住宅をエレメントから考える

想像性をかき立てる素材──タイルの価値を再考する

長坂常(建築家)×増田信吾(建築家)

『新建築住宅特集』2023年4月号 掲載

窓の庭

増田信吾+大坪克亘

「窓の庭」の北側の階段上窓辺近景。階段脇の水平窓を覗く。擁壁と地面の土が見える。

凹凸のあるフェンスブロックや野草や土がタイル面を返して入り込む。

チャボ小屋の奥に隣のマンションのフェンスと外壁タイル、そして敷地の擁壁が見える。

デスク下のタイル面。窓辺で情報が凝縮される。右はキッチン。

外に設けた照明をつけると、タイル面に反射した光が室内に広がる。タイル面が通りに走る車や隣家の窓の解像度に近くなる。

階段下も窓になってその脇のタイル面が外界を引き込む。外にいるチャボの様子が見える。

キープラン平面図(クリックで拡大)

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タイルのもつ情報量で建築をバランスさせる──増田信吾

この住宅(「窓の庭」JT2212 16頁)には、南側には大開口が、そして段々状の北側にはフィックス窓が22個、そしてそれとは別に農業用シャッターを応用して制作した換気窓が5つある。窓といっても部屋に開けられている外の景色を切り取る窓ではなく、内部を移動したり、それぞれの場所にいる時に外界が垣間見える身体に近い穴のような小さい窓だ。室内側の解像度とその先に続いていく街の情報量をパースペクティブの中で近づけ、窓を境目に外部を対照化せずに一体化したかった。そこで、窓辺は表面を何で仕上げるか、ひとつの仕上げで塗り込めたり敷き詰めるかということではなく、焼き「物」であるタイルをどう配置するか考えた。
まず、北側の窓に面する内外両側の垂直面や水平面にタイルを配置し、ぼんやりとした自然光をタイルに反射させた。今回選んだタイルは、サイズとかたちが4種類展開していて、タイルの4辺は原材料である土のベージュ色が釉薬ムラとして残っている。それぞれのサイズのタイルのエッジからほぼ同じ量セットバックしたところまで釉薬ムラがあるため、幅25mm角タイルと幅100mm角タイルでは25mmタイルの方がムラの割合が多く、同じ面積を組み合わせると暗く落ち着く。そこで、4種類のタイルサイズの組み合わせによるパターンと、目地色を釉薬の色に近いベージュにすることでムラを強調した。そして、ただ同じサイズのタイルを敷き詰めるのではなく、明るいところを25mm角、暗いところを100mm角、そしてその間を50mm角と25×125mmのタイルで繋いだパターンを光解析した画像をピクセレート化し、階調反転した画像に近づけていくように配列した。そうすると、タイルを貼り込む面が明るいガラス側から室内側へ暗くなっていき、グラデーショナルな陰影を打ち消す。ある程度均一に光を受ける面でありながら、近づくと小さなタイルが外界がもつ情報量に近づくため、壁紙や板材のような面的な素材よりも、タイルの風合いがベージュの目地の色によってタイルの具象性を強調しながら、光で帳消しになることから生まれるある均一的な明るい面として抽象的な存在になる。インテリアとエクステリア、そして街をタイル面の解像度とタイル自体の情報量によってバランスすることで、生活行為と外部環境を近づけ、室内に響き渡る状態を目指した。

「窓の庭」で用いられた、LIXILのインテリアモザイクタイル美釉彩。4種類のかたちのタイルが選ばれた。

1:100mm角ネット張り IM-100P1/BAY1
実寸法 97x97mm
2:50mm角ネット張り IM-50P1/BAY1
実寸法 47x47mm
3:25mm角ネット張り IM25/BAY1
実寸法 22.5x22.5mm
4:150x25mm角ボーダーネット張り
IM-1525P1/BAY1 実寸法 147x22mm
5:中竹出丸 IM-15/BAY1
実寸法 15Rx97mm
6:中竹三角出 IM-5/BAY1
実寸法 15Rx13.5mm
目地材 SS-33K

特記なき撮影:新建築社写真部

INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」

「INAXライブミュージアム」

株式会社LIXILが運営する、土とやきものの魅力を伝える文化施設「INAXライブミュージアム」(愛知県常滑市)の一角に、タイルの魅力と歴史を紹介する「世界のタイル博物館」がある。
タイル研究家の山本正之氏が、約6,000点のタイルを1991年に常滑市に寄贈し、LIXIL (当時のINAX)が常滑市からその管理・研究と一般公開の委託を受けて、1997年に「世界のタイル博物館」が建設され、山本コレクションと館独自の資料による装飾タイルを展示している。オリエント、イスラーム、スペイン、オランダ、イギリス、中国、日本など地域別に展示されていて、エジプトのピラミッド内部を飾った世界最古の施釉タイル、記録用としての粘土板文書、中近東のモスクを飾ったタイル、スペインのタイル絵、中国の染付磁器に憧れたオランダタイル、古代中国の墓に用いられたやきものの柱、茶道具に転用された敷瓦など、タイルを通して人類の歴史が垣間見える。また、5,500年前のクレイペグ、4,650年前の世界最古のエジプトタイル、イスラームのドーム天井などのタイル空間を再現。タイルの美しさ、華やかさが感じられ、時間と空間を飛び越えて楽しむことができる。

左上:イスラームのタイル貼りドーム天井の再現。右上:メソポタミアのクレイペグによる壁空間の再現。左下:常設展示室風景。右下:古便器コレクション。

左上:イスラームのタイル貼りドーム天井の再現。右上:メソポタミアのクレイペグによる壁空間の再現。左下:常設展示室風景。右下:古便器コレクション。

常設展「近代日本の建築と街を飾った、やきもの」
建築陶器のはじまり館──テラコッタパーク

大正から昭和初期、新しい時代の建物が次々と建てられ「建築陶器」と呼ばれるやきもの製のタイルとテラコッタがその外壁を飾りました。明治時代初期のものから1930年前後の全盛期に至る、日本を代表する芸術性の高いテラコッタ、帝国ホテル旧本館(ライト館)・建築会館・大阪ビル一号館など24物件を展示しています。

所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130 tel:0569-34-8282
営業時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休廊日:水曜日(祝日の場合は開館)、2022年12月26日~2023年1月4日
入館料: 一般700円、高・大学生500円、小・中学生250円(税込、ライブミュージアム内共通)※その他、各種割引あり
web:https://livingculture.lixil.com/ilm/

雑誌記事転載
『新建築住宅特集』2023年4月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202304/

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公開日:2023年05月23日