日本の窓を、考える<1>
景色を絵にして、花の香りを感じる窓
マニュエル・タルディッツ(建築家、みかんぐみ)
『コンフォルト』2016 Febrauary No.148 掲載
マニュエル・タルディッツさん(建築家)
みかんぐみのタルディッツさんの自邸は、8つの壁面に開けた窓から、住まいの中に風景が飛び込んでくるようだ。
あらためて見直したい窓の魅力や、新鮮な発想の窓のあり方について語ってもらった。
窓は内と外を連続させて自然を楽しむもの
私たちの自宅を見ると、窓がもっている基本的な役割を、ある程度知ってもらうことができるでしょう。平面が八角形のRC造で、窓と壁を交互に配置しているのが特徴です。1階とスキップフロアの空間には4つの窓があり、それぞれの窓に隣家やお向かいの家の樹木を「借景」にしながら、小さな庭をつくっているのです。たとえば、スキップフロアの西側の窓にはすばらしいケヤキの樹が見えるでしょう。お向かいの畳屋さんの家の樹で、私たちはこの樹をねらって窓をあけました。風景の隠したい部分は、自分の庭に木を植えています。壁を挟んで北側の窓から見えるシュロもお隣のもので、ヤシノキみたいな姿がおもしろいですよね。 また、1階フロアのキッチンの横と、ダイニングに面してそれぞれ掃き出し窓を設け、花や果実が成る小さな庭をつくっています。隣家のジャスミンを背景に、オリーブやユズの樹を植えてあり、季節の移り変わりも目に入ってきます。
4つの窓に共通しているのは、内から外を楽しむために設計していることです。それも、見るだけではなく、できるだけ感じる窓でありたい。内部を延長して外部へつなげる、さらに内外を連続させて自然との関係をつくることが窓の大きな役割だと思います。風景を見て楽しみ、花や実の色・香りを楽しみ、風の流れ、気温といった自然を感じることが大切です。高さの違う窓を開ければ、外気と室温の差により、空気が動く。窓にはそんな機能もありますね。この家にはエアコンがなくて、夏は暑いけれど風が通るので、Tシャツ1枚で過ごしています。
日本の住まいが伝統的にもっている長所は、庭との関係性が強いことでしょう。ヨーロッパでは内外を分ける意識が強く、外は外。自分たちの場所は内部とはっきり分けて考えます。安全面ではヨーロッパのほうが危険ですから、どこかで外と遮断する必要があり、日本のようにはできない。日本で、そのいいところを忘れて、夏も冬も内外を遮断するような家が多くなったのは残念なことですね。省エネや構造強度も重要ですが、窓が暮らしを豊かにするものだという意識も大切にしてほしい。私はできるだけ、そのような窓をつくれたらと思っています。
「絞り窓」はシーンをねらい、「パノラマ窓」は視界を広げる
風景を見る窓のことをもう少し掘り下げると、私が「絞り窓」と呼んでいるタイプと、「パノラマ式の窓」の2つがあります。絞り窓は、あるシーンを見せたくて、フレームを絞り、絵のように切り取る窓のこと。借景もそうですね。このスキップフロアの窓(上写真)はそれほど絞っていませんが、絞り窓の1つです。それに対して、パノラマ式とは窓を連続させ、全面ガラスにして視界を開き、遠くの景色がすべて見えるようにしたものですね。現代の建築の窓は全面オープンが多く、それも選択肢のひとつですが、全部開いてしまうやり方は、私にはなんとなく雑な感じがするんです。私の建築では、意図的な絞り窓のほうが魅力的じゃないかと思っています。世界の建築家でもルイス・バラガンとか、ル・コルビュジエにもありますね。日本では吉村順三も絞り窓の名手でしょう。
加茂・タルディッツ邸
所在地/東京都世田谷区
竣工/2006年
設計/加茂紀和子(みかんぐみ)
マニュエル・タルディッツ(みかんぐみ)
原下拓哉(原下拓哉建築設計)
構造・規模/RC造2階建て
延べ床面積/98m2
このコラムの関連キーワード
公開日:2016年05月31日