INAXタイルコンサルティングルーム大阪 オンラインセミナー
「ベルリン・モダニズム集合住宅と変貌を遂げるダッチデザイン国・オランダ」
安藤眞代 (インテリアデザイナー、studio Ma 代表)
ダッチデザインがユニークな理由
ダッチデザインがここまでユニークとなった理由はいくつかあると思います。戦禍によって新しい建築が必要とされた点、狭い国土での住宅不足、移民を受け入れてきた多様性などです。その中でも、オランダでは公共建物の建築費の約5%をアートに使わなければならないルールが特徴的です。そのため、オランダでは街や公共施設のいたるところにアートの要素があります。図書館や美術館などの家具も、ダッチデザインを身にまとったユニークで遊び心があるものがセレクトされています。この国の取り組みがダッチデザインの先進性を後押ししているところがあると、街を歩きながら強く感じました。日本にはない制度ですので、私もクリエイターという立場としては羨ましく感じる部分がありました。
―アイントホーフェン、ピート・ハイン・イークのデザインスタジオ
ロッテルダムの次は、アイントホーフェンに向かいました。アイントホーフェンはオランダ最大のデザインイベントDDW(ダッチデザインウィーク)の開催都市となっていて、街中にアートや建築の見所があるダッチデザインシティーの1つです。ここでは工業用廃材などを使った作品で有名なピート・ハイン・イークのデザインスタジオを視察することができました。
デザインスタジオ兼工場は元々フィリップスの工場を改装したもので、大きな空間にはデザインスタジオやショールーム、レストランが併設されています。建物のいたるところに廃材を使った、ピート・ハイン・イークの小さな作品(物や家具など)が無造作に置かれていて、売っているのか並べているのか迷うような不思議な雰囲気になっていました。
このように彼の作品は、スクラップ木材や廃棄物の素材を利用したリサイクル、サスティナブルな環境を意識したものになっています。一つずつ手作りのため、大量生産では出せない表情豊かな作品が多く、そこが人気となっています。左の写真の家具は彼を一躍有名にした、スクラップ木材を利用したテーブルと椅子です。さまざまな廃材を利用しながらも、手をかけ、配色を含めたデザインは、シンプルに手にしたくなるようなおしゃれさを感じます。サスティナブルとデザインの本質について問いかけてくるようなデザインだと思いました。
レストランでもスクラップ物や工業廃棄物を利用した家具がみられました。
左が女性用、右側が男性用です。シンプルながらも直感的に伝わる可愛らしいトイレサインです。
―アムステルダム、 MVRDV「オクラホマ」(1997)
旅の最後は、アムステルダム郊外にあるMVRDVのオクラホマという高齢者向け集合住宅を訪れました。ユニークな建築が多いオランダの中でもひと際目を引く建築として有名です。
MVRDVの初期の代表作といわれています。
建物がカラフルでバルコニーがバラバラに配置されおり、立体的なファサードをつくりだしていました。住宅は100戸あるのですが、当初の計画では87戸だったところを、途中クライアントから100戸にしてほしいとリクエストがあり、足りない13個を付け足して飛び出すように設計し、それが採用されたというものです。建物本体から道路側に突き出た住戸部分の長さは最大で11mあり、キャンティレバー(片持ち構造)が特徴的なデザインでした。
高齢者住宅においても遊び心を感じさせる斬新な設計が受け入れられるのは、建築家とクライアントの双方にデザイン的な理解があることを思わずにはいられません。
このコラムの関連キーワード
公開日:2021年03月24日