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「ベルリン・モダニズム集合住宅と変貌を遂げるダッチデザイン国・オランダ」
安藤眞代 (インテリアデザイナー、studio Ma 代表)
世界遺産「ベルリンのモダニズム集合住宅群」
ベルリンには世界遺産に指定されているモダニズム集合住宅群が6ヶ所あります。その多くが1920年代後半から1930年前半、ドイツがまだワイマール共和国だった頃に建設されました。設計に携わったのはブルーノ・タウト、ハンス・シャロウン、バウハウスの初代校長ヴァルター・グロピウスといった有名な建築家たちでした。ベルリンは20世紀になって急速に人口が増えたため、労働者、低所得者向けの公営住宅として計画されたものでした。6つの公営住宅は建築自体の評価はさることながら、のちの世界の集合住宅における様式に大きな影響を与えた点でも高く評価され、世界遺産に指定されています。
―ブルーノ・タウト「ジードルング・シラーパーク」(1924-1930)
今回私はこの中の2ヶ所の集合住宅を訪れました。最初はブルーノ・タウト設計の「ジードルング・シラーパーク」でした。ジードルングはドイツ語で集落という意味です。当時、ベルリンの西側には高級住宅地が広がっていたため、6ヶ所の公営住宅は市の北側や東側、南側に建設されました。いずれも最寄り駅からほど近く、駅から遠いイメージのある一般的な世界遺産よりも利便性の高さが特徴にあげられます。
現地に着いてまず目に飛び込んでくるのは、 レンガ造りで重厚感がありながらもシンプルなデザインのファサードです。装飾を排したシンプルな箱型のシルエットは、100年前のベルリンにおいて初めて採用された形でした。まさに、建築的モダニズムの幕開けを象徴するような外観です。住宅は3階建てでバルコニーが各住戸についた新しいデザインで、間近で見ても100年の時を感じさせないとてもモダンで芸術性の高い住宅でした。
敷地内をまわるとわかるのですが、集合住宅の各棟は広い緑に囲われるようにゆったりと配置されています。広くて開放的な中庭もありました。緑の中を散策している人も見かけられ、空間としての心地よさを感じました。建築だけでなく、ランドスケープ、都市計画にも重きを置いて計画されたことが見て取れます。当時としてそこまでのグランドデザインを描くことがいかに斬新だったかに思いを巡らせました。
住む人々にとってもこの集合住宅が快適であったことは言うまでもありません。それを裏付けるように、この住宅には世界遺産に指定された今でも多くの方が入居しています。100年前の建築当時から現在まで連綿と次の世代へ継がれ、また若い方からお年寄りまで人気があるということには驚かされます。話を聞くと、価格的にもリーズナブルなため、入居待ちが出るほどだそうです。
あいにく建物の中に入ることはかなわなかったのですが、外から見ることのできる範囲で見学をしていると、丁寧に手入れされながら住み続けられていることがわかります。
各住戸にベランダがついていますが、サンルームにしている部屋もありました。窓周りに花を飾って綺麗にしています。
これは玄関です。レンガ素材を活かした、重厚ながらもモダンな今でも通用するデザインになっています。
玄関の奥を覗き込むと、レトロで美しいタイルが階段ホールから壁面にかけて貼られていました。住戸のエリアによってタイルの色は変えられていました。現在では当たり前になっている内装の配色計画が、当時から周到に考えられていることがよくわかります。一枚一枚がその当時のタイルとは思えないほど美しく丁寧に手入れされていました。
―「ヴァイセ・シュタット」(1929~31)
次に訪れた世界遺産のモダニズム集合住宅は「ヴァイセ・シュタット」でした。ヴァイセ・シュタットはドイツ語で白い街という意味で、1929~31年に建築された集合住宅です。マルティン・ヴァーグナーが責任者となり、オットー・ルドルフ・サルフィスベルク、ブルーノ・アーレンツなどによって設計されました。その名の通り真っ白な建物が並び、他の建物とは異なる白一色で統一された集合住宅群です。
この集合住宅は敷地内に店舗や託児所、診療所、カフェ、ランドリーといった施設が整備され、生活しやすい環境が整えられています。集合住宅でありながらも一つの街としても機能しており、のちの世界の公共団地のシンボルとなっています。住宅の配置写真を見ても、道路の幅は広く、緑豊かな中に、ゆるやかな曲線状に棟が配置されているのがわかります。日本ではUR都市機構(旧日本住宅公団)が戦後に公団住宅を展開しましたが、その原点であり手本となったのはこのベルリンの集合住宅群でした。
完成当時から話題を集めたヴァイセ・シュタットですが、使用した建材も大きなポイントとなっていました。建築費のかさむ建材を避け、新建材として当時出初めだった鉄筋コンクリートを駆使し、機能的で新しいデザインの建築にしたのです。現地で見ていても外観の窓枠やドアの配置、またその配色といったデザイン要素が多くちりばめられているのがわかりました。
外壁は基本的には白ですが、画一的にならないようにアクセントとして、窓枠やドアの色がオレンジや青になっています。外壁の白と対照的でとてもモダンで優れたデザインです。また棟によっても色に変化をつけることで全体として飽きがこないようになっていました。
部屋のタイプはワンルーム、2部屋、3部屋タイプなどバリエーションがありました。各部屋にキッチン、トイレ、バスルームがつき、当時の低所得者向けの住宅としては画期的でした。さらに各部屋に給湯設備、暖房設備が整っており、衛生的で豊かな生活ができるよう配慮されていることがわかります。
建築当時のままのキッチンです。折り畳み収納式のテーブルがあります。部屋が狭いため、小さなキッチンでも作業がしやすいように考案されたものです。当時、無駄のない間取りと収納計画が素晴らしいと評価されました。
内装の配色計画でも独特のデザインが光ります。階段の手すりは赤と黒が用いられ、日本の神社のような印象も受けますが、細部の色まで建築家がこだわっていたことを強く感じます。また、そのデザインが100年経った今でも古びていないことに驚かされます。
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公開日:2021年03月24日