これからのパブリックのトイレを考える
公共空間における個人の自由を求めて
鈴木謙介(社会学者)| 永山祐子×萬代基介×羽鳥達也(建築家)× 門脇耕三(建築学者、監修)
『新建築』2017年5月号 掲載
提案3:個人を尊重する完璧なプライバシー
かくまうトイレ
羽鳥達也 笹山恭代 加瀬美和子
花岡竜樹 松井一哲 和田恵里佳/日建設計
LGBTの問題に限らず、スマホの普及による満室状態の増加や、孤立を悟られないための「便所メシ」など、働く場でのストレスはトイレにまつわる現象に現れている。多様な人びとが働くオフィスで、個人の尊厳を最大限尊重することができれば、LGBTの問題は自ずと解消でき、ワークプレイスの多様性を支えることにも繋がるのではないか。私たちはまず完璧にプライバシーが保たれる「かくまうトイレ」を考えてみた。ブースに便器と手洗いを集約し、INとOUTのルートを分け、さらにひとりずつしか入れないようにすることで、誰がどこに入ったのかも分からず出会うこともない。ブースを高性能遮音空間とすることで、プライバシーは完全に保たれるというもの。大音量で音楽を聴いたり、聞かれたくない電話ができたり、酸素カプセルにもなったりと、高性能な密閉空間が実現する新たな可能性も見えてきた。
一方でオフィスはイノベーションのきっかけとなる交流をどうつくり出すかが目下の課題である。現在のオフィスは各フロアで機能が完結しているため、効率的だがフロアを超えた交流が生まれにくい。そこでトイレを打ち合せブースや会議室、休憩スペース、喫煙室など間仕切られる空間とともに何層かおきにまとめることで、フロアを超えた交流を促せるのではないかと考えた。下のパースのようにO2ブースや絶叫ブースなど、前段の密室空間が実現するおひとり様空間を機能別にも配置でき、打ち合せの場などで囲うことによって、トイレに行ったのかもよくわからない、より繊細な人も同居できるトイレ、ひいてはより多様な事情を抱えた人の同居を許すオフィスを実現できるだろう。フロアをまたいで集約することで、体の必要トイレ器具数は半減し、プランのようにゆったり計画しても専有面積が増えることが分かった。こういったフロアを持ったオフィスでは、異部門間や異業種間の交流をより多く育むだろう。このように個人の事情を尊重するオフィスを考えることは、働く場により豊かな多様性と高い創造性をもたらすことに繋がるのではないか。
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公開日:2017年12月25日