「建築とまちのぐるぐる資本論」取材 1
土地・隙間・人々のアソシエーション ニシイケバレイ
須藤剛、深野弘之 (聞き手:連勇太朗)
「建築とまちのぐるぐる資本論」第1回は、ニシイケバレイを取材した。巨大ターミナル駅・池袋からほど近いこのエリアには、そうとは思えない風景がある。
ヴィジョナリーなオーナーと才能ある建築家らがチームを組み、ボトムアップ的かつ戦略的に場所を耕やしてきた。オーナー・深野弘之さんは不動産を活用しながら人々のアソシエーションを生み出し、建築家・須藤剛さんは複数のバラバラの建物や土地を具体的な形としてアソシエーション化している。無関係だったものの間に新たな関係性を構築し、価値やコミュニケーションの循環を生み出しているのだ。
プロジェクト全体がいかに実現されていったのか、その戦略と方法を尋ねた。
先祖から受け継いだ建物や土地、エリア全体を「ニシイケバレイ」と新たに名付け、再構築していく
連勇太朗(連):
まず、ニシイケバレイとはどのような場所なのかご説明いただけますか。
深野弘之(深野):
私は深野家第17代目当主です。江戸時代、元禄年間から深野家が所有しているエリアを2020年から「ニシイケバレイ」と呼んでいます。池袋駅西口から要町駅の間、都道441号線沿いにあり、私道も含めた約2,887m²のエリアです。一番古い建造物は現在平屋の前にある木戸門で、明治末期に創建され、関東大震災や空襲も免れました。他は基本的に戦争で焼けましたが、戦後すぐに祖父が木造平屋の住宅を建てました。その平屋が今いるこのカフェ「チャノマ」です。77年経っていますが、16畳の広間は竣工当時からあまり姿は変わっていません。
須藤剛(須藤):
ニシイケバレイを構成する建物は、元々形式も構造も規模もバラバラで、住む機能しかありませんでした。用途地域は都道から30mまでが商業地域で高層建築が建ち並んでいます。その裏手の低層のエリアは第一種住居地域で店舗をつくることもできます。このエリアの住人の生活がより豊かになることを目指し、住む以外の機能を1階に重点的に付加しました。
計画としては、まず2020年2月頃、空き家だった平屋の改修に着手し、2020年7月に飲食店兼シェアスペースとして開業しました。現在はカフェ(チャノマ)の営業時間終了後、イベントなどを開催して、まちの人たちが使えるような機能も展開しています。次に、2020年10月頃には、昭和45年造の木造アパート(白百合荘)の1階を飲食店(syokutaku)、2階をシェアキッチンとコワーキングスペース(attic)へと改修し始め、2021年4月末に完成。続いて、RC造4階建ての共同住宅(コーポ紫雲)の1階の一室を店舗兼住宅として改修し、テナントを募り、今は目白の作家物の器などを扱うギャラリーFUUROによる店舗が入居しています。
14階建ての集合住宅(MFビル)は、3LDKを中心としたファミリータイプで、83戸全室南向き。気密性も高く、歩いて百貨店に買い物に行けて便利ですし、とても住みやすいです。それだけで生活は完結できますが、自然や外、人間以外の生き物を感じられる空間が大事だという話を深野さんとして、屋内でも外部を感じるよう植物が立体的に這っていくようなフレームや大きな開口部などをつくり、内と外をつなげていきました。
深野:
実はこの集合住宅(MFビル)を建てるために、平屋は29年ほど前に曳家をしています。平屋は、祖父が終戦直後に退職金を全部つぎ込んで建て、想いがこもっている建物でもあるので、これを壊してしまうという選択は取れなかったようです。曳家後は祖父母が一時住みましたが、ほどなくして私と妻が住むことになりました。20年弱住み、娘が1歳になる頃、MFビルに引っ越して、2019年、父からの相続をきっかけにリノベーションをしました。ずっと住んでいたこともあり、建物の状態はとてもよかったです。
連:
ニシイケバレイという名前には、どのような意味が込められているのでしょうか。
深野:
平屋から空を眺めると、まさにビルの谷間にいるような印象を受けます。私は「風の谷のナウシカ」が好きなのですが、「風の谷」のような人々のつながりや、植物含めた豊かな生態系をイメージしてニシイケバレイとネーミングしました。
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公開日:2023年05月31日