INTERVIEW 020 | SATIS

自宅をアトリエに、建築家による住まいと仕事場の融合

設計:白井宏昌(自邸+アトリエ)

ソファを置かないリビング、どいう使われ方をするか、たまに英会話教室も開かれるとのこと

ソファーを置かないリビング。どういう使い方をするのか、毎週英会話が行われ、今後はヨガ教室も開くとのこと。

この家は建築家白井宏昌さんの自宅兼仕事場、マンションリノベーションのプロジェクトです。大学で研究室をもち、研究と設計を行っていますが、最近は大学での仕事が生活の中心となりつつあります。そこで今回の引っ越しを機に家でも働けるようにして住まいの中にワークエリアをつくりました。設計の仕事は、カタログ類や素材のサンプルなどたくさんの素材が必要になります。また膨大な量の図面も必要になります。しかし住まいの中で働くには、これらのすべてを収納するのは厳しいので図面はほぼデータ化し、サンプルは、プロジェクトごとに頼んでその都度捨てるようにしているそうです。
家族みんなで使えるワークスペースを仕事場としても使うというとても合理的な方法ですが、ものを徹底してもたないという、そのスタイルに、現代的な潔さを感じました。模型も今はCGの時代、コンピュータの中にあらゆるデータを入れて移動しながら仕事をする白井さんならではの方法です。白井さんのワークスタイルの拠点ともなる住まいを訪問しました。

2F

平面図(クリックで拡大)

廊下に洗面、合理的な間取り、使いやすいキッチン

玄関を入るとすぐに有孔ボードでつくられた壁面が一面に貼ってありそこにいろいろな小物がかけてあります。とても使いやすそうな可愛らしい場所です。玄関をあがると廊下に面して洗面があり、反対側に水まわり、そこを通り抜けてダイニング・リビングに入ります。家に帰って、直ぐに手洗いができる。ニュー・ノーマルなライフスタイルにおいて合理的な導線になっています。奥さまは大変な料理好きとのこと。キッチンはオーダーで、使い勝手のよいレンジ付きオーブン、ガスグリル、食洗機が組み込まれたものを、時間をかけて設計されたそうです。そしてキッチンの奥にパントリーを設け、冷蔵庫など見せたくない家電を置くことで、キッチン空間をきれいに保つことができるのだといっていました。もともとの家の構造と新しい空間に生まれる小さな隙間をギリギリまで計算して細やかに設計がされ、奥行きの浅い収納などもつくり、このキッチン空間にものがはみ出てこないような工夫がされています。今までの建築家としての長い経験がこの家の隅々まで織り込まれているようです。リビングにはあえてソファーをおかずにいろいろな使い方ができるようにしたそうですが、ソファーを無くすことは一大決心だったと言います。家全体に柱型や梁型を隠すために梁下に棚板が回されています。このことでマンション特有の窓上の下り壁や梁型や柱型などの入り組んだ線をうまく消しています。ドアはすべて引き込みにすることでドアを開けておいても気にならないように、また扉が動線と干渉しないようになっています。普段はトイレも含めすべての扉を引き込んで、開放的な住まいとしています。小さな工夫と納まりのよさがこの家の心地よさを作っているようです。

廊下に面して配置された洗面

玄関からリビングまでの廊下に面して配置された洗面

玄関脇に造られた収納扉は小物掛けのフックをつけられるように

玄関脇に造られた収納扉は小物掛けのフックをつけられるように

洗面台、向側にはトイレと風呂

洗面台、向側にはトイレと浴室

収納が十分あることで棚は飾り棚として使われている

収納が十分あることで、棚は飾り棚として使われている

キッチンの奥にはパントリーと洗濯機スペースがある。

キッチンの奥にはパントリーと冷蔵庫のスペースがある。

キッチンからダイニングを見る

キッチンからダイニングを見る

リビングはお子さんのお気に入りの遊び場に

リビングはハンモックで安らいだり、時にはお子さんのお気に入りの遊び場に

小さなワークスペースと寝室

リビングの奥にワークスペースがあります。その先は寝室ですが、このワークスペースには玄関から直接行き来できるような回遊動線になっています。ワークスペースは決して広くはありません。お子さんもここで勉強をするそうですから、パソコン一台分の広さです。通常「モノ」であふれかえってしまうものですが、一面の本棚には建築事務所らしいものはほとんどありません。模型もないのです。厳選された本の多くはご自身の仕事のためのものですが、お子さんがなにかの折に手にしてもらいたいという本も選んでいるとのことでした。ここまで見事にダウンサイジングできるものかと驚きでした。もちろん大学の研究室があるからできることかもしれません。またテクノロジーの進化がこうした働き方を可能にしてくれているのかもしれません。
ワークスペースの奥は寝室、ベッドが3つならび、その間はカーテンで仕切られ、また壁一面は収納・クローゼットになっていて、扉ではなくカーテンで緩やかに仕切られています。狭い空間でも個々のプライバシーを保つことができ、かつ緩やかに繋がりを感じられるように考えられています。将来の子供の状況によってこのカーテンの位置を変えることで、暮らしの変化に対応できるそうです。

ワークスペース、家族三人の椅子が並んでいる

ワークスペース、家族三人の椅子が並んでいる

カーテンで仕切られた寝室

カーテンで仕切られた寝室

丁寧に選ばれた小物が飾られている、梁下にもうけた棚板がうまく機能している

白井さんがこだわったスイッチプレート

建築家としての大きな変化

大学で研究と設計を両立するようにしたから、仕事の仕方や、またプロジェクトの内容も以前とは大きく変わってきているようでした。白井さんは建築そのものの手法に主眼があったように思います。かつてオランダ、OMAの事務所で建築を学び、世界の大きな都市で仕事をされてきた白井さんです。日本に戻ってからは、建築そのものに対する手法やコンセプトなどに関心があったようにも思います。特にユーザー自身が参加して改変できる建築の仕組みやモデュールづくりなど、また色についてもより自由な色を使って住まい手がより理解しやすい、また楽しくなるような空間づくりに興味があったように思いました。最近の建築はより社会的な課題に取り組んでいるようです。町のコミュニティースペースをローコストでつくり、社会システムとしての建築のあり方を考えたり、学生と一緒に公共空間における家具のような建築をデジタルファブリケーションを駆使してつくったりしながら社会と建築やものとの関係を見直していくような活動をしています。特に葦(よし)をつかった構造物は軽いもので大きな空間を作り出す興味深いプロジェクトで様々な場所で実験をしているようです。
時代ともいえますが、1人の建築家の歴史の変換点、縁あって白井さんの行動を大きく変えているのかもしれません。場所も機能も異なる多様なプロジェクトに取り組んでいますが、それらのプロジェクトは今までの白井さんらしい建築家としての形態や空間への追求が見られます。そうしたプロジェクトでも社会との関係について、大学での研究との接点を見出して新たな可能性にチャレンジしているようにも見られました。そして建築家、研究者であると同時に家族と一緒に暮らすこと、長い時間を誰と一緒に過ごすのかということ、その決意も感じたプロジェクトでした。

OMA時代の最後の仕事、中国北京のCTVビルの現場管理の時の思い出

OMA時代の最後の仕事、中国北京のCTVビルの現場管理の時の思い出

葦(よし)を使い、軽いもので大きなものをつくる。どこにでも簡単に移動できる建築に挑戦し、様々な実験を行っている。

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公開日:2020年09月29日