住宅をエレメントから考える

〈塀〉再考──4組の建築家が考えるこれからの塀のあり方

三家大地(建築家)×金野千恵(建築家)×秋吉浩気(建築家)×増田信吾(建築家)

『新建築住宅特集』 2019年4月号掲載

三家大地氏

三家大地氏

金野千恵氏

金野千恵氏

秋吉浩気氏

秋吉浩気氏

増田信吾氏

増田信吾氏

『新建築住宅特集』ではLIXILとの共同で、住宅のエレメントやユーティリティを考え直す企画を掲載してきました。「玄関」(JT1509、1510)、「床」(JT1603)、「間仕切り」(JT1604)、「水回り」(JT1608、1609)、「窓」(JT1612)と、さまざまなエレメントの機能的な側面だけでなく、それぞれがどのように空間に影響をもたらしてきたのかを探りました。次に取り上げるのは住宅の「塀」で、1回目(JT1809)では「塀」を分析しました。2回目となる今回は、4組の若手建築家に新しい塀のあり方について提案をしていただきます。まとめは第1回で塀の分析を行った増田信吾氏にお願いしました。

※文章中の(ex JT1603)は、雑誌名と年号(ex 新建築住宅特集2016年 3月号)を表しています。(SK)は新建築です。

第1回(JT1809)で増田信吾氏と齋藤直紀氏によって作成された、塀について示唆的な住宅をピックアップした架空の街並み。[クリックで拡大]

住まいと都市の狭間にある塀

住宅を成すさまざまな機能や要素は、社会と文化を背景に人びとの無数の試行で発展を遂げながら進化してきた。その中で、日本の風景の大部分をつくる住宅の境界を形成する「塀」に注目する企画である。
「〈塀〉再考」と題し、2回にわたり住宅における塀と、そこから広がる住宅地や都市のこれからについて考えている。第1回(JT1809)では「住宅と都市の境界」に着目し、2000年1月号から2018年8月号までの『新建築住宅特集』および『新建築』の中から挑戦的な試行と思われる39件をピックアップし、住宅と通りとの境界を分析した。それに加え、住人が自らのふるまいによってつくり込んだ境界の塀や、自然発生的に生まれたものも現在の住宅地から採取した。どちらも多様な視点から境界の思考が導かれているが、ひとつの敷地とひとつの個人住宅から導き出されているものもあるため、隣り合う住宅や街のあり方まで一変させるためには、あたらめて住宅を群で考えてみるべきだと思った。そこで、第1回では個々の境界のあり方のコンテクストが近いものを連ね、創造的な境界線をつくり出している住宅を集めた架空の都市を描いてみた(上図)。塀は住宅要素の中で広がりをもつ固有の存在だ。敷地境界で近隣の敷地や通りと物理的に接していて、それが連なって住宅地となり都市の大部分の風景をつくっている。境界線の密度の高い思考が連なり現れた街並みは、呼吸するような生き生きとした姿をしている。このドローイングは、リサーチを網羅的視点で描いてみることが目的だったが、塀をきっかけに住宅と都市のイメージが大きく広がる可能性を感じた。
では、この視点で僕たち建築家が本当にこれから住宅を塀から思考し設計提案したらどうなるか、それが今回の試みである。塀を再考する第2回目は、三家大地、金野千恵、秋吉浩気、増田信吾+大坪克亘の4組の建築家がそれぞれの視点を元に一度自分の案を持ち寄り議論を行い、そこで見えた課題を元に提案をまとめた。ひとつの敷地境界にとどまらない視点で提案される4つの塀は、どのようにその可能性を広げるのだろうか。そしてその先に描かれる住まいと都市の新たな可能性を考えてみた。

このコラムの関連キーワード

公開日:2019年12月25日