ジブリパーク 「ジブリの大倉庫」

ジブリパーク 人々をいざなうタイルで彩られた中央階段

白石普、吉永美帆子(タイル職人/Euclid)、芦澤忠(LIXILやきもの工房)

取材を行った東京都府中市にあるEuclidのアトリエで、左から吉永氏、白石氏、芦澤
取材を行った東京都府中市にあるEuclidのアトリエで、左から吉永氏、白石氏、芦澤

2022年11月、愛知県の「愛・地球博記念公園(モリコロパーク)」内に「ジブリパーク」が開園し、今話題を呼んでいます。スタジオジブリ作品の世界を表現した公園施設には大きなアトラクションや乗り物はなく、広大な自然の中に5つのエリアが点在し、スタジオジブリの名作の世界を散策できます。今回の第1期開園は、「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」の3エリア。ジブリの秘密が詰まったメインエリア「ジブリの大倉庫」には、色鮮やかな美しいタイル張りの中央階段が設けられ、人々を迎え入れます。今回、その中央階段と周辺のタイル装飾を手掛けたタイル職人ユニット・株式会社Euclidの白石普氏と吉永美帆子氏に、LIXILやきもの工房の芦澤忠と共にお話を伺いました。

ジブリパークのためのオリジナルタイル

「ジブリの大倉庫」につくられた中央階段
ジブリパークの第1期メインエリアである「ジブリの大倉庫」につくられた中央階段。色鮮やかなさまざまなタイルで彩られた空間が訪れる人々を迎え入れる
株式会社Euclid 白石 普氏
株式会社Euclid
白石 普氏

──「ジブリの大倉庫」の中央階段には144色20万枚にも及ぶタイルが使われているそうですが、もの凄い数ですね。

白石氏:約150色だと思いますが、最近、フィボナッチ数列にハマっていて、全部の色数をフィボナッチ数で決めると144色になります。ジブリの世界を表す精神というか、そういったところにこだわってみました。

※フィボナッチ数列:自然界に多く見られる数列。0、1 あるいは1、1から始まり前の項の2つの数字を足したものがその項の数字になっていく数列のこと

吉永氏:最初、タイルの枚数もフィボナッチ数で196,418枚と語っていましたが、凄い細かい数字だから、周りから「そんなの嘘でしょ」と言われていました。(笑)

白石氏:(愛・地球博記念公園に点在する)ジブリパークは、愛・地球博のテーマである「自然の叡智」が理念として引き継がれ、自然への敬意や生命への尊びを大切にされています。愛知県もジブリの世界観とともに、この愛・地球博の理念を後世に残したいとの思いがあった。そこはタイルづくりにもきちんと活かそうと、数にもこだわったわけです。

株式会社Euclid 吉永 美帆子氏
株式会社Euclid
吉永 美帆子氏
「ジブリの大倉庫」のイメージ図はセル画でできている
「ジブリの大倉庫」のイメージ図はセル画でできている。中央階段のタイル装飾部分に手描きで色を塗った

──オリジナルタイルはブーゲンビリアの花と天空(南十字星)とジブリを表したテーマ(熱風)からデザインされたと伺っています。

つくるガウディ
2017年に開催されたINAXライブミュージアム10周年特別展『つくるガウディ』(提供:LIXIL)

白石氏:ガウディ展の時と同じですが、僕のタイルのつくり方としてテーマや理念などからポイントを見つけて、点が線でつながって面になるイメージです。「ジブリの大倉庫」となる現場を見たときはコンクリートの塊で、どんなかたちになるかは分かりませんでした。ここはかつて屋内プールだった場所で、天井はガラス張りだし、熱帯植物園のように植物が一面に植えられると聞いた。なので、もの凄く明るい色にして、僕が以前滞在していたモロッコや南国をイメージした色を使って鮮やかな空間にしたいと考えました。花は咲かないだろうから熱帯植物のグリーンの中にタイルで花を表現しようと。ブーゲンビリアみたいな形と鮮やかな色を使いたいというのは当初からありました。

※ガウディ展:INAXライブミュージアム10周年特別展『つくるガウディ』

──どうやってタイルを鮮やかな色に仕上げたのでしょうか。

オリジナルタイル
オリジナルタイル。写真手前右端が南十字星から展開していったブーゲンビリアのタイル

白石氏:やはり釉薬と温度ですね。日本は雨が多いので1200〜1300度で焼かないと焼き締まらない。そうしないと水を吸って汚れやすくなるので、日本のタイルはとにかく焼く温度が高い。ヨーロッパは雨が降らず土も違っていて1000度くらいで焼き締まります。モロッコは明らかにそうで、モザイクタイルは700〜800度で焼いてもしっかり素地が締まっている。1000度程度でも締まる土を持っていて低温で焼けるので、明るい色が出せます。今回、使っているタイルの土は日本のもので、1200度で素焼きして焼き締めてから施釉し、本焼きを900〜1000度で2度焼きしています。

株式会社LIXIL デザイン・新技術統括部 やきもの工房 芦澤 忠
株式会社LIXIL デザイン・新技術統括部 やきもの工房
芦澤 忠

芦澤:1回焼き締めてからだと釉薬を吸わないので難しいですね。900度程度で素焼きすると素地自体が釉薬を吸ってくれて、すぐに乾くので扱いやすいのですが、高温で焼き締めてしまうと釉薬を吸わないので乾かない。そういった意味で作業性もよくなくて、時間も掛かっているはずです。

白石氏:芦澤さんは見てお分かりだと思いますが、「ジブリの大倉庫」のオリジナルタイルは全部釉薬をハンドディップでつけています。

※ハンドディップ:手で一つひとつのタイルに釉薬をつけること

芦澤:これは、途方もない労力が掛かっていると思います。

白石氏:ハンドディップしたのはタイル全体の半分くらいだったかな。10万枚くらいで、後はメーカーさんで流してもらったものもあります。ただ、それだと釉薬を吸わないのでだいぶ仕上がりが違ってきますね。

芦澤:流すというのは、上からスプレーで吹きかけて色をのせていく感じですね。

白石氏:それも想定して、タイル側面にわざとバリを残して釉薬を止めています。焼き締めてから施釉するので、釉薬がのらずに垂れてしまわないようバリのデザインまで自分でやっています。

芦澤:施工性を優先すると、タイル側面のバリは取ってしまいますね。

白石氏:タイルを手張りしたので問題ありませんが、ネット張りにしてユニット化する際、バリは邪魔になりますよね。

釉薬が垂れないようオリジナルタイル側面に傾斜をつけている
釉薬が垂れないようオリジナルタイル側面に傾斜をつけている
一度焼いたものを再生したタイル
一度焼いたものを再生したタイル。一つひとつ釉薬をハンドディップした

芦澤:白石さんは、ご自分で施工されているので、今回ネット張りがなくても成り立っていますが、当初は、「どうネット張りをして納めるか」ということが課題でした。ネット張りするとある程度タイル枚数をまとめて組んで張るため、「躯体の形状に合わせて張られているか」「現場で差し色をどう入れるか」、そういったことが課題になってきます。ですから、「ジブリの大倉庫」の中央階段は手張りで1枚ずつ張るしかなく、白石さんにしかできなかった仕事だと思います。

白石氏:単純に手間がかかります。同じアール(曲線)がずっと続いていると比較的作業しやすいのですが、それが山なりになったり、途中で穴が開いていたり、きつい曲面なので難しいですね。
今回、とにかく時間がない中、2021年7月の依頼から9月にタイルをつくり始めて、10月には現場に入って下地の確認をし、11月に張り始めた。ただ、その時点では、色幅が欲しいこともあってオリジナルタイルの完成は間に合わず1月から張っています。その間、どうやって現場をもたせたかというと再生タイルです。オリジナルタイルを焼かせてもらっていた工場で出る廃棄タイル、いわゆる二丁掛けタイルで、焼き上がりが曲がったり、切れたりしたものをどんどん捨てていた。ゴミじゃなくて、砕いて次の土に混ぜたりしていましたが、それにしてももの凄い量が出るので、これを割って、釉薬をハンドディップして使いました。ハンドディップじゃないと、こんな焼き締まったものに色がのらない。その工場では、いろいろなレンガタイルをつくっていて、素地がグレーだったり、白かったり、茶色かったり。それに色を付けると、下地の色と重なってムラがいい感じに出るので、その再生タイルを先に現場に張っていきました。

再生タイルを使った装飾
再生タイルを使った装飾。タイトなスケジュールだったため、オリジナルタイルを制作している間に、先行して再生タイルを現場に張っていった

──タイルはどこで焼かれたのですか。

「ジブリの大倉庫」のためにつくられたさまざまなタイル
「ジブリの大倉庫」のためにつくられたさまざまなタイル

白石氏:形は多治見市の笠原でつくって、焼くところは笠原と瀬戸などに分散しました。笠原のメーカーさんは、少し珍しいのですが1080度のトンネル窯、それと電気窯も使っています。瀬戸のメーカーさんは1250度のトンネル窯とシャトル窯で、この4つの窯を使って焼きました。1080度と1250度のトンネル窯、電気、ガス窯です。電気とガス窯は温度を自由に設定できるので、焼き上がりの色幅(色ムラ)をつくるために窯ごとに温度を細かくコントロールしました。そのために同じ色形のタイルを「これ電気で900度、ガスで900度」という感じで焼いていました。

芦澤:窯が違うと全く違って出てきますね。

白石氏:時間的に間に合わないからというのもありましたが、色ムラを出すためにいろいろな窯を使うことも狙いでした。

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公開日:2023年03月13日