JINSミーナ天神店(福岡市中央区)
「メガネのタイル」 工業と工芸の間に
ツバメアーキテクツ×LIXILやきもの工房×小石原焼8窯元
1. なぜタイルとメガネなのか?
2023年4月、福岡市街の天神エリアに位置する商業施設、ミーナ天神のリニューアルに伴い、JINSの新店舗がオープンした。メガネ売場に同社が運営するコーヒーショップ「ONCA COFFEE」を併設し、空間をツバメアーキテクツが設計。素材としてタイルを存分に活かした空間になったのはなぜか。店舗内を歩きながら、ツバメアーキテクツの西川日満里さんと設計スタッフの葉山翔伍さんに聞いた。
メガネがどこまでも並ぶイメージ
なぜメガネとタイルだったのか、ツバメアーキテクツの西川日満里さんが話してくれた。「さまざまな店舗を見学すると、JINSの全国の店舗は什器などが1つ1つのメガネのサイズに合わせて設計され、メガネからお店づくりが始まっていることがわかりました。メガネの大きさとタイルの大きさって近いスケールを持っていますよね。そこから、メガネが載る器としてタイルを設計することを考えました。それにタイルって、1枚1枚が面的に連続していくランドスケープ的なおもしろさがありますよね。タイルの連続で、メガネがどこまでも広がって置かれていくようなイメージがつくりだせたらと思いました」。
西川さんがタイルのおもしろさを語る背景には、2022年にツバメアーキテクツが「LIXILやきもの工房」と連携してオリジナルタイルを製作した体験があった。タイルのあれこれをディープに学び、タイル沼にはまりつつ楽しんだのだ。
タイルプロジェクトでの経験は、JINSミーナ天神店ではさらにタイルの多様性を展開するものになった。メガネを置く什器の面を構成するオリジナルの「メガネタイル」をやきもの工房で製作し、ONCA COFFEEスペースなどに福岡県の伝統工芸「小石原焼」の窯元の陶板タイルを製作。さらにLIXILのカタログ品タイルも活用。その3つ、それぞれの特徴がバランスする魅力的な空間が広がっている。
JINS ミーナ天神店
2001年にJINSの1号店がオープンしたのが福岡市の天神エリアだった。ミーナ天神店は、2023年4月に、JINSが運営するコーヒーショップ「ONCA COFFEE」を併設し、はじまりの地である天神エリアにあらたにオープンした店舗である。JINS部分79.33坪、ONCA COFFEE 部分41.52坪。
営業時間 10:00〜20:00
福岡県福岡市中央区天神4丁目3番8号 ミーナ天神 1F
https://www.jins.com/jp/
小石原焼の味わいをカフェの家具などに活かす
ミーナ天神のエントランスを入るとすぐ、1階正面にONCA COFFEEがあり、買い物休憩や、メガネの時間待ちなどの人たちがくつろぐ場になっている。目を引くのは大小のカフェソファ、3人掛けベンチ、ハイテーブルといった家具ごとに、1つ1つ異なる小石原焼の窯元が手掛けた個性的な陶板タイルが張られていることだ。
「メガネを支えるための立体的なタイルは、寸法精度が必要だったり、試作を繰り返しながら調整する必要があったため、LIXILやきもの工房にお願いしました。一方で、陶器つながりで考えると福岡には伝統産業として知られる小石原焼があります。カフェで使う什器は長時間触れるものなので、焼きむらや細かな凹凸による模様が魅力的な小石原焼の魅力が伝わりやすい。メガネを購入することをきっかけに、地域への興味へとつながっていくといいなと思いました」と西川さん。
小石原焼の特徴である白と飴色を基調としつつ、メガネ売場側はメガネのフレームを引き立てる白を多く用い、白系統と茶系統のトーンが自然に融けあうように設計したタイルとともに、福岡県産のスギ材もテーブルやベンチに採用している。
ONCA COFFEE 天神ミーナ店
『コーヒーを、「好き」に出会えるまでご案内します。』をコンセプトにJINSが立ち上げた、高品質なコーヒーをシンプルに提供するコーヒーショップ。コーヒーメニューは「KURO(ドリップコーヒー)」と「SIRO(カフェラテ)」の2種類のみ。JINSが運営するベーカリーカフェ「エブリパン」の焼き菓子なども提供する。
営業時間 平日 7:00〜20:00 土日祝 10:00〜20:00
「タイル沼」を楽しんだ経験が活きた
2022年にツバメアーキテクツがLIXILやきもの工房と一緒に製作したのは、東京・下北沢のHORA BUILDINGのオリジナルタイルだった。1階には時々ギャラリーのドーナツ店「洞洞」、2、3階にツバメアーキテクツのオフィスが入るビルだ。
ツバメアーキテクツの山道拓人さん、西川日満里さん、千葉元生さん、鈴木志乃舞さんは、タイルを知るために、まず愛知県常滑のINAXライブミュージアムを訪れた。
ミュージアム内の「世界のタイル博物館」では、紀元前のメソポタミア、エジプトに発祥したタイルが、イスラムからアジア、ヨーロッパ各地へ広がっていった歴史と文化を学芸員から聞いた。やきもの工房では、タイルの基礎知識、形状や釉薬表現の豊かさを教わった。そしてオリジナルタイルづくりに向けたディスカッションも行った。
また、常滑の歴史と建築を味わうべく町を歩き、「とこなめ陶の森・資料館」、日本のモダニズム建築の巨匠・堀口捨己が設計した「とこなめ陶の森・陶芸研究所(旧常滑陶芸研究所)」を訪れた。
そのときからLIXILやきもの工房とのやりとりを繰り返し、3回の試作を経て、8種類のタイルを製作。HORA BUILDINGは2022年8月に無事、オープンを迎えた。
光や町の気配を、ドーナツ店に呼び込むタイル
HORA BUILDING 1 階のドーナツ店のメインカウンターに張られたのは、「みたらしタイル」。みたらし団子のたれのようなトロリとした釉薬が、甘いグレーズのかかったドーナツといい相性。またビルが面する下北沢のBONUS TRACKから続く街路を行く人々や植物の緑の色がタイルの表面にぼんやり映り、ビルの内外の気配をつないでいる。ツバメアーキテクツのオフィス部分にも他のオリジナルタイルを張った(詳細は下記の記事へのリンクから)。
オリジナルタイルの製作を終えて、ツバメアーキテクツは、「できた試作の魅力を、さらに深堀りしようと新たに試作をすると、また別の魅力が発見されて・・・。なんかこう、いい意味で『沼』だなと感じました」と、タイルの魅力の奥深さを話してくれた。
自分たちの空間づくりにタイルという魅力的なボキャブラリーを得て、HORA BUILDING以降の仕事でも、ツバメアーキテクツはLIXILやきもの工房と協同製作を続けていた。
ツバメアーキテクツ
2013年、山道拓人、千葉元生、西川日満里によって設立。デザイン部門(設計事務所)とラボ部門(シンクタンク)を設け、2つの活動を循環させることで、新たな空間を提案する。住宅や店舗、公共施設など幅広く手掛け、伝統建築のリノベーションにも携わる。企画段階から建築の設計まで関わった下北沢の新しい商店街BONUS TRACK(2020年)により2022年日本建築学会作品選集新人賞、東京建築賞新人賞・一般一類部門最優秀賞などを受賞。
東京都世田谷区代田2-36-19 HORA BUILDING
取材・文/清水潤 撮影/長谷川健太(特記をのぞく) 久高良二(★印) 編集/豊永郁代
アクソメ・イラストレーション/ツバメアーキテクツ
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公開日:2024年03月25日