INTERVIEW 010 | SATIS
街に開く、自然とつながる、仕事場付きアパート
設計:仲俊治+宇野悠里/仲建築設計スタジオ(五本木の集合住宅)
《小さな経済》の実現のための「仕事場付きアパート」
下の図面をみてください。1階には3つのほぼ同じ大きさのユニットが並び。その一つ(UNIT3)は仲さんの事務所です。そこから2階にも上がれます。2階も一部事務所スペースとなっていますが、その奥は仲さんの自宅になっています。1階の2つのユニットは単身者または二人で暮らす「仕事場付きアパート」になっています。このように住戸の数は決して多くはありませんが、「仕事場付きアパート」という考え方が徹底されています。
2階の事務所からは、通り庭のような半外部的なしつらえのキッチンを通って仲さんの家族の各個室へとつながっています。この住居のキッチンは事務所のスタッフも来客の人も使います。半外部空間のようなしつらえにこだわったのは、この場所を外部の人が住宅のプライベートな空間にいるような感覚にさせたくないという意図です。家の外部の鉄板の外装がキッチンの中まで巡り、個室との間を隔てる格子戸は町屋のファサードのようにも見えます。床も外部用の床材を貼っています。こうしたしつらえによって気兼ねなく外部の人もこの場所にいることができるようになります。
一方格子戸の先には個室がつながります。家族4人、個室も4つです。その個室にも入り口側に本を読んだり、遊んだりできる作業スペースを設けています。外部と住戸の間に働く場所があるという全体のプログラムがこの個室空間のありかたにも組み込まれています。格子戸にはガラスも障子もありませんが適度に見えがくれし、さらに作業スペースと個室との間にはレースのカーテンが吊られています。緩やかな皮膜を2重に備えてプライバシーを確保しながら外とのつながりをつくり出しています。
この格子戸は、以前仮住まいしていた住居の障子を家が解体されるということで再利用しています。古いものを再生して使うことで新築の家でありながらどこか懐かしさを感じさせる古い家並みの佇まいを感じさせます。当初障子紙をいれようかと考えていたそうですが、中の様子が見えがくれする今の状況が気に入りそのままにしたそうです。
またこの通り庭的な空間には洗面器が置かれています。水回り空間の中に置くのでなくあえて外に出しています。そこには縦格子でつくられた移動可能な長椅子があり、そこに座って歯を磨くのが楽しいともいいます。時には家族が並んで座り歯を一緒に磨くこともあるそうです。そのベンチもどこか日本の町並に見られるはねだし式の縁台のようにも見えます。このように外と内との関係を家全体でも、また家の中でも入れ子状に重ね、それぞれの間に中間領域をつくりパブリックとプライベートのグラデーションを巧みに産み出しているのです。
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公開日:2018年03月31日