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「ベルリン・モダニズム集合住宅と変貌を遂げるダッチデザイン国・オランダ」
安藤眞代 (インテリアデザイナー、studio Ma 代表)
ダッチデザイン国・オランダ
オランダには一昨年(2019年)の10月、ロンドンデザインウィーク視察後に訪れました。一般的なオランダのイメージは、風車やチューリップ、運河というものかもしれませんが、建築やデザインの分野では先進的なでユニークなものが次々と生まれ、「ダッチデザインの国」としても知られています。そのデザインを肌で感じたいと思い、アムステルダムに住む知人の車で色々な場所に足をのばしました。
―ロッテルダム、MVRDV「マクトハル」(2014)
アムステルダムからロッテルダムを目指しました。ロッテルダムは世界的に活躍するMVRDVという建築家集団の本拠地であり、多くのモダンな建築がありました。歴史的にはベルリン同様、第二次世界大戦の戦禍に見舞われたため、戦後に現代的な建築が建てられている街です。
左はロッテルダム中央駅。駅がこのように独創的な建築です。右の写真のような建物に配管が巻き付いているような建築など、街中どこを見ても水平垂直な建物が見つからないという印象でした。知人に聞いても、「まっすぐで四角い建物はない、他を見渡しても変わった建物しかないのがロッテルダムだ」と言っていました。
その中でもひときわダイナミックでユニークな建築が建築集団MVRVDVによるマクトハル(2014年オープン)です。MVRVDVは1991年に設立した設計事務所で、名前の由来は設立時の3人のメンバーの頭文字から取られたものです。ロッテルダムの中心地にある巨大なアーチ状の外観が印象的な、集合住宅とフードマーケットの複合施設です。
アーチの外側が約200戸以上の集合住宅、アーチの内側つまりトンネル状の真ん中部分は全てマーケットになっている斬新なデザインに本当に驚きました。高さが40mほどもある巨大なトンネル内は2階構造で、1階は約100店舗もの店舗が出店する市場、2階はフードコートやレストランが入っています。屋内食品市場としてはオランダ随一だそうです。外壁には全て天然石を使用していて、内部には全て写真のような鮮やかで美しい壁画が描かれています。
集合住宅部分にあたる外壁には大きな窓やテラスなどがあり、光を多く取り込めるようになっています。アーチ状の内部のマーケット側には各住戸のリビングダイニングが配置されるように設計されているそうです。リビングダイニングから見下ろすとマーケットにつながっているというのは大変稀有なデザインです。
巨大なトンネル空間の外側に住む人と、内側のマーケットを行き交う人が交差する空間性は、集合住宅の中に街が内包されたものでした。土地不足といわれるオランダだからこそ、集合住宅と街の構築アプローチとして独特で素晴らしいものだと実感しました。
―ロッテルダム、ピート・ブロム「キュービックハウス」(1984)
マクトハルの広場を挟んで向いには、黄色の立方体が斜めに重なり合ったようなユニークな建築があります。こちらはピート・ブロムという建築家による集合住宅、キュービックハウスです。
目の前でみると存在感が圧倒的でした。3階建なのですが、敷地の地上部分の一部は交通量の多い道路であり、トラムの路線にもなっているのです。道路の上の歩道橋の役割もありながら、その上がキュービック上に集合住宅になっているという、デザインだけでなく機能としても他に類を見ない建築です。
建物内部は見学できるようになっています。内部も外から見た通り、斜めに傾いています。
立ち上がると頭をぶつけそうな壁がいくつもあり、そういった面白さが逆に人々に受け入れられ、完成から30年以上経った今も大人気で住みたいと訪ねてくる人が後を絶ちません。家具も壁が傾いているため、最初から机などが造り付けになっていました。逆に採光面では一般的な垂直面の窓と違い、斜めになっている分、光が多くとりこまれ、空間が明るくなっている印象でした。寒さの厳しいロッテルダムではより機能的な設計といえます。
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公開日:2021年03月24日