日本の窓を、考える<1>
景色を絵にして、花の香りを感じる窓
マニュエル・タルディッツ(建築家、みかんぐみ)
『コンフォルト』2016 Febrauary No.148 掲載
先端技術と伝統的な手法を融合させ、窓を遊ぶ
自然を楽しむだけでなく、窓そのものがおもしろい「遊び窓」もあります。
2014年に竣工した「フランス国立極東学院京都支部」の窓はその例で、2つのタイプをつくりました。住宅密集地の木造3階建てで、西側だけが狭い道路に面し、三方に隣家が迫っている。採光はほぼ前面だけで、それも西日が入ります。学院は仏教を中心とする東洋学の研究施設で、図書館、オフィス、会議室で構成されています。蔵書が多く、これを日射しから守るために前面に特殊ガラスを使いました。日射しの強さによってセンサーが働き、自動的に可視光線の透過を抑えるという先端的な技術を採用したんです。前面窓際の空間は本棚と階段室で、3層を通したバッファゾーンをつくっています。外の通りからは人が上り下りする姿が見え、日射しが強くなると不透明に変化するところにおもしろさも感じられるでしょう。
フランス国立極東学院・京都支部(EFEO)
所在地/京都市左京区北白川別当町
竣工/2014年
設計/みかんぐみ
構造・規模/木造3階建て
延べ床面積/293m2
もう1つは、ステンドグラス作家のデュルト・森本康代さんに依頼し、18世紀からある技法の手吹きガラスを使った窓をデザインしてもらいました。ステンドグラスにはカラフルなイメージがありますが、オフィスや会議室といった空間には色が邪魔になるので、無色あるいは白色であれば、どんなテクスチャー、パターンでもいいとお任せしました。作品は各階の階段室と部屋を仕切る木製引き戸に使い、また、隣家とのプライバシーの確保が必要な南北の窓にもつけて、視線のコントロールを行いました。機能だけならルーバーも考えられますが、もっとやわらかな遊びも必要です。フランス製、ドイツ製、アメリカ製など、豊かな素材感をもつ手吹きガラスが選ばれ、透明や乳白だったり、和紙のようなテクスチャーをもっていたり、とてもおもしろい不思議な感じをつくりだしています。引き戸の方は外の風景がアーティスティックに変化して見えるのが楽しいですね。南北の窓は外部に一般的なペアガラスの断熱アルミサッシを入れて温度をコントロールし、内側にステンドグラスを立て込んでいます。だから、両方とも日本の障子と同じ使い方ですね。ガラスの繊細なモチーフが視線を遮りながら、隣家の人の目も楽しませているかもしれません。
両方の利点を持ち合わせるアルミと樹脂のハイブリットも
断熱サッシを選ぶとき、ヨーロッパの場合、アルミサッシでは断熱性が不足し、法規制をクリアできないので、樹脂サッシが使われます。強度を出すため樹脂の枠は太くなり、アルミサッシに比べ見た目がずいぶん重くなってしまいます。アルミと樹脂のハイブリッドサッシなら、両方の利点を持ち合わせていて、デザイン的にも機能的にも使いやすいのではないかと思います。
取材・構成/清水潤 写真/梶原敏英(特記を除く) イラスト/阿部伸二(カレラ)
Manuel Tardits
1959年パリ生まれ。84年ユニテ・ペダゴジックNo.1卒業。東京大学大学院博士課程を経て、 95年みかんぐみを共同設立。 2006年からICSカレッジオブアーツのマスターコースで日本建築を教える。2013年から明治大学大学院特任教授。
自邸ダイニングの窓からは、木漏れ日が差し込んで美しい。
雑誌記事転載
『コンフォルト』2016 Febrauary No.148掲載
https://www.kskpub.com/book/b479871.html
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公開日:2016年05月31日