日本生命浜松町クレアタワー×LIXIL
焼き物が可能にした時を繋ぐ和の空間デザイン
浜松町駅西口では、世界貿易センタービルを含む約3.2haの区域が「浜松町二丁目4地区」として都市再生特別地区に指定され、再開発が進められています。2018年8月には、先駆けて日本生命浜松町クレアタワーが竣工。 先進のハイグレードなビルのデザインには、地域の歴史を継承し、“江戸らしさ”が取り入れられています。オフィスの共用部エントランスは、増上寺の練塀に見立てたリブ形状の壁をテラコッタルーバーとタイルで構成。素材の質感で趣を、水平方向の直線のラインで美しい流れをつくり、格式を感じさせながらもモダンな和の空間を演出しています。
今回、実施設計を担当された大林組の武内篤史氏、佐藤怜氏、デザインアーキテクト・基本設計・技術コンサルを担当された日建設計の小松康之氏、三沢浩二氏、日建スペースデザインの橋口幸平氏に、建物共用部のデザインを中心にお話を伺いました。
想いを共有してつくり上げた建物
──日本生命浜松町クレアタワーの事業スキームを教えてください。
【武内氏】事業主は日本生命と大林組の共同事業という形になっています。そういったことから設計については我々、大林組設計部が実施設計を担当しました。基本設計は日建設計がされて、基本的なデザインに関わるところから、コンセプト・マネジメント含めてやっていただいている。その中で、エントランスなどの内装については、日建スペースデザインで取りまとめていただきながら、3社でチームを組んで連携し、一丸となってやっていきました。
【三沢氏】大林組には、基本設計の段階から会議に出ていただきました。実施設計段階では日建設計が提案するデザインのコンセプトなどを踏まえながら進められたので、基本設計から実施設計への移行もスムーズでした。お互いに共通の目標を持って、最初から最後まで一貫したデザインをすることができました。
【佐藤氏】基本設計と実施設計が、きっぱり分かれるのではなく、常に協同して方針を考えていきました。「こっちの方向じゃないよね。こっちだよね」というのを確認しながら、デザインやディテールの検討を進められました。
【三沢氏】振り返ってみると、皆さんと長い間、同じ時間を過ごし、同じベクトルを持ち、同じ想いを共有できたことがよかったと思いますね。
江戸・現在・未来へと繋ぐデザイン
──建物のデザインコンセプトはどのように決めていかれたのでしょうか。
【小松氏】都市再生特別地区において、日本の玄関口である東京モノレール羽田・空港線とJR線・都営地下鉄線の結節点である浜松町駅周辺を再整備するという目的があります。浜松町という立地は増上寺や旧芝離宮・浜離宮恩賜庭園などがあって、非常に江戸情緒が残っている。モノレールの発着駅であり、竹芝ふ頭があって、大江戸線が開通されると浅草、東京スカイツリー、六本木など、古いまちと新しいまちが結節するようになった。せっかく凄いポテンシャルのある地域なのに、浜松町駅からはその良さがあまり感じ取れない。そこで、今回のプロジェクトでは立地特性も踏まえて“和”というコンセプトが生まれました。開かれた未来にも向かいながら、伝統的な“和”も考えていく。そこから地域の特性やデザインに繋がっていくような紐解き方をしていきました。
【三沢氏】東京の前身というのは江戸ですので、まちの雰囲気や記憶みたいなものが感じられるデザインや佇まいを建物に表現したいと思っていました。 “和”なんですが、ただの“和”ではなく、増上寺の門前町として、浜松町・芝大門のまちに残る“江戸の和”を感じさせる意匠や素材、色彩などを意識しながら設計、デザインを考えていきました。
【橋口氏】京都が繊細で細いラインだとしたら、江戸は “太い”、“がっしりした”というイメージですが、その中にも粋な部分があり、素材・色彩・ディテールなどはそうしたところから決めていった背景があります。もともと東京湾に面した場所で、今回の敷地はちょうど参道沿い、その行く先には増上寺の顔(参門)がある。江戸時代、商人の町屋や寺院、庭園などさまざまなものが点在していましたが、今なお、浜松町はモノレールも通るまちの玄関口です。そういった背景を「過去を辿りつつ未来へも繋げていく」という思いへ上手く結びつけられればと考えました。
【小松氏】浜松町駅から大門通りを歩いて行くと、増上寺に近づくにつれて、練塀などが出てきたと思ったら東京タワーが後ろに見えたりして結構面白い。特徴的な地域なので、それらを建物と一体で感じさせたいと考えました。
【橋口氏】昔の浮世絵など、増上寺をテーマにしたものが沢山残っていて、江戸時代から注目される場所であったというのが分かります。きっかけは全てそこから来ていると思います。
【三沢氏】そういった地域特性から「格子と縞」が建物のデザインコンセプトとなり、増上寺の練塀に見立てた力強い縞感を表現したエントランスのデザインに繋がっていきました。
横強調の縞を表現した広がりのあるエントランス
──オフィスの顔となる共用部エントランスは増上寺の練塀をモチーフにされていますが、どういった空間になっていますか。
【小松氏】先程、デザインのテーマを“和”と説明しましたが、中間領域のような、いわゆる内と外を上手く繋げていくという日本特有の空間構成の提案もしました。エントランスが広く見えるように入口から車寄せまで一気に同じデザインにしたのは、持っている空間の広がりを生かすためです。入るといきなり向こう側まで繋がっている横強調の直線で、空間として一体に見せる。計画によってはオフィスビルでなかなかそうならないのですが、今回たまたま条件が合って、エントランス側と車寄せ側がどちらもオープンになった。そこを一体で見せることができるとインパクトが出て、よりわかりやすい世界観で空間を創出することができました。
【三沢氏】エントランス出入口から車寄せまで、進行方向は全てガラスで仕切られていて、両側を質感のある素材で壁を構成しています。広がりのある外光が入ってきて、長さ約80mの直線が抜けていく。内部なんだけど、日本の縁側空間のような、半外部的な心地よさが感じられるエントランスになっています。
【橋口氏】直球勝負ではないですが、余計なことをしない。それは先程の“江戸”の勢いというか、チャラチャラせず、裏がない。ここの跡地はもともと武家屋敷なので、そういったことも意識して、「武士が中に入って襟を正す」というようなイメージで、とにかく空間をストレートに表現しました。
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公開日:2019年03月27日