ごみ分別に始まる循環型の未来まちづくり
――鹿児島県・大崎町の挑戦
第1回 まちを訪ねて、リサイクルシステムを体感する。
大崎町(おおさきちょう)は鹿児島県大隅半島の東岸、志布志湾に面したまち。自治体の資源リサイクル率日本一を連続12回、計14回達成し、「大崎リサイクルシステム」として世界的に評価されています。資源循環の取組みは26年あまり続いており、そのノウハウが注目され話題になりましたが、大崎町はさらに循環型社会の実現に向けて情報発信や他地域への事業展開など次なるプロジェクトを遂行中です。そこには、世界に共通する問題解決の糸口があるのです。この現在進行形の大崎町の取組みにLIXILも参画し、新展開を企画中。これを3回に分けてレポートします。今回、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会の遠矢将さん、中垣るるさんに大崎町をご案内いただきました。まずはこれまでの取組みを振り返ります。
焼却炉を持たないまちの決意
――埋立処分場延命のための生活ごみ資源化施策「大崎リサイクルシステム」の誕生
リサイクルできないごみはすべて焼却施設で処理されると思ったら大間違いで、施設のない地域では埋立処理を行っているのが現状です。しかし想像がつく通り、やがて一杯になり限界を迎えます。この問題はまだまだ解決されていません。鹿児島県大崎町も焼却施設のないまちのひとつ。1990年から新しい埋立処理場の共用を開始しましたが、当時はまだバブルの時代。ごみは増え、予定より早く残余年数が減ってきました。確実に危機を迎えます。この先のごみ処理をどうするのか? 焼却炉の新設は補助金を活用したとしても、運営継続が財政を圧迫します。新たな埋立処分場は迷惑施設として捉えられ住民の理解を得るのが難しい。そこで選択したのが、ごみの減量化による既存埋立処分場の延命でした。
ごみ減量化に向けて最初に着手したのが1998年、資源ごみ(カン、ビン、ペットボトル)の分別回収です。その後、徐々に品目を増やし、2001年からは早くも試験的に生ごみの分別回収に着手します。まちで発生するごみ量の6割を占める生ごみと草木。これを処理できると大幅に埋立てする量が減ります。2002年には有機物堆肥化工場(民間)で生ごみの堆肥化を開始し、2004年に有機物(生ごみ、草木)の埋立て全面禁止を実現。現在、分別は27品目。分別前の1998年と比較すると、20年後の2017年には埋立てごみの8割以上の削減に成功したのです。結果、埋立処分場は約40年延命されることになりました。
効果のあった生ごみの堆肥化は、焼却施設のない地域に限らず、広くその有効性が指摘されていました。というのも、焼却施設は耐用年数がそれほど長くはなく20年程度。更新が余儀なくされますが、人口減少地域では今後の経済負担が大きいからです。もちろん環境負荷が抑えられることは言うまでもありません。
資源リサイクル率日本一
システムの要は町民のくらしのなかにあった
こうして大崎町はリサイクル率日本一を14回達成するに至ります。「混ぜればごみ、分ければ資源」の言葉通り、リサイクルの成否を左右するのは分別です。リサイクル工場ももちろん必要です。しかし、すべてのごみを工場分別するのは莫大なコストがかかり非現実的です。リサイクル品目を増やすには、各家庭のごみ分別品目を増やす必要があります。ごみのシステムの最も重要で、最も難しい点は、全世帯が家庭で分別するということ。そのため毎日のくらしのスタイルを今までと少し変えるということにあるのです。大崎町はこれに挑戦し、成功した先進例といえるでしょう。
現在、大崎町民はごみをどのように分類しているのでしょうか。カン、ビン、ペットボトル、紙類は国内でも比較的広く分別が進んでいる品目ですが、大崎町ではさらに細分別します。ビンは洗浄再利用するリターナルビンと、茶色、透明、その他のビンに色分け。紙はダンボール、新聞紙、雑誌、コピー紙、シュレッダー紙、紙パック、紙箱包装紙、その他の紙に。再生用途別に、その原料としての純度を上げるためです。食用油の廃油も回収し、まちが設置した設備でバイオディーゼル燃料へと精製します。素材ごとの分別が難しいプラスチック類は、一括回収し、製品へリサイクルされるものと、町外工場で、油、コークス、ガスに再生するケミカルリサイクルへ。カンも一括回収し、リサイクルセンターで、アルミとスチールに分別。衣類は極力古着マーケットに出し、金属、陶器は異素材をなるべく外してこれも分別へ。もちろん粗大ごみ枠もあります。そして町内で発生するごみの3割を占める生ごみ、同じく3割を占める草木剪定くず、これも分別し、工場で堆肥化。これが大崎リサイクルシステムの大きな特徴です。こうして分類されるごみは26品目。そのどれでもない27品目目のごみが一般ごみと呼ばれ、ようやく埋立処分場へ回されます。
これら分別ができて、はじめて大崎リサイクルシステムとなるわけですが、これは町民の理解と協力があってはじめて成り立つこと。大崎町で成功した背景には地域のコミュニティ力があります。ここはまだまだ地縁による地域力が健在なまち。もともとしっかりした自治会があり、それと並んで集落の環境維持管理を行う衛生自治会もありました。この衛生自治会がごみ出しの管理運営を行うことで、住民のまとまりと協力が維持されるのです。大崎町ではごみ排出者に対して大崎町衛生自治会への入会、収集場への登録、ごみ出しルールの厳守などが義務づけられています。
衛生自治会は、約150の集落に分かれ、ごみ収集場や立会人などのごみ出しルールをそれぞれ独自に決めています。たとえば生ごみ、埋立ごみ以外の資源ごみ収集は月1回。その日は公民館などの少し広い敷地に、20種あまりの分類スペースが用意され、住民が車に分類ごみを積んで来場。各スペースにごみを振り分ける風景が見られます。2、3人の立会人もそれを手伝いながら、近況を語りあったり世間話をしたりと、すでに集落の催事イベントの様相。ただのごみ出しではなく、集落にとっての重要なコミュニケーションの場であり、コミュニティを醸成していく基盤にもなっているのです。
ごみの出口を設計し、リサイクルを運営する
企業の役割
収集場に集められたごみを回収し、処理をするのは企業の役割です。これを担っているのは大崎町から事業委託を請けた「有限会社そおリサイクルセンター」で、リサイクルシステムの中枢ともいえる存在です。まずは各収集場からごみを回収。回収したごみを工場でさらに解体・細分化・仕分けするなどの中間処理を施し、引き取り業者へ搬送します。この買取り業者とのつながりを築き、取引するといったごみの出口設計もこの企業の役割です。
また、町外へ最終処理・利用を頼らず、製品として町内で循環するルートが確立されているのが、排出ごみの60%以上を占める生ごみや草木などの有機物です。そおリサイクルセンターは、町民から回収した生ごみと草木を、同社運営の「大崎有機工場」へ搬入し、ここで半年かけて堆肥にし、製品として販売しています。
ごみの中間処理施設・そおリサイクルセンターの現場
資源ごみのほとんどがここに搬入され、細分別、中間処理されて、リサイクル先へ搬出されます。
粗大ごみ処理場の現場
大型の粗大ごみは、そおリサイクルセンターとは別の処理場へ搬入され、ここでも分解、再分別されたあと搬出されます。布団などの繊維類、木製家具、畳などの可燃性廃棄物は、分解、整理されてRDF(Refuse Derived Fuel)などの固形燃料の原材料となります。
生ごみ完熟堆肥化施設・大崎有機工場の現場
生ごみ・草木剪定ごみはここで約6カ月かけて堆肥化されます。味噌、醤油、藍染めなどと同様、発酵を利用した製造プロセスで、菌を活性化させるための温度、水、空気の管理が欠かせません。
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公開日:2024年03月27日