川口ハイウェイオアシス×LIXIL
新たな賑わいを創出する首都高初のハイウェイオアシス
大沼伸康(川口市)、中原格(首都高速道路株式会社)、山下昌彦、宮本裕一郎(株式会社UG都市建築)
2022年4月25日、埼玉県川口市に「川口ハイウェイオアシス」がオープンしました。首都高初のハイウェイオアシス※として、川口パーキングエリアと赤山歴史自然公園「イイナパーク川口」を連結させて一体的に整備。約8.9haの広大な敷地には、水と緑の自然豊かな公園や地域特産の商品や食事が楽しめる商業施設、関東最大級の屋内あそび場「ASOBooN(アソブーン)」などが備わっています。施設の外構は、周辺環境と調和するLIXILのフェンスなどを用いて、視覚の連続性を持たせた見通しのよい景観を演出。高速道路からも一般道からも利用できるとあって、県内外を問わず多くの人たちが訪れる新しい地域の賑わい創出拠点になっています。今回は川口市の大沼伸康氏、設計を担当された首都高速道路株式会社の中原格氏、株式会社UG都市建築の山下昌彦氏と宮本裕一郎氏にお話しを伺いました。
- ※ハイウェイオアシスは、高速道路の休憩施設と都市公園などを一体的に整備し、高速道路の利用者に潤いのあるスペースを提供するとともに、都市公園などの利用増進を図る施設
都市公園と首都高パーキングエリアを一体的に整備
大沼 伸康氏
──川口ハイウェイオアシスの概要を教えてください。
大沼氏:
整備前、2011年頃の赤山歴史自然公園「イイナパーク川口」の敷地は、神根地域の東側(赤山、新井宿)に位置し、全域が市街化調整区域で開発規制されていました。計画予定地を含む周辺一帯は、概ね植木などを主体とした生産地と宅地が点在しています。また、その中心部は谷地で、北西および北方向から南に下る湿潤な草地と一部苗圃(びょうほ)が広がり、南端の赤山2号調節池が首都高速道路に隣接しているような土地でした。後に、川口パーキングエリア(以下、川口PA)ができ、谷地部の一部(約2.2ha)は廃棄物最終処分場予定地として公有地化が進められました。その後、各種リサイクル法の整備に伴うごみの減量化などから、旧最終処分場用地の活用方法を見直すことになり、公園予定地とする方針に変更されたことにより発足したプロジェクトです。
2011年12月より川口市は、広域的な集客を確保する観点から、公園と川口PAとを連結して一体的に整備を行う地域拠点整備事業・ハイウェイオアシスについて、首都高速道路株式会社等の関係機関との協議を進めてきました。2012年3月1日には、『広域的な集客性に配慮した「水と緑のオアシス空間」の創出』を計画のテーマとし、自然環境や歴史文化遺産を活用した、地域の振興や都市農業の活性化にも資する公園についての都市計画を決定。それを踏まえて川口市と首都高速道路株式会社は、両者が協力して事業を推進していくこととなりました。
──地域における川口ハイウェイオアシスはどのような位置づけなのでしょうか。
大沼氏:
整備当初の計画のテーマである「広域的な集客性に配慮した公園」として、地域にお住いの方はもちろん、県内外問わず多くの皆さまに愛される施設として位置づけて、運営管理しています。豊かな自然環境や赤山城跡をはじめとする川口市が誇る歴史文化遺産などを活かしつつ、魅力的な屋内遊具施設、おしゃれなレストラン・カフェでの飲食、売店でのお土産、農産物購入などを楽しんでいただければと考えています。
利用状況については、2022年4月25日に全体開園を迎え、直後のゴールデンウィーク期間中の5月8日までに、一般道からの公園利用者数は約4万人となっており、ここに高速道路からの利用者も加わり、大変多くのお客様にご来園いただきました。また、川口ハイウェイオアシス(以下川口HWO)の全天候型屋内あそび場「ASOBooN」については、雨の日でも楽しめる施設として、ファミリー層のお客様に大変ご好評です。ゴールデンウィーク後も人気は続いており、特に土日祝日や長期休み期間は、混雑する日が多くなっています。こうした状況のなかでも、ご来園のお客様に気持ちよく利用していただくため、整理券での受付対応や施設のSNSアカウントによる混雑状況の周知を行うなど、柔軟に対応しています。
日本の伝統美や歴史的背景を表現したデザイン
中原 格氏
──首都高速道路という空間で建築を表現するうえで大切にしていることは何ですか。
中原氏:
私たち首都高速道路株式会社は高速道路と同様に極めて長い期間の使用を前提とした、いわば「社会資本建築物」を手掛けています。一度世に送り出すと風景や人々の暮らしのなかに溶け込みながら根づいていくものなので、その重みを常に感じながら長年仕事に携わってきました。私が首都高建築で掲げてきたデザインワード・コンセプトは「和モダン・日本的な美しい意匠」です。日本が育んできた文化への誇り。障子戸をはじめとする格子など和のデザインテイストや水平・垂直基調の伸びやかで美しいたたずまい、そして日本人の美意識にある伝統色などの表現です。国内や世界からお迎えした人々は首都圏を広く結ぶ首都高速道路を行き交います。日本の首都であり象徴的な首都高速道路という空間と立地の重み。建築計画に応じてデザインテーマの表現手法を追い求めてきました。
──川口ハイウェイオアシス全体の設計について教えてください。
中原氏:
川口HWOの計画初期では、より自然や植物に近い有機的な造形をスタディしました。しかし開業が一足先となった、隣接するイイナパーク川口や伊東豊雄先生の「めぐりの森」の建物などが互いの風景のなかに非常に美しく溶け込んだことで、それらに単純に呼応するのは少し違うのではないかと考えるようになりました。
当地は赤山地区と呼ばれ、旗本で関東郡代(代官)、約77 haを所領する伊奈氏が長く治めた歴史ある土地だったことに改めて着目しました。その中心にあったのが「赤山陣屋」と呼ばれる居城です。ちなみに大阪城が約106 haだったそうですから、旗本の所領としての巨大さがうかがえます。この地から関八州と呼ばれる広大な関東一円を治めていたわけです。伊奈氏は代々高い治水・土木技術・農政の専門家であり、庶民に慕われた篤信(とくしん)厚き代官だったそうです。旗本で代官という地方行政官でしたが、これら専門家としての能力も高く評価され、徳川幕府から大名並みの破格の処遇がされていました。
今回、川口HWOのデザインコンセプトは“つなぐ”ですが、高速道路側から公園へのゲート性の高い建物となることと同時に、この土地が持つ誇り高き記憶と当時の町人たちの暮らしの姿ともつなぐことを意識しました。お堀跡など当時の面影を残す場所に足を運ぶと、たしかに古き良き日本文化が紡がれていた、その空気をそこかしこに感じることができます。過去と現在が時空を超えあたかも同時に存在しているかのように捉え、今の活気がさらに豊かな地域づくり・未来づくりへとつながっていく。このイイナパーク川口と川口HWOがより多くの人々を引き寄せ、賑わいが平和な暮らしを象徴する風景となり、さらに日本の歴史・文化や自然との触れ合いを通じてお互いを慈しむことも学べる、そんな唯一無二の場として育まれていくと確信しています。
──色彩計画は歴史的背景から和とモノトーンにこだわったそうですね。
中原氏:
赤山陣屋という建物は復原されていませんが歴史ある土地であることから、黒・白・灰色を基調とした日本の伝統色を用いたいと考えました。城壁の白い漆喰や武家屋敷などにみられる黒い柱梁や壁などがモチーフです。色彩を通じて在りし日の人々の暮らしの面影ともつなぎたいと考えました。首都高で長く景観委員を務めておられる、色彩計画家・吉田愼悟先生(クリマ)、デザイナー・須田武憲先生(GK設計)にもお忙しいところ現地に何度も足を運んでいただき、色彩や材料ひとつひとつのテクスチャーまで、サンプルを比較しながら細部にわたり助言・選定・評価をいただきました。日本の伝統美をこの社会資本建築物で表現するために欠かせなかったのが、色彩計画や材料選定などの細部の作業であったと思います。凛とした美しいたたずまいの建物が実現できたのも、デザインコンセプトを理解いただき真摯かつ丁寧に取り組まれた川口市様はじめ事業者側および工事関係者ら多くの皆様のお蔭です。チーム力の高さにも心より感謝しています。
公園とパーキングエリアを有機的につなぐ建築
山下 昌彦氏
──どのように空間コンセプト“つなぐ”を表現しましたか。
山下氏:
川口HWOは高速道路の利用者と地域の方々が利用する施設を“つなぐ”という画期的なプロジェクトです。その点を非常に留意して、単なるパーキングエリアということを超えた、地域のひとつのレジャー施設、滞在施設という点がポイントになっています。楽しく賑わう川口市の新しい拠点ができるということに重点を置きました。
建物は高速道路側とイイナパーク川口という公園側の両方に面しており、いずれも正面になっているところが特徴です。そこにどういった建築をつくっていくべきか、首都高速道路様とさまざまな協議を経て、最終的には透明な箱を置いていくということになりました。これまではパーキングエリアとしてトラックの運転手さんの利用が主でしたが、今回、このようなレジャー施設をつくることにより、広範囲な方々に利用していただくことになります。隣接するイイナパーク川口は市内でも大規模な素晴らしい公園で、園内には地域物産館や歴史自然資料館などがあり、そのような環境のなかで、新たに建設する建物はかなり目立つ中心施設のひとつとなっています。
高速道路のパーキングエリアに面しては商業棟と地域交流拠点棟(トイレ・休憩室)が配置されています。公園に面しては商業棟と地域交流拠点棟(屋内遊具)が並んで配置されています。商業棟と地域交流拠点棟(屋内遊具)の間は17の大規模なボイド空間「センターテラス」を設けました。これによってパーキングエリアと公園を視覚的につなぎ、どちらからも見えるようにしています。
──白いセンターテラスとシンプルなガラスの建物が印象的です。
山下氏:
センターテラスの屋根を中心にして3つの建物を並べています。それぞれガラスの箱として、公園と首都高をつなげていくといった考え方で設計を進めてきました。各施設は単純な透明の箱になるようにデザインしています。できるだけ柱、梁、建築が見えないよう透明な感じにつくろうということで、鉄骨造を採用して、薄い屋根と細い柱、梁で構成しています。基本的にはガラスの箱ですので、お客様に面するところはガラスのカーテンウォールで透けるようにして、内からも外からもよく見えるという仕掛けになっています。パーキングエリアから見ると商業棟の賑わいや地域交流拠点棟(トイレ・休憩室)のようすなどが感じられて、公園側からは商業棟や地域交流拠点棟(屋内遊具)のなかでお子さんが楽しく遊んでいるようすが伺える。室内の皆さんのアクティビティが外に広がっていくというようなファサードにしています。
中原さんのお話にもあったように、当初は公園に合わせて有機的なデザインにするといった考えもありましたが、最終的には高速道路のイメージ、自動車のスピード感からモダンな形にしました。公園側からは水平基調のガラスの箱が並んでいて、非常に長い100m喃々(なんなん)としている施設です。ダークグレーを基調としたガラスの箱にすることで、デザイン的に建物として目立たない意匠とし、公園と首都高、それぞれがつながっていくようなデザインにしています。一方で中央のセンターテラスは、川口HWOで一番象徴的なものにしていきたいということで白色にしています。結果的には公園側から見ても、高速道路側から見ても一番目立つデザインで、みんながここに集まりたくなるような場所になっていると思います。
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公開日:2022年11月22日