瀬戸内国際芸術祭アートトイレプロジェクト「石の島の石」レポート
パブリックトイレを表舞台に出す ── 衛生陶器をLIXILがサポート
中山英之(建築家)
『新建築』2016年11月号 掲載
インタビュー:
清掃活動によるおもてなし
渡邊信治(LIXIL中四国支社長)
LIXIL中四国支社は9月4日を「LIXIL DAY」として、各自治体の協力のもと、地域の建築業者様と連携し、公共施設のトイレ清掃活動や地域交流を通じて「おもてなし」力を育てるイベント、「みんなで一緒におもてなし 中四国観光名所一斉清掃」を行って
います。今年は広島平和公園、出雲大社、松山城、桂浜など22エリア、76カ所のパブリックトイレを清掃し、社員を含め700人を越える方がたに参加いただきました。
それぞれの地域には地元に根付いたコミュニティがあります。それらの方々と触れ合うことで地域に貢献し、LIXILへの理解を深めていただければと思い、さまざまな活動を展開しています。小学校への出張授業や、ショールームでの文化セミナー、職場見学会などを催しており、この「一斉清掃」もその一環です。地域の皆様との触れ合いの中から、われわれ自身も触発され、新たな発見や社員の成長にも大いに繋がっています。
瀬戸内国際芸術祭では、大竹伸朗さんの「直島銭湯『I?。湯』」や今回の中山英之さんの「石の島の石」などで協力させていただきましたが、これらも単に商品を提供するだけではなく、作家の想いをカタチにするための技術協力や、いろいろな方がたとの関わり合いの中で組織文化を高め、モノづくりを通じて,何らかの社会貢献をしていきたいという思いがあります。
パブリックトイレには「汚い、暗い、臭い」という3Kのイメージがあります。これを「きれい」という1Kにしたいと思っています。「石の島の石」は、明るくバリアフリーで清掃もしやすい。特に清掃道具を隠すことなく前面に押し出しているところに、みんなで「きれい」を維持しようというメッセージが伝わってきます。観光地では,風景や歴史的建造物などがメインとなり、トイレはバックヤードにあるもの、あまり見せたくないものという括りに入っていると思います。しかし、観光地を訪れトイレを利用した方には、そこで体験した暗さや臭いといったネガティブな印象が、美しい景色と一緒に記憶に残ってしまいます。地域の誇りである観光地への訪問を更に素晴らしいものとし、海外からの旅行者にクールジャパンを感じてもらうためにも、トイレ自体がもっと主張する必要があると思います。
観光立国に向けても、パブリックトイレは新たなステージに入るべきであり、「石の島の石」はその先駆けと言えるかもしれません。地域の表舞台に立ち、カルチャーを発信する場として大いに期待しています。
(2016年9月13日、広島にて)
インタビュー:
公共トイレの課題と展望
藤島二郎(LIXILビル事業部市場開発部)
パブリックトイレには、いろいろな課題がありますし可能性もあります。
課題としては、使いやすいパブリックトイレのあり方です。いまだに和便器が多く、オリンピック・パラリンピックを見据えると、海外の方や女性にも使いやすい洋便器への取り替えがあります。政府からも「ジャパン・トイレ・チャレンジ」という改修・整備などの取り組みが提言されています。また、米国では男女別のトイレを議論するところもあり、LGBTへの対応など、これからみなさんと一緒に考えなければならない課題もあります。器具数の問題も顕著化しつつあります。スマホが普及してトイレの占有時間が長くなったり、男性でも小便器を使わず個室を利用する方も増えています。そういう時代に入り、いままで通りの器具数や配列でよいのかということも考えなければなりません。
可能性としては、トイレ空間から情報発信をできればと考えています。デジタルサイネージなどを使い維持管理費に当てるという発想です。特に日本のパブリックトイレは世界一といってよいほど清潔性が保たれていますから、日本の「おもてなし」文化を継承する必要がありますし、ダイバーシティ社会におけるこれからのパブリックトイレのあり方は、企業を飛び越えていろいろなかたちで考え続けたいと思います。
(2016年9月28日、東京・新宿にて)
インタビュー:
「人間の、かたち。」をコンセプトにした新しいパブリックトイレ
──NEW PUBLIC TOILET HL
魚住浩司(LIXILトイレ・洗面事業部)
LIXILは今年、パブリックトイレの新商品「NEW PUBLIC TOILET HL」を発売しました。「HL」にはヒューマンラインというというメッセージが込められていて、「人」への思いをカタチにした、「人」に寄り添うパブリックトイレを目指しました。
特に今回力を入れたのは、使いやすさです。人にも建築にもフィットするLIXIL独自のデザインとして、壁掛便器では、丸みのある凹凸のないデザインで掃除しやすいだけでなく、車椅子でも近づきやすい形状にしています。また空間の自由度を高めるため、奥行を従来品から50mm短くして550mmにしました。小便器はまたぎやすく便器に近づきやすい形状にしています。新開発の超音波センサーを採用し、便器上部のデザインをすっきりさせて、手元を確認しやすくしました。
洗面カウンターは継ぎ目のない人造大理石の一体成型で、清掃のしやすさと、荷物の置きやすさを考慮しています。ドライの棚とウエットのボール部分を分離させることで荷物が濡れないように配慮しています。また、ウェーブ形状のため視覚的にボウルが大きく見えるという安心感があります。
パブリックトイレと一言で言っても、商業施設、オフィス、公共空間などさまざまです。それぞれの用途に合わせながら、今後も少しずつ変化していくと思いますが、誰もが使いやすいというコンセプトは変わりません。これからも人にやさしい商品を考えていきます。
(2016年9月20日、東京・大島にて)
撮影:新建築写真部(特記を除く)
雑誌記事転載
『新建築』2016年11月号 掲載
https://shinkenchiku.online/shop/shinkenchiku/sk-201611/
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公開日:2017年06月30日