関電不動産八重洲ビル×LIXIL
多様化する時代に求められる、オフィスのオールジェンダートイレ
関電不動産開発株式会社/大成建設株式会社
オールジェンダートイレの設計で検討したこと
──藤本様にお聞きします。大成建設として取り組んだオールジェンダートイレのデザインについてお聞かせください。
藤本氏:コンペ案では現在の「Restroom+」よりもう少し小さいブースを数多く入れていました。ちょうどトランスジェンダーの方々が喫茶店やコンビニの男女共用トイレが実は使いやすいという話題が出てきた頃です。各階のフロアにあるよりも、1階のエントランスホールで、自動販売機などの近くに、誰でも使えるトイレがあったら使いやすいのではないかと考えました。海外のオフィスではすでに男女の別がないトイレが一般的になりつつあることを知っていましたし、それに何かプラスαしたリッチな空間にしたいという要望を関電不動産開発様からいただきましたので、それに対して設計で応えようと努めました。
杉本氏:テナントとして入られる皆さんが気軽に使えるトイレ、使いたいと思える場所はどういうものなんだろうというところから社内で議論を重ねました。
当初は、トイレ器具以外で何を入れればよいかを考えたとき、タッチ操作できるスマートミラーを設置して健康管理できるのもいいのではないかという意見もありましたが、結果を気にしすぎる人も中には出てくるかもしれないということで採用には至りませんでした。
社内でのヒアリングでは、汗をかいた服を着替え、少し涼めるような空間、化粧直しができたらいい、という声が多くありました。そこでいきついたのは、見た目のスイッチ、気持ちのスイッチ、身だしなみを整えて気持ちを切り替えることができる空間でした。オールジェンダートイレのデザインについては「スイッチ」というデザインコンセプトにしたいと大成建設様にお伝えしました。
オールジェンダートイレは2つのブースを用意しました。一つは“ナチュラル”で、バイオフィリックデザインなどを取り入れて気持ちが安らぎ、リフレッシュできる明るい色調の空間。もう一つは“ラグジュアリー”で、ホテルライクな少し緊張感のある暗めの設えの空間です。おかげさまで思い描いたトイレが実現できたと思います。
雰囲気が違う空間でどちらが好みかアンケートを取った結果、ホテルライクのほうは男性に好まれ、バイオフィリックデザインは女性が好むことがわかりました。性別関係なくバイオフィリックデザインのほうが圧倒的に好まれると予測していたので、結果は意外でした。
酒井氏:実は「スイッチ」というコンセプトをいただく前に、私どもから提案させていただいた「CAREとCURE」というコンセプトがあります。ワーカーさんの中には持病がある方や、赤ちゃんを連れたお母さん、お父さんも想定できるので、バックグラウンドにとらわれず、さまざまな方にとって使いやすいトイレを考えました。例えば、仕事中に気分が悪くなって少し休憩したいというときに座れるソファが置いてある、また、お子さん連れで出勤してもいいように、おむつ替えのできるシートが備えてあるトイレです。前者のように一人になって休憩したい、仕事に対するエネルギーを回復させたいなどの場合は、少し暗がりのほうが落ち着いて良いのではないか、後者の場合は、緑にあふれた明るいトイレの方がいいだろうと考え、2つの空間イメージを提案させていただきました。「スイッチ」というコンセプトをいただいた後でもその考えは生かされています。
オールジェンダートイレのデザインでこだわったところは、コンセプトを実現するためのディテールと素材選びです。特に洗面台は、切り出してきたボリューム感のある大理石の上にLIXILさんの白い洗面器が載っているというイメージのものを作りたかったのですが、天板を人工大理石にすると側面の化粧材と柄が合わない、天板と側板を柄合わせできる化粧材にすると小口面で化粧材の基材(表面色と異なる色で、柄のない芯材)が見えてしまうという問題があり、製作業者との打ち合わせや関電不動産開発様とサンプル確認を重ねながら、現在の形になりました。
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公開日:2023年06月29日