日本生命浜松町クレアタワー×LIXIL
焼き物が可能にした時を繋ぐ和の空間デザイン
焼き物で表現されたクラフトマンシップ
──LIXILのテラコッタルーバーとタイルで“和”のデザインを表現されていますね。
【武内氏】最初にデザインを提案された時、天井もテラコッタルーバーと一体的なデザインになっていて、これって本当に“和”なのかという斬新さでした。“和”っぽいのに新しいところも良かったのだと思います。
【三沢氏】増上寺の練塀が持つ縞感をデザインモチーフとしています。縞は江戸時代に流行った江戸小紋の一つです。縞を表現するうえで、布に描いた縞のように、ただ壁にペタッとつけても面白くはないので、壁のテラコッタルーバーは下地の壁を黒くしルーバーを浮かし、天井のアルミルーバーは側面を黒くし下面だけを白くしました。この操作により、物理的にはルーバーだけれども絵的な縞の持つ線の強さが増しています。テラコッタルーバーで表現した練塀の壁と、天井のルーバーとで包まれた一体性のある新しさが感じられると思います。
【橋口氏】記憶に残る空間をデザインするために、テラコッタルーバーの寸法や色はかなりこだわりましたね。まずは模型を原寸でつくって、それを離れて見てチェックして、それから現物を焼いてもらった。それをまた並べて、太さやピッチなどを決めていきました。縦(壁)と天井のピッチは違っていて、意図的に天井の方は広くしています。そういう詳細なところまでこだわって進めていきました。
【佐藤氏】デザイン提案を受けて、事業主からは「デザインにプラスαして、地域性も含め、工業製品には無いクラフトマンシップみたいなものを感じさせることができないか」という話が出ました。エイジングを楽しめて、愛着が出るような風合いや手仕事感があり、均質的な空間にならない表現をしてほしいと。それで、今回のようなイメージやデザインモチーフが、材料選びからディテールに至るまで反映されていった経緯があります。
【三沢氏】焼き物をつくるにあたっては、手仕事感、クラフト感、風合いを表現するのに、タイルに色ムラを出してみたりして、本当に手間を掛けました。例えば、壁面のタイルは練塀の瓦の燻し銀調の質感を狙っています。とは言え、なかなか色ムラを出すというのも難しく、最終的には2種類の色違いと2種類の厚さのタイルをつくり、それらをランダムに組み合わせてデザインしていきました。タイルの厚さを17mmと25mmにしたのは練塀のもつ凹凸感を出すためです。そのまま表現するのでは芸がないので、練塀の良さである陰影や横強調を取り入れました。
【橋口氏】見本サンプルは3、4回試作をしてもらいました。「エイジングを楽しむ」というのは裏を返せば、例えば、手垢がつきやすいといった維持管理上は余りよろしくない側面も持ち合わせています。だからといって、手垢がつかないように釉薬を調整していくと、今度は燻し銀調の雰囲気が損なわれて画一的になり、クラフト感から遠のいてしまう。窯の温度、焼く時間、窯の種類、窯の中でのタイルの置き方といったところまでこだわって調整してつくってもらいました。途中、めげそうになりながらも「これはいい」「あれは駄目」というのを延々と半年以上やりましたね。
【小松氏】同じ材料のタイルを使っているので、色ムラのランダム感を出すのは相当悩みました。テクスチュアもこれ一本でやると決めていたので、何度もトライ&エラーして。
【橋口氏】テラコッタルーバーは3種類(ラフ面、フラット面、スクラッチ面)の面がありますが、クラフト感や手仕事感、また均質ではないことを表現するために、それぞれの面が隣り合わないよう互い違いに並べています。スクラッチ面の筋については、引っ掻いた時のボコボコ感と、ランダムにするため線も等ピッチで入れず、その具合を何度も試しました。本数が少なすぎるとフラットに見えてしまうし、入れすぎると縞感が分からなくなってしまうので、その辺のバランスですね。
【佐藤氏】自然な風合いを出すというのが肝心なのですが、そこを見極める作業が非常に難しかった。最終的なポイントは、タイルについては2種類色違いで焼いていただきましたが、その中でも一つひとつのタイルに焼きムラが出ていたこと。それは窯の状態によるものだと思いますが。あとは、どう並べることで自然なランダムさを出せるかというところです。
美しく自然なラインを見せるための試行錯誤
──焼き物でクラフト感を表現するため、どのような点に気を付けて施工されましたか。
【佐藤氏】ある程度、焼き物の風合いが上手くいき始めた後は、配置計画の検討を重ねました。壁面のテラコッタルーバーについては、まずパソコン上でランダムなパターンをつくらせます。それを人の目で確認して、例えば、同じ種類が4つ以上近接するとそこに図柄が表れて見えてしまうので、自然に見えるように調整していく。仕上面の表現としてラフ面、フラット面、スクラッチ面の3種類、さらに釉薬を掛けるものと掛けないもの、掛けたものの左右の配置関係という条件があって、かなりパラメータを増やしました。最終的には人の感覚というところで、施工前に現寸レイアウトを見ながら決めています。これはもう現場で職人任せという訳にはいかなので、600近くあるテラコッタルーバー全部にアドレスをふって1本1本の位置を示して、施工しています。製品検査でも製造工場にて実際に焼き物を並べて、最後の最後まで議論して、配置を調整しました。かなり地道な作業でしたが、そういう意味でもクラフト(手仕事)していましたね。
【橋口氏】基壇を模した燻し銀風のタイルの高さは、全体の空間のプロポーションで決めています。練塀の壁を繋いでボコッとした基壇の石があるという位置づけです。そのバランスで、余り高すぎても基壇らしくなくなってくるし、低すぎてもというのがあり、テラコッタルーバーが若干多い、ほぼ同じ比率でバランスを取りました。
【三沢氏】最終的な高さはタイル何枚分にするかで決まってきます。それと、タイルの凹部と凸部のどちらで始め、どちらで終わりにするか、ということも踏まえながら決めました。
【小松氏】あとは、コーナーの処理ですね。
【三沢氏】タイルの凹凸でコーナーを既成型のタイルで収めるのが難しく、L字の特注コーナータイルをわざわざつくってもらいました。タイルは焼きの工程で伸び縮みがありサイズが変わるのですが、L字のタイルはさらに伸縮の差が激しく、製作コントロールが大変だったと聞いています。
【橋口氏】タイルの製作寸法誤差と設置する時の施工誤差、そこら辺を見極めて目地をどれ位取るか。目地がこれ位になるのであれば、目地から見える下地はどう見えてくるのか。そういったところで合理的な下地のつくり方や色を詰めていく作業を関係者で何度も試行錯誤しました。
──焼き物ならではの施工の工夫があったそうですが。
【佐藤氏】タイルが落下しては駄目ですから、ビルの耐震性に見合った金具や下地を決めて行かないといけませんでした。
【武内氏】工法の技術的な点としては、まず「タイルは裏を金物で引っ掛ける」という形を取り、次にレールを付けてタイルを引っ掛けるようにして落ちない配慮をしました。さらに上下のタイルを被せることによって、タイルが動いてもレールから外れないような形で積んでいき、壁の側面を決めていく。落下防止のためですが、デザインと機能がきちんと連動しているというようなことが重要だったと思います。
【佐藤氏】上のテラコッタルーバーは、よく見ると背面に下地鋼材が露出していますが、それもあまり感じさせないように配慮しています。ルーバーは裏からボルト留めする納まりですが、職人の手が入る幅の空間だけ残して鋼材と同面で背面を塞ぐことで、奥の下地感は抑えられた納まりになったと思います。
【武内氏】あとは、80mにも及ぶ横方向のラインが通るかというのは議論になりましたね。タイルがズレたりするので、そこは現場にお任せするしかなかったのですが、結果的には上手くいきました。
【三沢氏】ベースは綺麗で、よく見ると風合いがあり、かつ自然なランダムさが表現できた。タイルもテラコッタルーバーもそうですが、順送りで施工している。精度を出すための施工というのも施工側より提案いただき、目標精度の合意を持って施工いただいた。施工的には、目地を大きく取るとその部分だけ取り替えるのは簡単ですが、そうすると目地幅が大きくなって横方向のラインが通って見えない。目地を潰すために奥から順に詰めて施工すると、目地が細くなってラインが通って見えます。ただ、このやり方だと、下手をすると徐々にズレが大きくなってくる。なので、職人さんたちは最初から最後まで神経を研ぎ澄まして施工してくださったと思います。結果、空間の格式の高さ、グレード感に繋がっていく。事業主も含め関係者の皆さんには、満足していただいていると思います。
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公開日:2019年03月27日