「ユクサおおすみ海の学校」水回りユニット「ライフコア」レポート
廃校利用の可能性を広げ小学校はより公共的な場所へ
川畠康文(Katasudde 代表、大隅家守舎 代表、プラスディー設計室 代表)×
石井健(Kadasudde 役員、ブルースタジオ 執行役員)+大島芳彦(Kadasudde 役員、ブルースタジオ 専務取締役)×
白井康裕(LIXIL)
『新建築』2018年9月号 掲載
関連インタビュー1:
障がいのある人たちの地域社会との接点
大山真司(Lanka 施設長)
鹿屋市内で運営している障がいのある人の支援施設「Lanka」は、支援学校を卒業してから就職までを繋ぐための場所です。障がいのある人にとって、いきなり就職して実際に働くことができるかどうかという不安は大きく、職業訓練のようなかたちで、就職への不安を払拭できる場所をつくりたいと考え、Lankaを設立しました。
僕は川畠さんとは旧知の仲で、一緒に鹿屋市のまちおこしイベントを主催していて、今回Katasuddeの役員としても参加しているのですが、この「ユクサおおすみ海の学校」プロジェクトの企画段階で、ここに障がいのある人の働く場所をつくりたいと考えました。都市部でもなかなか障がいのある人の働く場所は多くありませんが、地方ではなおさら少なく、障がいのある人がみんなと同じように働くことができ、社会と繋がることのできる環境がここでつくれるとよいなと思ったのです。
1階の元配膳室だった場所に「kiitos」という本格的なチョコレート工場、そして音楽室だった教室には「suddo/」というシルクスクリーンや電解マーキングという製版体験ができるワークショップスペースをつくりました。そこで、Lankaのメンバーさんである障がいのある人たちが、チョコレートを製造したり、ワークショップの手伝いや、トイレやシャワールームなどの宿泊部屋の清掃を行って働いています。
来年の4月にはここで「Koule」という自立訓練事業をスタートさせる予定です。障がいのある人がここへ通い、午前中はそういった仕事をして、午後にはビジネスマナーを学習して生きていくための勉強をして、自信を持って社会へ出ていくための橋渡しをすることを考えています。また、ここが障がいのある人の働く場所になれば、彼らが通うために地元に住まい、地域の方とのコミュニケーションを通して社会へ出ていきやすい状況をつくることができると同時に、空き家を障がいのある人の住まいにして、人口減少が課題となっているこの地域に定住者を増やすことができるのではないかと思っています。
(2018年7月15日、「ユクサおおすみ海の学校」にて)
関連インタビュー2:
町内会と民間の協力体制
上薗勝己(天神町町内会長)
旧菅原小学校を中心として、南側の別荘地帯から、北側の荒平神社があるエリアまでが天神町の範囲です。天神町と近隣の小野原町、船間町の3町内会が合同で菅原校区であり、その校区の人はみんな旧菅原小学校に通っていた卒業生です。この旧菅原小学校は2013年に廃校になり、閉校式後、誰もいなくなってしまって、グラウンドも草や藪が生えっぱなしの状態でした。それを見て、これはなんとかしなければいけないと思い、菅原校区の3町内会で、菅原校区活性化協議会を立ち上げました。この地域は少子高齢化が進んでいて、地域活性化には高齢者の方が元気である必要があるため、3町内会の子どもたちがもう一度ここに遊びにくることができる環境をつくろうと考えました。高齢者の方にとって、子どもの声が聞こえてきたり、遊んでいる姿を見ると、自然とにっこりとして元気になるのです。実際には、年間行事を組み、この旧菅原小学校のグラウンドや体育館を利用して、グラウンドゴルフや軽トラ市、地域対抗運動会、津波避難訓練、潮干狩りなど、いろいろな活動を続けてきました。
そんな時に、Katasuddeさんがこの旧菅原小学校を利用した事業をスタートされ、私たち町内会の意見も聞いてくださり、みんなでこの場所を利用して地域を活性化しましょうとお互いに協力しています。私たちの町内会でも、潮干狩りにしても300?400人はいつも参加者がいますから、町内会の求心力と、Katasuddeさんの「ユクサおおすみ海の学校」での求心力の相乗効果があれば、うまくいくのではないかと期待しています。また、今後は地域外から訪れる方もたくさん増えると思いますので、地域の海産物や農産物の収穫を実際に体験し、味わうことができるアクティビティに参加していただければ、この地域や大隅半島の観光のアピールに繋がり、そこから地域の産業が潤うようなことも考えられると思います。
(2018年7月15日、「ユクサおおすみ海の学校」にて)
関連インタビュー3:
各観光拠点を繋ぎ大隅全体の活性化を
中西茂(鹿児島県鹿屋市 市長)
現在、全国多くの市町村で、人口減少や少子化により廃校がどんどん増加している状況にあります。鹿屋市でも11の小学校が廃校しました。その中には、錦江湾沿いの美しいロケーションに恵まれた場所に建つ旧菅原小学校がありましたが、2013年3月に惜しまれながら閉校いたしました。何とかしてこの環境を生かすと共に、同校を再生したいと考えていたことから、利活用事業についての公募をさせていただき、今回Katasuddeさんが提案してくださった「ユクサおおすみ海の学校」が実現しました。ここは、Katasuddeさんという民間や県と市だけでなく、地元の卒業生や町内会、漁業協同組合、鹿屋体育大学自転車部など、さまざまな人の思いが詰まっていて、みんな一緒になってここで何かを展開するという非常に新しいかたちでの事業となっています。
本日「ユクサおおすみ海の学校」は無事開校日を迎えましたが、本日が完成というわけではありません。一度でこういった観光交流拠点施設をつくり上げてしまうのではなく、日々整備を進め変化し、毎年生まれ変わった姿を見ることができるような施設である方が、ここの地域にも合っていてよいと考えています。
また、この施設単独であれば、ひとつの点でしかありません。しかし大隅半島には他にも、大河ドラマで話題となった雄川の滝や、本土最南端の佐多岬がありますし、内陸部には新しく完成するトレーニングセンターや自衛隊の歴史史料館があり、内之浦にはJAXAの拠点があります。それぞれの施設は小さいですが、これらの整備が進み、それぞれの点が線として繋がれば、次第に面となって広がっていくのではないかと期待しています。今後、地域が主体的に観光の企画・運営をするための組織も立ち上げる予定であり、大隅全体の活性化を図ってまいります。
(2018年7月15日、「ユクサおおすみ海の学校」にて)
建築陶器のはじまり館
やきものの街であり、INAXブランドのふる里でもある愛知県常滑市に設けられた、株式会社LIXILの企業博物館「INAXライブミュージアム」。その一角に、近代日本の建築や街を支えた「建築陶器」と呼ばれるタイルとテラコッタを展示する「建築陶器のはじまり館」がある。
「建築陶器のはじまり館」は屋外と屋内の展示エリアで構成され、屋外展示エリア(テラコッタパーク)では、「横浜松坂屋本館」(1934年竣工、2010年解体、設計:鈴木禎次建築事務所)のテラコッタや、「朝日生命館(旧常盤生命館)」(1930年竣工、1980年解体、設計:国枝博)の巨大なランタン、鬼や動物などの顔が壁面に10体並ぶ「大阪ビル1号館」(1927年竣工、1986年解体、設計:渡辺節建築事務所[村野藤吾])の愛嬌あるテラコッタなど、13物件のテラコッタが、本来の姿である壁面に取り付けた状態で展示されている。屋内エリアでは、フランク・ロイド・ライトの代表作のひとつとして知られる「帝国ホテル旧本館(ライト館)」(1923年竣工、1967年解体)の柱型の実物展示を中心に、明治時代につくられた初期のテラコッタから、関東大震災を経て1930年代の全盛期に至る、日本を代表するテラコッタ建築とその時代背景が紹介されている。このような、近代建築で実際に使用されたテラコッタを長年にわたり継続して収集・保存・公開してきたことなどが評価され、「INAXライブミュージアム」は2013年「日本建築学会賞(業績)」を受賞している。
また、「建築陶器のはじまり館」の建屋のファサードには、同ミュージアム内の「ものづくり工房」で製作されたテラコッタが使用されている。建築陶器の歴史的価値だけでなく、現代の建築におけるやきもの装飾材の可能性も体感できるため、屋内外をぐるりと散策しながら見学されてはいかがだろうか。(編)
所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130
tel:0569-34-8282
営業時間:10:00 ? 17:00(入館は16:30まで)
休廊日:水曜日(祝日の場合は開館),年末年始
入館料: 一般600円、高・大学生400円、小・中学生200円
(税込、ライブミュージアム内共通)
※その他、各種割引あり
web:http://www.livingculture.lixil/ilm/
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公開日:2019年04月26日