Reborn-Art Festival 2017「牡鹿ビレッジレストベース」レポート

公共トイレが複数の役割を担い地域を繋げる

藤原徹平(建築家、フジワラテッペイアーキテクツラボ)

『新建築』2017年10月号 掲載

インタビュー:
地域と繋がる芸術祭

河合恵理(ap bank、Reborn-Art Festival事務局)

地域住民と密接に繋がった芸術祭

ap bankは、2011年以降東北でできることを探りながら復興活動を続けてきました。そんな中、代表・小林武史が、ご縁あって2012年の「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」を訪れる機会がありました。彼はそこで、実際に生活している地域の方々と出会える経験と、その方々との積極的な関わりの中で生まれたアートに非常に感銘を受け、当時東北は被災して間もなく復興も進んでいない状態でしたが、この東北の土地でこそ、同じように地域の方々と密接に繋がった芸術祭を開催するべきなのではないかと考えたことがきっかけでした。ap bankが復興支援活動で元もとご縁があったのが石巻で、既に地元のいろんな方との繋がりがあったということもあり、そこからさらに、お話をしたり、地域の歴史を教えてもらいながら関係を築き上げていき、石巻だったらどう実現できるかを考え始めました。
2015年頃から展示場所や会場の細かな選定を始めましたが、これがなかなか思うように進まず苦労しました。というのも、当時は今以上に復興事業の工事が至るところで行われ、また、震災の影響で地権者が分からなくなっていたりと、被災後の複雑な状況の中で芸術祭に使用できる場所というのがとにかく少なかったのです。この「牡鹿ビレッジ」も、元もと地域の人たちが集まる集会所だったのですが、石巻と牡鹿半島の先端までを繋ぐ「牡鹿ビレッジ」として人がたくさん集まる拠点となるよう願いを込めて場づくりに着手しました。

継続することで地域へ根付いていく

今、日本中にたくさんの地方型芸術祭があり、RAFとしてはなんとか他と差を付けなければいけないと考えていました。また、アートだけを展示しても、きっと人は来てくれないだろうということは分かっていたので、その土地でしか獲れないものをちゃんと食べられる、といった「食」が地域へ入り込んでいくための要素だと考え、「アート」と、われわれがずっとやってきた「音楽」と、そこに「食」を加え、その3つを楽しむことのできる芸術祭にすることとしました。
このRAFは最低でも10年継続できる芸術祭にしたいと考えています。われわれap bankはずっと野外音楽フェスを10年以上開催し続けてきました。音楽フェスというのは、どう頑張っても3日間くらいしかできないイベントです。もちろん限られた期間でわっと盛り上がるのもすごくよいのですが、一方で、それだけでは地域に深く入ったり、根付いていくということには繋がりにくいとずっと感じていました。どうすればこのRAFが、地域の人にもしっかり浸透し愛されるものにできるかと考えた時に、やはり「継続する」ということが大事になるのです。また、現在、RAFの運営事務局の半分くらいは、私のようないわゆる外からきた人間で構成されているのですが、そういった運営の主体もどんどん地元の人たちのものになっていくことを期待しています。会期中も石巻市から毎日20?30人くらいの職員の方が一緒に運営を行ってくださっているのですが、やはりそういうかたちでバトンが渡っていくことが大事だと思うのです。RAFを継続していく中で、時間をかけて一緒にやっていく体制を整えていき、その場所で愛され続けて育っていき、気付いてみると地元の人たちだけでやっていた、という感じになっていけばよいと思っています。

(2017年8月7日、「はまさいさい」にて)

インタビュー:
浜の女性の雇用創出

島本幸奈(フィッシャーマン・ジャパン)

「フィッシャーマン・ジャパン」は三陸沿岸の若手漁師たちによって2014年に設立され、斜陽する三陸の水産業を盛り上げようとしている漁師の集団です。漁師さんたちと一緒にお仕事をさせてもらう中で、やはり浜は漁師さんたちだけでなく彼らをサポートする女性の手仕事に支えられているということを実感しました。その浜のお母さんたちと一緒に「はまさいさい」で、浜の家庭料理をお届けさせていただいています。みなさん牡蠣漁師さんの家庭の方ですから、牡蠣漁の繁忙期(10?3月)でない期間に、お仕事として勤務いただいています。この牡鹿半島で獲れる豊かな海産物の食材本来の美味しさをよく知っているお母さんたちと一緒に、この「牡鹿ビレッジ」ができたことで、県内外から足を運んでくださる人にお届けできているということに非常に意義を感じています。また、こうやって本来は漁がお休みの時期ですが、この場所があることで、新たな生業として女性の方の雇用の創出に繋がることができればと思っています。

(2017年8月7日、「はまさいさい」にて)

インタビュー:
新たな賑わいとやりがい

江刺みゆき(荻浜区長)

東日本大震災によって、今まで住んでいた人たちがバラバラになってしまい、住人の数も少なくなってしまっていた状況だったので、私としては、このRAFがきっかけでいろんな方がこの荻浜に集まってくださることがとても嬉しいです。そんなに大したことはできませんが、地元の「食」に関しては何か手伝えることがあるのではないかと協力させていただいています。牡蠣漁の合間に「はまさいさい」で働くことも、私にとっては非常に楽しいです。牡蠣漁のない時期はどちらかというと暇な時期です。家でじっとしているのも嫌なので、こういうところで勤めさせていただくことで、時間が決められた規則正しい生活ができるし、なによりいろんな方と出会えて自分たちが地元の素材でつくった料理を食べてもらうことに非常にやりがいを感じています。

(2017年8月7日、「はまさいさい」にて)

浜のお母さんたちによる食堂「はまさいさい」。RAFとフィッシャーマン・ジャパンによる共同運営。
「はまさいさい」内観。広場と一体的に使用されている。

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公開日:2018年05月31日