住宅をエレメントから考える(後編)

間仕切りのイメージ

塩崎太伸(建築家)

『新建築住宅特集』2016年4月号 掲載

っぽくない

部屋っぽくない

「服部邸」 藤井由理
層状に並ぶ相似形の白い壁によってできる均質な隙間は、適度に各用途を間仕切りつつ、ひと繋がりの部屋のようなまとまりとなる。
「WBE HAUS 連続壁の家」
鵜飼昭年
ポリカーボネートの可動間仕切りが、スキップフロアの各レベルを分節する。その開閉によって、それぞれの部屋が伸び縮みする。
「弟の家」 久野浩志
パーティションのように曖昧に部屋を分節するU字の壁によって、上部ではワンルーム、下部では3つの部屋となるように空間が分節される。
「House I」 篠崎弘之
多角形平面の対角線に位置する間仕切り壁からアーチがくりぬかれている。中心のドーム状の空間の周囲は個人の空間が放射状に広がる。
「T house」 藤本壮介
片面合板貼りの薄い間仕切り壁とその配置が、リビングや個室などの用途を曖昧に滑らかに繋ぎつつ、適度な距離感をもって場をつくる。
「茶屋が坂の家」 近藤哲雄
連続する壁がヒダ状にワンルームの住宅内に展開。外部を抱え込むことで、窓の向こうの外部のさらに奥の内部空間といった連続性をつくる。
「横浜の住居」 長谷川豪
2階中央の十字壁に付帯する筋交いの斜めのラインが、4つの居室を分節しつつ、緩やかに繋ぐ。
「那須のティピ」 中村拓志
テントのようなヴォリュームを形成する斜め壁は、ひとつの部屋の中に高さの変化を生み出し、部屋同士の交点では、集落のような眺めが展開する。
「カメハウス」 河内一泰
3枚の壁と1枚のスラブでできた2層の空間の中央を六角形の立体で切り取ることにより、建物全体をワンルームとして繋げている。
「仙台の住宅“オオキナキ”」
末光弘和+末光陽子
田の字プランの中央には、上にいくほど大きくなる十字壁があり、それぞれの階ごとに異なった分節をつくり出す。

壁っぽくない→窓・扉っぽい

「HOUSE T」 篠崎弘之
棚床、棚梁がグリッド状に積層されながら大きい空間を巡って、場所を3次元的に間仕切り、シーンが緩やかな分節をともなって連続する。
「比叡平の住居」 島田陽
切妻型のスラブが、2階では丘のような床、1階では屋根のような天井となり、素材感の異なるふたつの世界を関係付ける間仕切りとなる。
「梅林の家」 妹島和世
さまざまな開口をもつ16mmの鉄板が仕切る小部屋が、視線と動線により関係し合う。その薄さが一般的な間仕切りと異なる距離感を生む。
「片瀬山の家」 千葉学
個室とリビングの吹抜けが交互に連なり、2階レベルでは複数の窓を通して視線が奥まで繋がる。視線が繋がるための間仕切り。
「船橋アパートメント」 西沢立衛
壁の大きな開口が間仕切りとなり、キッチン、浴室、寝室の3つの機能の異なる部屋を仕切る。逆梁を跨ぐ体験的な移動を生み出す。
「house N」 藤本壮介
3重入れ子の壁にたくさんの開口が開き、開口のそのまた奥に開口の向こうの部屋が見える。間仕切りの内側と外側が反転しながら壁に挟まれた空間が連続的に展開する。
「八王子ツリーハウス」 安藤毅
多くの台形の壁柱の間仕切りにより、光が変形して室内に射し込み、その様相によって室内のスケールや外部との繋がりが多様に感じられる。
「下田町の家」
岩崎浩平+阿部任太+名和研二
入れ子の箱の隙間に寝室、階段、浴室などが配され、それぞれを間仕切る箱の壁に開けられた開口によって複数の用途間を視線が通る。
「窓の家」 吉村靖孝
海への眺望を得るために、内外の間仕切りは最小限の袖壁のみ。この袖壁による空間が開放的な空間とは対比的な奥まった居場所をつくる。
「SHAREyaraicho」
篠原聡子+内村綾乃
シェアハウスの共有スペースに面する壁面は半透明のテント地。裾の部分をジッパーによって開閉してめくり上げることで内外を行き来する。
窓っぽくない→動かせる「はだかの家」 坂茂
大きな一室空間に4つの最小限の畳敷き可動室が置かれ、その引戸の開閉で家族との距離を調整。引戸を外して2つの可動室を繋ぎ、外に移動させるなど、フレキシブルな生活をイメージさせる。

間仕切りが「仕切る」ことと「繋げる」こととを同時に成し遂げるものであるとした時、仕切る性格の強い「間仕切り」に対して、繋ぐ性格の強い「間繋ぎ」というものを設定できるだろうか。何もないよりもそれがあることによって空間の繋がりがより感じられるエレメントとしての「間繋ぎ」とは、仕切る「間仕切り」が間仕切りっぽくなくなっていった先にあるかもしれない。そうした不完全・未完成の間仕切りのイメージを集めてみた。

背景:「house N」 藤本壮介

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公開日:2016年08月31日