JINSミーナ天神店(福岡市中央区)
「メガネのタイル」 工業と工芸の間に
ツバメアーキテクツ×LIXILやきもの工房×小石原焼8窯元
2. メガネタイルはどうやってできたのか?
試作を繰り返したテクスチャーと断面形状
LIXILやきもの工房の芦澤さんが、メガネタイル製作のスタートを振り返る。「2022年12月に最初の打ち合わせをしたとき、どんなタイルをつくりたいのかがその場でわかりました。ツバメさんたちは下北沢の自社オフィスとドーナツ屋のプロジェクトで、十分にタイルの知識を蓄えていたので、話がとてもスムーズに進みました」。
ツバメアーキテクツの設計スタッフ葉山翔伍さんは、事前に新宿の「INAXタイルコンサルティングルーム東京」を訪れ、特注試作見本の中からイメージに近いものを選び、やきもの工房と話すきっかけにした。メガネの背景として白色系のなるべくプレーンな色味を基本とし、その中でやきものらしい表情があるタイプと、マット調で他の建材とも馴染みやすいタイプの2種類のイメージを話し合った。
やきもの工房はさっそく試作を開始した。1つは均質で細やかな表情の「プレーン白マット」、もう1つはやきものの味を持つ「窯変白ブライト」。「白ブライトのほうは光沢のある釉薬が流れ、素地のエッジがわずかに透けて見えます。細かい黒色の骨材を混ぜ、黒い点が散らばるやきものらしいテクスチャーをねらいました」。この2種で製作工程に進む。
押出成形から施釉、本焼きへ。白マットと白ブライトが誕生
LIXILやきもの工房にはオリジナルタイルをつくるためのノウハウと設備が揃っている。メガネタイルは湿式タイルの押出成形機を使って連続成形し、施釉、本焼きが行われた。「押出成形には湿式特有のやわらかな表情が生まれる」という。焼成によってやきものオリジナルの表情を生み出すと同時に、工業生産タイルと同様の寸法精度でつくれることも工房の大きな特徴だ。
LIXILやきもの工房
タイル製造機器、釉薬調合室、乾燥や施釉設備、焼成窯などの設備、オリジナルタイル製作の経験のあるスタッフが揃う工房。建築家やアーティストとのコラボレーション、歴史・文化的価値の高い建築物のタイルや建築陶器などの復原・再生に取り組む。またやきものの基礎知識を知り、さまざまなタイルの見本を見学できる展示室を一般公開している。
愛知県常滑市奥栄町1-130 INAXライブミュージアム内
https://livingculture.lixil.com/ilm/facility/ceramicslab/
アタッチメントの取り付けにタイル目地を活かす
壁面は「窯変白ブライト」で仕上げ、それを背景にメガネの棚が設けられている。光沢とメガネタイルの凹凸感が明るい印象を生み出している。メガネタイルを張ってつくられた6台の島什器は、天板表面だけでなく、メガネを収納する引き出しの面も同じメガネタイルで、タイルがより近く感じられる。
タイル目地もうまく活用された。「お店の特性上、アタッチメントの取り外しのしやすさが重要視されます。タイルの施工に必要な目地を生かし、目地部分を空洞にすることでアタッチメントの脱着ができるようにしています」と西川さん。長さ方向3メートルのセンターラインに、メガネを置く着脱式傾斜トレイ、POPパネル、ミラーパネルといったアタッチメントが取り付けられて、目地に100mm差し込むかたちで固定しつつ、取り外しや移動も簡単にできる。
取材・文/清水潤 撮影/長谷川健太(特記をのぞく) 久高良二(★印) 編集/豊永郁代 イラストレーション/ツバメアーキテクツ
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公開日:2024年03月25日