AGC千葉工場 CTC×LIXIL

多様な働き方ができる空間づくり

畑澤 洋平、繰生 紘史(AGC株式会社)/荒井 美佐子(株式会社松尾工務店)

3階「AGC PORT LOUNGE」は多様な働き方ができるフリースペース
自社製品であるAGCのカラーガラス(ラコベル®)でデザインした「AGC PORT LOUNGE」入口前に立つ(右から)畑澤氏、繰生氏、荒井氏

AGC千葉工場は、東京湾を望む千葉県市原市の臨海地帯に位置し、さまざまな化学製品を製造しています。工場内には化学プラントをはじめ、複数のオフィスが点在しており、Chiba Technical Center (以下、「CTC」と称する)もそのひとつになります。今回、老朽化が進んだことから全面的な改修が行われました。改修プロジェクトは若手と中堅社員が中心となり、細部までこだわりを表現するためバラコンによる発注形態を採用しました。その結果、斬新で遊び心のあるオフィス空間が実現し、フレキシブルな働き方を生み出しました。
このプロジェクトを担当されたAGC株式会社の畑澤氏、繰生氏、株式会社松尾工務店の荒井氏にトイレをはじめCTCの改修についてお話を伺いました。

※ゼネコンへの一括発注方式に対して、バラコンは設計、調達、工事などを分けて各社と契約を行う発注形態。本件では設計、調達、各職種(建築、配管、電気など)の工事や対象の設備、製品に応じて複数社と契約を行う発注方式として定義している。

Chiba Technical Centerの改修コンセプト

畑澤氏:AGC千葉工場は、製造設備と各部署の執務を行うオフィス棟などで構成されています。今回、改修を行ったCTCは、製造部門と施設部門を主とした従業員約400名が執務するオフィスになります。

繰生氏:今回の改修については、近年、AGC千葉工場で新築が増えたことに伴い、CTCの老朽化が際立つようになりました。そのため、従業員のためにも働く環境を改善する必要があると、経営陣の判断で全面的に改修することになりました。

畑澤氏:これまでのAGCは、お客様から見えない場所については質素につくるということを信条としてきました。CTCは1990年に建設されて以来今日まできており、平成初期のひと昔前の雰囲気を残す薄暗い事務所でした。今の就活生や新入社員からすると企業イメージとして良くない。そこで、「CTC 改装プロジェクト」の実質的なとりまとめは、社歴の長い40代後半、50代の社員ではなく、それらの年代よりも若い繰生に任せることになりました。私はどちらかと言えば補佐としてサポートし、建築に関する法的な面などについてフォローしていきました。
結果的には、従来とは異なるイメージのオフィスになり、非常にいいものができたと好評です。これから改修する他のオフィスからもCTCをベンチマーク(基準)にしたいという言葉をもらっています。

繰生氏:改修するにあたりプロジェクトチームでコンセプトを練っていきましたが、より広い要望を取り入れたいと考え、当時CTCで働く従業員にアンケートを取りました。約3000件の要望を頂戴し、コンセプトを作りあげました。端的に表現すると、働く人にやさしい、デザイン性が高く、機能的で遊び心のあふれるオフィスです。

斬新で遊び心のあるオフィス空間を表現

3階「AGC PORT LOUNGE」
3階「AGC PORT LOUNGE」

3階「AGC PORT LOUNGE」は多様な働き方ができるフリースペース。飛行機が空へ羽ばたく空港をイメージした。同フロアにある会議室は各国をテーマにデザインされ、滑走路を模した通路には会社設立年などが記されている。無人コンビニや、コーヒーマシーンもあり、執務だけでなくランチや打ち合わせなどにも使われている。フレグランス装置による空間演出も行い、従業員に心地よい環境を提供している

繰生氏:具体的には、各部署の仕切りを無くし、回遊型のレイアウトを採用。オープンなミーティングスペースを増設し、会議室の壁はガラス製で開放的な空間にしています。また、コロナ禍での改修でしたので、withコロナを考慮してWEB会議用の個室やラウンジを設け、WEB会議システムとネットワーク設備の強化も実施しました。さらに、健康と生産性の向上を期待して電動昇降デスク、ハイテーブルを備えたミーティングスペースを設けました。ポスターや貼り紙の運用も見直し、デジタルサイネージを採用。オープンなミーティングスペースにはインタラクティブホワイトボードも設置しました。
3階につくった「AGC PORT LOUNGE」は、ランチ、雑談、読書など休憩から執務まで幅広く活用できるラウンジを目指して設計しました。1階から3階の執務室については、実際にそこで働く従業員全員にデザインを選んでもらいました。6つのテーマを提案してアンケートを取り、結果、各階で異なるデザインに仕上がりました。国内、海外のオフィスの事例や、住居の事例も参考にして取り入れ、これまでのAGC内でのオフィスのイメージを一新する機能的でありながら遊び心を取り入れたデザイン性の高いオフィスを表現しました。

LIXILの「エコラカットプラス ディニタ」
LIXILの「エコラカットプラス ディニタ」。自然な石をリアルに再現した石積みのデザイン。無数の孔より快適な湿度で、においや有害物質も軽減する

2階カフェスペースの内装壁はLIXILの「エコラカットプラス ディニタ」を採用しています。住居の事例を参照していたときに、機能的でデザイン性の高いエコカラットを空間のアクセントとして取り入れている事例を拝見していたので、プロジェクトの当初から導入することを決めていました。導入してみて、現物の質感も高く、ワンポイントですが存在感もあり、カフェスペースの質感が向上しました。エコカラットに限らず、ウォールアート、デジタルサイネージのコンテンツ、体験を売りにしている家電など、洗練された製品、モノを多く採用しています。従業員がそれらを体験することで、感性や創造力が刺激され、多角的な視点につながることを期待しています。

畑澤氏:CTCの従業員の年齢層は高めですが、「AGC PORT LOUNGE」をフルに活用していて、お昼休みは満席になるほどです。食事をするだけでなくて、少し広めのスペースで趣味の講義をしていることもあり、意外な使われ方をしていますね。
また、同じフロアにムスリムの祈祷室を設けました。AGCの工場は千葉だけでなく鹿島(茨城)や、海外ではインドネシア、タイ、ベトナムにも関係子会社があり、人材交流が盛んです。インドネシア国民の9割はイスラム教徒で、仕事よりも宗教や家族の優先度が高い。来日された際に祈祷室を探すのに苦労され、お祈りの前に手足、顔を洗うため、日本ではトイレを使っているという話を聞きました。上長と相談してCTCを改修する際に、洗い場も備わった祈祷室をつくることにしました。工場内にある唯一の祈祷室で、工場で働くインドネシア人従業員も日常的に使っています。

会議室の壁はガラスで開放的にした
会議室の壁はガラスで開放的にした。1階はAGCのカラーガラス(ラコベル®)を取り入れて、それぞれの色の名前を室名にしている
3階にある「オーストラリア」
会議室はテーマに合わせてデザイン。写真は3階にある「オーストラリア」。ホワイトボードはAGCのカラーガラス(ラコベル®)を使用。部屋のイメージに合うアートを飾っている
2階カフェスペース
2階カフェスペース。奥の内装壁にはLIXILの「エコラカットプラス ディニタ」を採用している
カンパニービジョン”Chemistry for a Blue Planet”がテーマのウォールアート
カンパニービジョン”Chemistry for a Blue Planet”がテーマのウォールアートは山下良平氏の作品(キュレーション NOMAL ART COMPANY)
要所にウォールアートを採用し唯一無二の空間を演出
要所にウォールアートを採用し唯一無二の空間を演出している。ウォールアートは若井美鈴氏の作品(キュレーション NOMAL ART COMPANY)
イスラム教徒のための祈祷室
3階のカフェスペースとトイレの間には、イスラム教徒のための祈祷室も設けた。工場に在籍する数名のインドネシア人従業員が使うほか、海外の関連子会社との人材交流のため用意した

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公開日:2024年09月26日