「建築とまちのぐるぐる資本論」取材 3

ソーシャルキャピタルで地域を育てる方法

福田和則(聞き手:連勇太朗)

まちづくりのもうひとつの資本──ソーシャルキャピタル

連:

お客さんと友だちになってご飯を一緒に食べたり遊んだりという関係はなんとか想像がつきますが、どうやってまちづくりのレベルまで参加してもらうのでしょうか。

福田:

新規のお客さんから問い合わせがあったとき、うちの既存のお客さんがまちの案内を買って出てくれたり、自分の家の見学会を自主的に開いてくれることがあります。特に毎年秋に開催している「オープンハウスウィークエンド」は、うちのお客さんが主体になって開催する合同見学会で、新しいお客さんがうちのお客さんのお家を各々訪ねます。会社は会場マップを渡すだけで、同行はしません。それぞれバーベキューやたこ焼き、コーヒーなど思いおもいに準備して、新しいまちの仲間を迎えてくれます。新しく引っ越して来られる方の歓迎会やささやかなイベントを積み重ねていくうちに「何か一緒にやれたらいいな」みたいな流れができてきます。
このエリアでは朝市をはじめ、様々なイベントが定期的にそこかしこで行われています。そういう機会に、仲良くなったお客さん同士が出店することもきっかけのひとつです。誰かがお店を開けばみんなで応援に駆けつけるし、そこで出したモヒートの評判が良ければ、カフェのオーナーが夜の営業時間に試してみることを勧めてくれたりします。テンポラリーな商売であれば材料費を回収する程度ですが、店舗をやろうという話にまで展開すると扱うお金も大きくなるので、皆さんからお預かりして得た収益を公正に分配する必要が出てきます。それはもう、ファンドそのものです。

連:

なるほど、そうした取り組みと展開が「ハロー! RENOVATION」の事業へつながっていくのですね。いつからファンドビジネスについて考え始めたのでしょうか。

福田:

2015年頃からどの法律に基づいたスキームでやるのがいいのか、自分たちのサービスをどのように表現すればいいかということを考え始めました。一概にファンドと言っても様々なものがあり、投資対象によって法律も異なります。購入型クラウドファンディングを利用して、数千万円の資金を集めて宿泊などをリターンに当てて旅館を再生するプロジェクトが2016年頃から流行り始めたこともあり、許認可登録が必要ないクラウド的手法もひとつの手だと思いました。ただ、1回限りの投資ではなく、お金を出してくれた人たちとの関係を長く続かせたいと思ったので本格的には取り組みませんでした。
転機は2017年の法改正です。それまで現物の不動産をベースにしたファンド組成は資本金1億円以上が必要で特定の規模が大きい事業者に制限されていましたが、2017年末に施行された不動産特定共同事業法では資本金が1,000万円以下、人的要件も緩和され、中小企業でも参入できるようになりました。そもそも、この法律は事業者が複数の投資家からの出資金で収益不動産を取得・運用し、そこから生まれた収益を投資家に分配できるようにしたもので、17年の法改正でクラウドファンティングを行うことができる環境が整ったことから、早速正式な登録をし、2018年5月に最初のファンドの組成と募集を開始しました。

連:

「ハロー!RENOVATION」第1号、「泊まれる蔵ファンド」のことですね。

福田:

はい、「泊まれる蔵ファンド」の元となった蔵は民家に併設された築100年近くのもので、別の不動産取引で知り合った大家さんから空き情報を教えてもらいました。ユニークな宿泊施設にすることだけを最初に決めて、具体的にはイベントを開きながらひとつずつ話し合っていきました。特に、蔵に泊まる体験は女性に受け入れられそうだと感じ、メインターゲットに定めました。知り合いのクリエイターやアーティスト、スタイリストなどを講師として招き、毎回15人規模のワークショップを開催してアイデアに落とし込んでいきました。
ウェブサイトではイベント開催告知に加え、事後レポートをブログ形式で発信したり、ひと通りのイベントが終わる時期になってからお金を出資して運営に参加してくれる人を募集しました。その成果もあって、1口5万円で募集金額600万円を1日で達成し、最終的に37人からの共感・協力を得て、2018年7月に宿泊施設「The Bath & Bed Hayama」として開業します。また、これをきっかけに、日本中で使われていない蔵を「いままでにないホテル」に生まれ変わらせる取り組みがスタートしており、現在、富山県や長野県でも開業準備が行われています。
「ハロー!RENOVATION」は「The Bath & Bed」シリーズだけでなく、これまでに約1,000人からの共感をいただき総額約3億円を集め、15件のリノベーションが完了しました。現在は、5つのファンドが進行しています。

Fig.6・7: 蔵をファンドによって再生した「The Bath and Bed Hayama」。

Fig.8・9: 一棟貸し古民家「平野邸」。緑豊かな敷地に建つ平屋。

楽しいから始まればいい、大人の投資教育

連:

一般的なクラウドファンディングと「ハロー!RENOVATION」は何が違うのでしょうか。

福田:

「ハロー!RENOVATION」は日本で最初の「共感投資」サービスです。言い換えると、クラウドファンディングを通じた遊休不動産の利活用を行う会員制サービスで、課題のある不動産に変化を加え活用していくというミッションを共有したメンバーがイベントを企画運営し、さらなる共感を集めつつ、同時にお金を集めながら事業を立ち上げ、運営まで継続していきます。
僕らの目的はみんなで一緒に事業をやること。一般的なクラウドファンディングと違うのはお金を出してもらって終わりではなく、事業に参加できる点です。一緒に事業を立ち上げ、運営にも参加してもらいます。もちろん運営状況、売上げや利益、稼働率、利用者からのフィードバックなどもすべて開示します。そのうえで次の四半期の課題を共有し、改善策をみんなで考えます。当然ながら、そうやって逐一報告して、声を聞きながら運営するのはとても面倒なことですが、いい意見も出てくるし、あくまで投資なので、事業に長期的にお付き合いいただき、当初の予定通りいけば元本も返ってきます。これまで平均して5年くらいの運用で、3%程度の利回りです。寄付型や購入型のシステムとは大きく違っていて、投資家はいわゆる「物言う株主」に近い存在です。
今は、様々なタイプのファンドを運営しているので身に染みてわかりますが、空き家をみんなで再生しようというのは、事業としては発展途上です。純粋に、そのまちの人たちがその建物のファンとしてなにかおもしろいことをやろうという気持ちが出資のモチベーションなので、将来の事業性を深掘りしたり、厳密なリターンやリスクの管理がないかわりに、それほど儲かることもありません。ただ、自分が投資したお金で「おもしろい場ができてうれしい」で終わりではなく、うちが毎回出すレポートを通じて、売上げ、諸経費、利益などを学ぶきっかけになります。言うなれば、投資初心者はお金に対するリテラシーを底上げするような教育を受けることができます。日本では投資教育が遅れているとよく言われていますが、大人になってから楽しめる身近な機会をきっかけにお金のことを学んでいただくというのが、裏テーマです。

連:

みんなで事業をすることとまちづくりはどのようにつながるのでしょうか。

福田:

僕は事業化そのものがまちづくりの手段だと思っています。みんなの共感に基づく仲間意識や信頼関係、いわゆる社会関係資本(ソーシャルキャピタル)がとても大切です。
同時にこの資本主義社会においてはお金もすごく大事です。お金がいかにまちづくりに必要かということをわかってもらい、理解者を増やすことがまちづくりにつながります。事業化のプロセスの中でみんなが社会関係資本とお金の両方をよく理解して、みんなで回していく方法を身につけていく必要があります。僕らだけではいろんなことはできませんから、そういうプレイヤーを日本中に生み出すことがまちづくりや地域活性につながります。
僕にとっての「ぐるぐる資本論」は、資本がソーシャルキャピタルとお金とセットで回っていくことです。

連:

多くのウェブサービスが広告を事業モデルにしていることによって、サービスそのものを無料で使えるような状況がここ10年くらいで広がったと思うのですが、そのことによって物事の裏側にあるコスト意識が希薄化しているようにも思えます。クレームやSNSで炎上しているような案件も、裏側にあるコストに対する認識が乏しいものが数多くあるように思います。そういう観点からも、共感型投資が教育になるというのは、とてもおもしろい発想ですね。

福田:

コスト意識を高めることは事業者側にとっても非常に大事です。購入型のクラウドファンディングや寄付によるお金は、感覚的にいただいた瞬間に自分のお金になってしまいます。私たちの事業では投資家と向き合い、状況をレポートしながらきちんと成果を出し、増やして返すことが必要になります。その意識を持ち続けること、プレッシャーが事業の成功角度を上げると思います。

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公開日:2023年07月31日