「建築とまちのぐるぐる資本論」取材 1
土地・隙間・人々のアソシエーション ニシイケバレイ
須藤剛、深野弘之 (聞き手:連勇太朗)
境界を薄め、関わりしろをつくる
連:
実際にはどのような手順で設計していったのでしょうか。全体のランドスケープから着手していったのか、平屋の改修からランドスケープへ発展させたのでしょうか。
須藤:
ランドスケープと平屋の改修は同時に考えていました。既存の平屋は、真ん中から居室、廊下、そして庭と同心円状に広がるような昔ながらの日本家屋の形式を持っていたので、それに合わせて、はっきり分かれていた内部と外部の境界を薄めていくような設計をしました。通路と庭も、地面に敷かれたアスファルトと万年塀で分断されていたので、新しく繊細なパーゴラや縁側をつくり、緩やかにつなぎました。道はアスファルトにスリットを入れて、庭を新設した植栽帯に結んでいきました。
深野:
平屋及び平屋外構は2020年5月に、昭和45年造の木賃アパート白百合荘は2021年4月末に改修されました。偶然そのタイミングで、平屋と白百合荘の間に建つ、4階建ての共同住宅(コーポ紫雲)の1階角部屋が空室になったので、改修することにしました。この1階角部屋もまちに開く「場」になれば、より全体がつながるという考えからです。
須藤:
共同住宅は平屋の向かい側に建っていますが、バルコニーの手すり壁を撤去して平屋側に開き、道側からアクセスできる動線をつくりました。1階の他の住まいのプライバシーを確保しながら、路面店が展開できます。
深野:
今後も空室が出たら積極的に店舗兼住宅に変更していきたいと思っています。誰に、またどういう企業に使ってもらえるかでニシイケバレイの可能性も広がります。関わりしろを期待して、301号室は、須藤さんの設計で事務所兼住宅に変えました。
東側の現在駐車場になっている場所には新築を建てる予定で、計画は2021年から始まっています。元々、父が半分、母が半分所有していて、上物はうちの会社所有です。父が亡くなり、今は底地全部を母が持っているので、いずれ相続対策として上物を建てる予定でした。
須藤:
自己実現できる場所やそれによって住人と顔が見えるような仕掛けを入れながら、これまで築き上げてきたものを包括するように新しい建物を設計中です。
大家こそ、ラーメン屋店主を見習え
連:
一連のお話を伺って、色々な挑戦をされていることがわかったのですが、悪い部分も含め、予想していなかったことはありますか。
深野:
悪いことはあまりないですね。あったとしても忘れました。
こんなにも多くの方、旧知も含めはじめましての方とも出会いや関わりが増え、様々なコトが生まれ進んでいくスピード感は予想していませんでした。
連:
プロジェクトを通して、深野さんご自身の考え方や価値観は変わったのでしょうか。
須藤:
いい意味で変わっていないと思います。深野さんのなかにあったものが溢れてきていますね。
深野:
そうですね。大家にとっては寛容さや好奇心がすごく大事。連さんと@カマタをつくられた茨田禎之さんからヒントを得たことも大きいです。茨田さん曰く、ラーメン屋それぞれに個性があるように、大家も個性があった方が良いと。大家の個性が溢れ出ている方がエリアがおもしろくなるので、ニシイケバレイでは基本的に私の好きなことしかやっていません。ピンと来たことしかやらないのです。嫌々やっていること、気が合わない人とやることは長続きしないし、いい化学反応が起きません。大家自身がその熱量をある程度の水準で持続していけるかどうかは死活問題で、正直、私のテンションが下がるとニシイケバレイのテンション全体が下がってしまうと思います。
連:
チャノマの塀を取り払ってたがが外れたのですね。
深野:
そうかもしれません。おもしろい人たちにどんどん使ってもらいたいと思っています。現在、カフェの営業時間後は茶道教室や瞑想教室、ヨガイベント、麻雀教室を開催したり、毎週火曜日にはホスト週替わりのスナックも開いたり。新築予定地の駐車場では、アラマホシ書房が「ホンダナ」という貸し本屋をオープンしています。おもしろがれる気持ちをもちながらまちに場所を開いているからか、多種多様な人や様々な世代とどんどんご縁が生まれます。
連:
最初にニシイケバレイが何かをお伺いした時、あまり明確に答えられなかったのは、そうした複雑さや多様性があるからですね。
深野:
最初の構想では、私設公民館にして多世代に使ってもらいたかったのですが、実際にはカフェとして主に若い女性のお客様に支持され、とても私設公民館とは言えないような状況になっています。ありがたい話ではありますがもうちょっと場をかき回してみたい身としては、今は営業時間後に当初の思惑をリベンジしている感じです。
このコラムの関連キーワード
公開日:2023年05月31日