「建築とまちのぐるぐる資本論」取材 3

ソーシャルキャピタルで地域を育てる方法

福田和則(聞き手:連勇太朗)

鎌倉・葉山からスケールさせる

連:

今、エンジョイワークスの事業は拠点としてる鎌倉・葉山だけでなく全国規模へと広がっていますね。全国展開はどういう状況なのでしょうか。

福田:

最初の蔵のホテル、その次の廃工場をアトリエにした「桜山シェアアトリエ」、3つ目の鎌倉市所有の古民家を企業研修所に転用した「旧村上邸」、4つ目の公民館ホテル「平野邸」まではすべて鎌倉・葉山エリアで、運営事業者もうちの子会社です。5つ目以降、2019年からは県外の他の事業者さんが展開しています。この2〜3年で僕らはスキームの提供者に立ち位置が変わってきています。
また、「ハロー!RENOVATION」と同じタイミングで「エンジョイヴィレッジ」が全国に広がり始めました。地方のゼネコンやデベロッパーが僕らと同年代の経営者に世代交代していくなかで、物ではなく人に関心が向くようになり、自分たちの地域住民とまちを盛り上げない限り会社に未来がないことに気づき始めたのだと思います。最近はエンジョイヴィレッジをファンドで運営しようとする会社も多くなってきていて、事業規模が億単位に拡大しています。そうなると、古民家再生のような一口5万円の投資家だけでは立ち行かず、理念に共感や関心を持ったり、学びを求めた他県やエリア外の不動産会社が参入することになります。地方の企業オーナーがいずれは自分のまちでもやりたいからと、500万円単位で投資する例もあります。直近では、官民ファンドや地銀、大手企業など、投資家層が明らかに変わってきているので、それに合わせたファンドの設計を準備しています。ようやく、どのタイミングでどういうステークホルダーを巻き込むといいのか、フェーズごとの解像度が上がってきました。

連:

鎌倉・葉山で始まったローカルな活動をスケールさせ、全国に広げようとしているのはなぜですか。

福田:

近年、ソーシャルキャピタルの重要性を体感する機会が増えていますが、そうした実験に最適だったのが、鎌倉・葉山エリアです。あえて東京から離れたこのエリアを選択して住みつつ、自分の生き方をわきまえている人たちが多いまちでこそ、僕らの取り組みは受け入れてもらえやすいと直感的にもわかっていました。今後もこのエリアをベースに実験をし続けていくつもりです。
ただ、鎌倉・葉山だからできたのではなく、究極的には人の思いが大事だと感じています。やりやすさには地域差がありますし、共感の増幅のさせ方にはテクニカルな面も含まれますが、地方だからこその危機感やエネルギー、周りからの応援を感じることもあります。
人の思いの強さはわかりづらいのが難しいところです。普通の投資判断であれば、思いの強さよりも実績、数字が問われますが、僕は、共感にもしっかり目を向けるべきだと思います。
実際、仲間を十分集めたはずの鎌倉でも失敗したプロジェクトがありました。それは共感が不足して、お金を集める状況まで至らなかったからです。当たり前のことですが、やれるかやれないかは、エリアの問題ではなく人の問題だと思います。

今後のヴィジョン

連:

今も変わらずバーベキューマインドを持ち続けながら、ファンドの組成やシステムのデザインを戦略的にやられておりとても尊敬します。会社としては今後どのようなヴィジョンを描いていますか。

福田:

これから確実に地方創生を成し遂げたいと思っています。共感投資の仕組みによって地域活性を実現していきたいという仲間が着実に増えてきています。資金調達の手段としては他にもいい選択肢はあるのに、あえて手間もかかる、共感に紐づくお金を意識する人たちが増えてきたことに僕は希望を感じています。より実行に移していくためにはまだまだやるべきことがあります。まちづくりのステークホルダーを巻き込んだもっと大規模な事例を実現していかなければいけません。
近い将来で言うと、エンジョイワークスは「地域活性のためのエコシステムを提供する会社」として存在していたいなと思っています。そのためには信用力が第一で、なおかつファンドの取引の安全性を高め、より健全なシステムを構築していく必要があります。それでもスーツは着ないつもりですが(笑)。

連:

今、足りていないなと思う要素はありますか。

福田:

パーツは揃ったので、連携と展開のさせ方を考えていく必要があります。そのためには、認知度向上が大事で、PRやブランディングにも力を入れて、多くの人たちに僕たちの取り組みを知ってもらいたいです。

連:

福田さん個人としての今後の働き方はいかがですか。

福田:

近所にたくさん友だちが増えたように、全国に友だちを増やそうとしています。これからは世界中にもどんどん友だちをつくっていきたいですね。地域活性や地方創生は、将来アジア圏でも必要とされると思います。きっと僕が生きてるうちには終わらないでしょうから、僕自身は60歳ぐらいでブラジルのビーチ沿いに隠居して、音楽とお酒と共に暮らしたいですね。

文責:服部真吏 富井雄太郎(millegraph)
撮影:富井雄太郎
サムネイル画像イラスト:荒牧悠
[2023年7月12日 「なぎさ橋珈琲 逗子店」にて]

福田和則(ふくだ・かずのり)

1974年生まれ。外資系金融機関勤務を経て2007年エンジョイワークスを設立。持続可能なエリア活性化マネジメントを目指して、2017年に多様なステークホルダーが「まちづくり」に参画できる共感投資プラットフォーム「ハロー! RENOVATION」をリリース。まちづくりにおけるヒト、モノ、カネの新たな関係性構築に取り組む。

連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)

1987年生まれ。明治大学専任講師、NPO法人CHAr(旧モクチン企画)代表理事、株式会社@カマタ取締役。主なプロジェクト=《モクチンレシピ》(CHAr、2012)、《梅森プラットフォーム》(@カマタ、2019)など。主な作品=《2020/はねとくも》(CHAr、2020)、《KOCA》(@カマタ、2019)など。主な著書=『モクチンメソッド──都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版、2017)など。
http://studiochar.jp

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公開日:2023年07月31日