瀬戸内国際芸術祭アートトイレプロジェクト「石の島の石」レポート
パブリックトイレを表舞台に出す ── 衛生陶器をLIXILがサポート
中山英之(建築家)
『新建築』2016年11月号 掲載
瀬戸内海の島々を舞台に、3年に一度開かれるトリエンナーレとして親しまれている「瀬戸内国際芸術祭」。2016年も春(3月20日~4月17日)、夏(7月18日~9月4日)、秋(10月8日~11月6日)の3期にわたり開催されている。
小豆島は第1回の2010年から参加していて、第2回の2013年には「芸術祭」という視点と「公共」という視点が合致した「アートトイレ」として島田陽氏設計の「おおきな曲面のある小屋」(新建築1306掲載)がつくられた。醤油蔵建築が密集している醤の郷に建ち、散策の起点ともなっている。
この「アートトイレ」の第2弾として、瀬戸内国際芸術祭2016に合わせて完成したのが小豆島草壁港の「石の島の石」である。設計者は中山英之氏、LIXILが衛生陶器をサポートした。「石の島の石」は小豆島の石にこだわりコンクリートの骨材として使用したり、清掃用具や設備配管などを表に出すことでトイレに必要なものを視覚化するなど、これからのパブリックトイレのあり方を提案している。また、地元住民の手で建築を完成させるワークショップも特徴のひとつとなっている。
今回は設計者の中山英之氏やワークショップに参加した方にインタビューを行い、「石の島の石」がどのような過程で完成したのか紹介する。
また、作家の想いをカタチにするための技術協力として、大竹伸朗氏の「直島銭湯『I♡湯』」(2009年)のタイル制作や、「石の島の石」の衛生陶器のサポートをしたLIXILの方にもインタビューを行い、LIXILの活動、パブリックトイレの課題、新製品についてもお聞きした。(編)
インタビュー:
すべてを表にする建築
プロジェクトのきっかけ
このプロジェクトは、グラフィックデザイナーの原田祐馬さんに声を掛けていただいたことから始まりました。原田さんは、瀬戸内国際芸術祭の小豆島エリア・ディレクターを務められている椿昇さんと共に、多くの魅力的なプロジェクトをディレクションされ、島とは今や芸術祭の枠組みを超えた関係を築かれています。彼らの意思もあり、この島では芸術祭の会期が終わっても継続するような、社会性や公共性を備えたアートにも力を入れており、そのひとつとしてこの「アートトイレ」プロジェクトもありました。「アート」と名が付いていますが、小豆島町のパブリックトイレで、第1弾が3年前に完成した島田陽さん設計の「おおきな曲面のある小屋」です。
今回ふたつ目の「アートトイレ」が実現したのは、この成功例が大きかったと思います。敷地として選ばれた草壁港にはこれまでパブリックトイレがなく、以前からある設置を望む声に芸術祭がきっかけを与えたとも言えます。
ロングスパンで建築を考える
主な材料として小豆島産の石を選んでいます。島にはじめて訪れたとき、フェリーの上から石切場が見えてきました。小豆島は花崗岩でできた石の島です。その一部がスプーンですくったように切り落とされた姿に、少し痛いような、でもちょっと面白いような不思議な感じが印象に残りました。お願いして、町の職員の方に石切場に連れて行っていただき、それらの石が大阪城の石垣や皇居の橋など、全国に運ばれて使われていることを知りました。
目の前で空白として見えている欠損が、日本列島そこここの風景を形成しているという、その対応関係がロマンチックで、このダイナミックな運動に、自分のプロジェクトも参加できたらいいなと感じました。港に小さなトイレをつくることを、プロジェクト単体の時間を超えた、もっと長い地質学的な時間や、江戸時代から現代に至る歴史の中に考えることができるのではないかという夢が広がりました。
骨材としての小豆島の石
小豆島で観察される石の使い方はさまざまで、たとえば古くから残る農村歌舞伎の石づくりの桟敷席や棚田の石組みなどはとても魅力的ですが、一方で石という素材を、普段向き合っている、ごく普通の現代の建築のつくり方の中で考えてみたいという気持ちもありました。塩害や突風の懸念される港が敷地であることもあり、できれば鉄筋コンクリート造で、という役所からの希望を聞いたとき、この石をコンクリートの骨材として使うことを思いつきました。
コンクリートは打ち上がるとひとつの塊になります。
小豆島石でつくられた塊で建築をつくることは、かつて島そのものだった石がもう一度島の一部になり、建築をつくることが島の姿に新しい細部を描き加えることになるのではないかと想像しました。
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公開日:2017年06月30日