"床浮きのトイレ"が語りかけるもの。
各務謙司(カガミ建築計画)×フロート トイレ(LIXIL)
『建築知識』2020年3月号 掲載
"床に浮く"という付加価値
"床浮きのトイレ"という言葉を聞くと、空間のダイナミズムを想像せずにはいられない。重量感のある便器が壁から跳ね出す姿は、建築のデザインとして非常に魅力的であろう。ただし、人の荷重がかかる便器を安定的に支えるのは容易ではない※1。欧米の住宅では普及しているものの、日本の住宅では、"床浮きのトイレ"は、ほとんど見かけない。
欧米の住宅インテリアに精通し、自身が手がける高級マンション・リノベーションの設計にそのエッセンスを取り入れてきた各務謙司氏は次のように分析する。
「"床浮きのトイレ"は、高級感を求める建築主を相手にする私にとって、とても響きのよいフレーズですが、実際に設計提案に採り入れた経験はありません。耐荷重や施工性を考えると、どうしても床置きのタンクレストイレを選択する、というのが実状です。
ただし、便器を床から浮かせられれば、見栄えのよさだけではなく、便器廻りの清掃がしやすくなるなど、トイレ自体の使い勝手が格段に向上します。私の場合は床材に、トイレでありがちなビニル床シートではなく、高級感を演出するため、石材や磁器質タイル、メンテナンス性にはやや劣る複合フローリングを使うこともあるので、掃除が楽になる、という点は大きな利点です。
もちろん、便器が壁掛け式になるので、PSを確保したり、ライニングを設けたりする必要が生じますが、飾り棚や収納スペースとして利用したり、便器脇の洗面カウンターと一体になったL字カウンターを提案できたりします。"床浮きのトイレ"は、まさに理想的です」。
木造・S造・RC造に対応
"床浮きのトイレ"を日本の住宅に―。この明確なコンセプトのもとで開発されたトイレを紹介しよう。壁掛け式の「フロート トイレ」(LIXIL)である。
各務氏が述べたように、床から便器が浮いているので、足元がすっきり見えるほか、掃除がしやすい、というのが大きな特徴である。さらに、木造・S造・RC造いずれの構造の住宅にも無理なく取り付けられる、という汎用性の高さが実に大きい。独自開発の金属フレームによって、便器の荷重を壁・床で負担する構造形式を採用したことで、壁に補強の木下地を取り付ければ、既存柱の強度が懸念される木造住宅のリフォームにも対応できる。施工性もよく、通常の便器取り付け時間に対して+2時間程度で取り付け作業が完了できるという。
「ライニングのなかに、給水管や電源コードまでが隠蔽される点がとても魅力的です。床や壁に止水栓や給水管、電源コードが露出してしまうよりも空間としてすっきり見え、欧米の住宅のようなインテリア空間が演出できますね。個性的なトイレを建築主に提案する側にとって、高い安全性と施工性に裏打ちされた"床浮きのトイレ"という、新たな選択肢が増えたことはとても喜ばしいことです。たとえば、デザイン性が問われる来客用のトイレなどで重宝しそうです」(各務氏)。
トイレは0.5坪程度の小さな空間。デザイン性・機能性の面で付加価値を提案するのは容易ではない。「フロート トイレ」は、そんな悩みに対する解答の1つとなることだろう。
Structure
220kgfの荷重に耐えられる壁掛けの「フロート トイレ」
写真=加藤元樹
- ※1 JIS規格(日本工業規格)「JIS S A5207:衛生器具–便器・洗面器類–壁掛大便器の耐荷重試験」では、約220kgf(2,200N)で破損しないことが要求されている
- ※2 隅柱への固定は、木造在来軸組構法において、隅柱の強度が十分な場合。強度が十分でない場合は木下地を利用する。木造枠組壁構法、RC造、S造(軽量鉄骨造を含む)では、木下地を用いた方法を選択する
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公開日:2020年03月25日