住宅をエレメントから考える
想像性をかき立てる素材──タイルの価値を再考する
長坂常(建築家)×増田信吾(建築家)
『新建築住宅特集』2023年4月号 掲載
『新建築住宅特集』ではLIXILと協働し、住宅のエレメントを考え直す企画として、機能だけでなく、それぞれのエレメントがどのように住宅や都市、社会に影響をもたらしているのか探り、さまざまな記事を掲載してきました。
昨年2022年は、日本で「タイル」という名称に統一されてちょうど100年目。それを記念した企画として、進行中の建築家の住宅作品に、LIXILのタイルを用いて、タイルの可能性を引き出してもらうことを提案。それを受けてくれた建築家により、実際の住宅にタイルも用いた設計を通し、どのように考察しデザインしたかを紹介してきました。
今回はこの企画の最後として、スキーマ建築計画の「LLOVE HOUSE ONOMICHI」(JT2212)の風呂と、増田信吾+大坪克亘「窓の庭」(JT2212 16頁)の実践を紹介します。それぞれのプロジェクトにおいて、タイルという素材をいかに建築に用い、創意溢れる使い方をしたか、タイルの魅力はどこにあるか、そのプロセスと共にそれぞれに論じていただきました。
- ※文章中の(ex JT2212)は、雑誌名と年号(ex 新建築住宅特集2022年 12月号)を表しています。(SK)は新建築です。
LLOVE HOUSE ONOMICHI
スキーマ建築計画+スタジオバスケット
崩れた秩序を感じる風呂──長坂常
この「LLOVE HOUSE ONOMICHI」(JT2212)のコンセプトとして、この建物から見える尾道の素敵な風景と展示されるモノとがシームレスに繋がるために空間自体は極力デザインせず、過去にそうであったであろうものを目指しつくった。ただ、風呂は外の風景とも展示物とも切り離された世界であるため、体験として違和感を感じない程度にデザインをしてもよいと考え、一見シンプルなデザインだが、少しそこにいると変化を感じるデザインを考えた。
京都などの古い銭湯にいくと、ツギハギ的に異なるタイルが貼られているのを目にする。風呂に入って気持ちよくなりながらも、そのイレギュラーに少しずつ気がつき、そんな風呂に入るのが好きで、この「LLOVE HOUSE ONOMICHI」でもつくってみたいと思った。ただ、その京都にある銭湯のイレギュラーなタイルは、制作時にタイルの数が足らないことからだったり、時間の経過で割れたりしてそれを補修して生まれたものだったりする。それをわざと自作自演でつくることは難しく、イレギュラーの必然性を計画することにした。
そこで考えたのが、50×100mmという長方形のタイルを立体面に配置すると必ずどこかで目地が揃わなくなるが、それをあえて使い、パターンの崩れるところで100×100mmと50×50mmのタイルを当ててオーダーを切り替えることだ。風呂に入る人は、一見シンプルなタイルの表情に何の違和感も感じず、体を洗う。それが終わると浴槽に入り湯に浸かってぼーっとしているが、少しずつ崩れた秩序に目がいき、何が起こっているのかを感じる。
そんな風呂を設計した。
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公開日:2023年05月23日