計第一部 設計室長)
中藤泰昭氏(大成建設株式会社 設計本部 建築設計第一部 設計室長)

中藤氏:これまでの設計施工ではどうしてもハードウエアに偏りがちな提案になっていました。髙田様よりお話いただいたように、働き方や働く人の動きを考えて提案するというのは非常に難しく、私たちには挑戦的なお題に感じました。効率さえよければよいというこれまでのトイレの提案ではダメなのではないか。そこで「ONE(ワン)」というキーワードを提案書の表紙に付けました。その思いは、まず建物としてオンリーワンであること。例えばここの場所でしかつくれないような、外部の空間と一体となった働き方ができるオフィスビルにする。東京駅側から出入りすることで、働く人が誇りをもって働くことができるなどを考えました。同時に「ONE(ワン)」の意味合いとしては、一人ひとり皆違う個性を持っているので、その人たちが心地よく働ける空間にしたいという思いがあり、それが例えば“オフィスキッチン”と呼ばれるような空間の提案になりました。また、囲われた場所で仕事をしたい人もいれば、カフェやバルコニーのようなオープンな空間で仕事をしたい人もいます。全体としてはそういう多様な希望をかなえるような提案になっていると思います。
今回は「多様性」が大きなテーマだったこともあり、こだわりを表現するために、提案書の表紙を全部同じにせず6、7パターンつくりました。

髙田氏:まさに「多様性」というテーマに対して、トイレ以外にもたくさんの項目をリクエストさせていただきましたが、大成建設さんにはあらゆる点で取りこぼしなくご提案をしていただいたと思っております。

新しいオフィスワーカーを考慮したこれからのオフィストイレ

──オールジェンダートイレ「Restroom+(レストルームプラス)」に求められる役割とは

髙田氏:トイレの名称については議論がありました。社内でもジェンダーレストイレや、WC1、WC2、ジェンダーフリートイレ、ジェンダーニュートラル、誰でもトイレ、LIXILさんが提案しているオルタナティブ・トイレなど、さまざまなアイデアが出されましたが、どれもいかにも性的マイノリティに配慮しましたという答えで、それはそれで使いにくいトイレになってしまうのではないかという意見もあり、もう少し使いやすくなるような名前にしようと、できたのが「Restroom+(レストルームプラス)」です。“+(プラス)”にはただのトイレではなく利用者にとってうれしい“+(プラス)”が加えられたトイレを用意しています、というメッセージをこめました。

金子千穂氏(関電不動産開発株式会社 首都圏事業本部 ビル事業部 建築技術グループ リーダー)
金子千穂氏(関電不動産開発株式会社 首都圏事業本部 ビル事業部 建築技術グループ リーダー)

金子氏:オフィスのトイレを考えたとき、10人いれば10通りのトイレが考えられると思います。関電不動産八重洲ビルに入居していただいたテナント様 約100名に、入居から1、2か月経ったタイミングで、女性トイレを使ってみた感想をアンケートで答えていただいたのですが、その中に、トイレの中でストレッチをしたいというニーズが半数以上ありました。その理由までは聞いていませんが、男性は比較的気にせずストレッチできるのに対し、女性は服装が乱れる心配があるので、トイレに行ったついでにリフレッシュできる程度の軽い運動がしたいというニーズがあるのだと思います。
また、弊社の執務室の中に仮眠室がありますが、使われているところを見たことがありません。女性が生理痛で少し休みたいときに仮眠室に入ると、心配されて理由を聞かれることなどがありますが、仮眠室がトイレの中にあれば、まわりの目を気にせずに使うことができます。心理的にはオールジェンダートイレを利用することと似ているところがあり、そうした配慮が必要だということが女性トイレのアンケートからわかってきました。

植田氏:基準階の女性トイレには「ドレッシングルーム」を一つ設けていますが、トイレブースの増設のための予備的空間という位置づけでした。ですがアンケートを見ると、そこに椅子を置いて欲しいとか、休憩に利用したいなどの要望が多くありました。出産後に復職される方も増えてくるだろうし、もう少しゆったりした広さで腰を落ち着けて休憩できる空間を考えていく必要があると思っています。

金子氏:一方で「ドレッシングルーム」という名称なので、利用者さんは着替える場所というイメージが強く、着替える場面がないから使ったことがないという意見も結構ありました。多様な使い方を説明・提案することで利用率がもっと上がると思います。
先のアンケート調査から、20代の若い世代にとってトイレは用を足すだけではなく、ついでにストレッチ等のリフレッシュをする方が多いことが分かりました。反対に、40代くらいの女性からは、トイレは用を足すところなので、そんなリッチな空間にしなくてもいいと言われ、利用者の年代によって考え方の傾向に違いがあります。同じお化粧直しでも20、30代は、髪を巻く、ヘアオイルをつけて髪型を直す、コンシーラーを塗るなど、やることの幅が広い一方、40代以降の方はリップクリームをつける、眉毛を描く、髪をとかすだけといった、サッと済ませる傾向があります。
私たちが開発した物件ではないのですが女性社員の多い会社では、お昼休みになると髪を巻くコテやドライヤーを持って並ぶというのです。若い方が多いエリアと、中高年の方が多いエリアでは、使われ方もデザインも違っていいのかもしれません。

基準階の女性トイレ
基準階の女性トイレ
基準階の女性トイレ
基準階の女性トイレ

基準階の女性トイレ(4点とも)。トイレ内は広々とした空間に洗面やパウダーコーナー、歯磨きコーナーが設置され、壁には個人で使えるプライベートボックスがある(写真下左)。ブース手前ドアにはドレッシングルームを設置(写真下中)。ドレッシングルーム内部(写真下右)

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公開日:2023年06月29日