対談 5

パブリック・トイレから考える都市の未来 ──
オフィス、サービス、そして福祉的視点から

浅子佳英(建築家、進行)× 吉里裕也(SPEAC,inc.)× 中村治之(LIXIL)

男女共用トイレという解法?

浅子

ここで会場からの質問をお受けしたいと思います。

質問者1

私は障害者の就労や自立を支援する施設で働いているのですが、福祉や障害について、いまの社会がどういう認識をもっていて、どう知ってもらったら障害のある方たちが生きやすくなるのかを知りたいと思っています。そのためにも、みなさんが福祉というものをどのように捉えていらっしゃるのか、お聞かせいただけますか。

吉里

冒頭の浅子さんの紹介にもあったとおり、僕は福祉の専門家ではありませんから、あまり難しいことは言えません。ですから感覚的な話をさせていただきます。僕たちが子どもの頃は、だいたいクラスにひとりか2人くらい障害のある子がいました。よく家に遊びに行ったのですが、そのときにその子のお母さんに泣くほど喜ばれた記憶があって、自分としては普通のことをしているのになぜなのかと不思議に思ったりしました。その一方で、現在、自分の子どもの学校の場合は、障害のある児童のクラスを分けることが多いらしいんですね。しかもその子の親がそうしてほしいと言っているというんです。でも個人的には、やはりそこはフラットにしたほうがいいと思います。それは多様な人がいることを隠すのではなく、当たり前のものとして受け入れることが大事だと思うからです。

リディラバという、さまざまな社会問題に関するスタディ・ツアーを企画している会社があります。そのなかには障害者の施設を見学したりお手伝いしたりするツアーもあるんですね。彼らには、いままで蓋をしてきたものを見て体験する機会をつくることで参加者の意識を変えていこうという企図があります。個人的にはそういうやり方のほうがいいと思っています。

中村

私はパブリック・トイレを研究したり提案したりする部署にいるのですが、多目的トイレにしても障害者の方向けの器具にしても、いままではどうしても、いかにもそれらしい仕様になっていたんです。そしてそのことになんとなく違和感をもっていました。昨日もたまたま視覚障害者の方とお話をしていたのですが、目が見えないという以外は、われわれとなんら変わらないわけです。ですから、「障害者向けだからデザインはシンプルなほうがいい」というような勝手な思い込みにとらわれずに、そうした方々の喜びや楽しみをうまく引き出していけるようなプロダクトや空間を提案していきたいと思います。

浅子

これも家成さんから聞いた話なのですが、精神病とされる人たちを施設へ入れることに反対する運動がイタリアで起こり、実際にバザリア法(1978)という精神科病院を廃絶する法律ができたらしいんですね(「福祉の現場から考える──多様性を包摂する空間」)」参照)。その根底には、精神病とされる人もそうじゃない人も原理的に区別はできないのだから一緒に暮らしたほうがいいという思想がある。吉里さんの学校の話に近いですが、そういう人たちを特殊として切り分けてもなんの解決にもならない。もちろん個別にケアが必要なケースはあるにしても、それを特殊と捉えるか、ある種の個性として捉えるかでは全然違っていて、今後進むべき道は後者だと思うんですね。みんなが同じでなければいけないという近代モデルにとらわれているかぎり、そこから離脱する人も必然的に生んでしまう。そこはスパッと諦めて、みんながバラバラのままでも回っていく社会を追求したほうが、福祉の問題もうまくいくのではないかなと思います。

質問者2

小売業に従事する者ですが、LGBTsの人たちにとって男女別のトイレが使いにくい現状があり、当座の解決策として男女共用トイレがあるというお話がありました。また、背景を理解してもらえば男女共用トイレの許容度が5割まで上がるということでしたが、逆に言うと半分の人が背景を理解しても難色を示すわけですね。そのときに、すべてのお客様が利用しやすいトイレというのは、どういうものが考えられるのか。アイデア・レベルで構いませんので、ヒントをいただければ幸いです。

浅子

みんなの意識が変わらないかぎり、100パーセントの答えはないでしょうね。そのうえで言えば、やはり男女共用でやってみるのが一番いいのではないかと思います。どういう小売業かにもよりますが、男女で分けても共用にしても不満は出てくるわけですよね。だったらいまの時代状況を考慮して共用にしたうえで、そのことをアイデンティティにしたほうがいいような気がします。

中村

私もこれというひとつの答えはないと思っています。まずは選択肢をなるべく用意することで、男女別と共用トイレの両方を設置できれば一番いいでしょう。それにはある程度のスペースが必要になるので現実には難しい面もあるかとは思います。ただ、LGBTsの方でも必ず共用トイレを望んでいるとはかぎりませんし、共用トイレを望む人のなかにはLGBTs以外の方もたくさんいらっしゃいます。ですので、男女共用トイレを「LGBTsトイレ」と言ってしまうのは間違いだろうと思うのです。それだけは声を大にして言っておきたいです。

吉里

共用にしたほうがいい理由には、LGBTsなどの問題のほかに、稼働率の問題もありますよね。稼働率の問題とはすなわちスペースの問題です。稼働率を予測して男性用・女性用をそれぞれつくっても、先ほどのシェアオフィスの話ではありませんが、どうしても無駄なスペースができてしまう。実際に僕たちが関わったゲストハウスを例にして言うと、男性の宿泊客が多くなるのか女性が多くなるのかわからないので、とりあえず部屋に2段ベッドを置いて、シャワーもトイレも共用にしたんです。トイレとシャワー室と洗面所に入口を2つ付けて、片方を女性用にして洗面所を大きくした。もう片方は男性用で洗面所に向かっている。中に入ると、可動式の板で仕切られてコの字形になっていて、要するに、その板で男女比を調整しようと考えたわけです。



《タンガテーブル》のトイレスペース
《タンガテーブル》のトイレスペース図面

《タンガテーブル》のトイレスペース。青い囲み部分が水回りで、真ん中の赤線部分に(フックを外せば稼働できる)仕切りがある。(提供=吉里裕也)

浅子

男女共用にしてスペースの無駄を減らすことで、すべてのブースを広くできるのであれば、共用にする意味が一層出てくるかもしれませんね。僕自身は狭いトイレが苦手なので、そうなってくれれば個人的に嬉しいです。それから男女別にしたときに、女性用をピンクにしたり妙な女性性を強調することがありますが、あれはやめたほうがいい。トイレでは男性性や女性性のイメージをそこまで前面に出す必要はなく、単純に機能的で快適な空間を追求すればいいと思います。

最後のお二人のご質問は、イベントの素晴らしい締めになったと思います。本日は本当にありがとうございました。

記念撮影

2017年11月9日、渋谷ヒカリエにて

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公開日:2017年12月27日