フランク・ロイド・ライト生誕150周年記念

帝国ホテルの「インペリアル タイムズ」を支える「LIXILものづくり工房」の仕事

『コンフォルト』2017 August No.157 掲載

復原のなかに、未来を拓く

ものづくり工房で「光の籠柱」のテラコッタと特殊形スダレ煉瓦を復原成形している現場を見せてもらった。担当の 芦澤 あしざわ 忠さんと竹内一男さんは、20年以上のキャリアの持ち主。オリジナルを調査し、形状の詳細や原材料の成分などを分析したうえで、現在の材料で復原を行っている。伝統技術から得たデータは次の技術開発のヒントにもなる。二人はライブミュージアム2007年の企画展「水と風と光のタイル─ F・L・ライトがつくった土のデザイン」展で中心的な役割を果たしている。
前掲の回顧録によれば、ライトは数種のテラコッタをオーダーし、木製サンプルを送ってきた。「敷瓦…以外の物になりますと何れも深刻なる技術を要しスダレ煉瓦を造るようにそう簡単にはゆかぬ」と製作所は頭を抱えるが、やがて常滑陶器学校の優秀な技師を招聘し、解決を見た。
LIXILものづくり工房ではまさにその光景が再現されていた。テラコッタの成形は一人で1日10個がやっと。「作業効率を上げるために、当時は工程別に分業したでしょうね」と芦澤さん。
竹内さんがつくる特殊形スダレ煉瓦(下の(6)?(9))は、石膏型の複雑さに驚かされる。「型抜きができても道半ば。最後の仕上げがいちばん時間がかかるんです」と細やかにへらを動かす。やってみて初めてわかる細部の技法があるという。

「LIXILものづくり工房」

創業から100年培ってきたやきもの技術を現代に受け継ぎ、新たなものづくりに挑戦している。特注製作から活動範囲を広げ、2006年にINAXライブミュージアム内に“工房”を構えた。伝統技術の復原と伝承、復原再生から得た技術の蓄積と応用、国内、外の建築家、デザイナーとのコラボレーションを行う。INAXライブミュージアムの企画展と連携し、ものづくりの側面から文化活動にも取り組んでいる。工房メンバーは、それぞれに得意分野を活かしながら活動する。

(1)LIXILものづくり工房の芦澤忠さん(右)と竹内一男さん(左)。芦澤さんは工房生え抜き。トータルな技術力で工房を支える。竹内さんは科学分析を専門とし、復原に重要な役割を果たす。
(2)?(9)テラコッタと特殊形スダレ煉瓦の成形。「帝国ホテル煉瓦製作所」に書かれている成形法は「木型(木製サンプル)の寸法に収縮分を見込みたる大きさの原形を造り、次にはそれらの形を抜く石膏の鋳型を拵え、それに原土を詰めて抜きとり、その後いちいち竹べらで不完全なる部分に修正を加え一つ宛丁寧に造りあげる方法」。ほぼ同じ方法でつくる。
(2)テラコッタの石膏型の隅々まで指で粘土を詰める。
(3)詰め終わり、余分の粘土を塩ビ板で削る。
(4)逆さにして30分ほど置いて静かに脱型。
(5)ものづくり工房で復原したテラコッタ。この形状は旧本館の平面図がモチーフといわれる。
(6)特殊形スダレ煉瓦の穴抜け部分の石膏型パーツを抜き取る。
(7)脱型後、角や隅などをへらで整える。
(8)特殊形スダレ煉瓦を成形後、乾燥させる。その後、窯に入れる。
(9)工程ごとに収縮するやきもの。成形直後から焼成後では、寸法で12%ほど縮んでいる。粘土材料によって収縮率は異なる。
(10)スクラッチタイルの押出し成形。
(11)並べて、スクラッチ棒で引っ掻く。
(12)復原したスクラッチタイル。ライトの「スダレ煉瓦」がきっかけとなり、建築の外装タイルとして流行した。

取材・文/清水 潤 撮影/梶原 敏英(特記をのぞく)

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公開日:2018年03月31日