ジブリパーク 「ジブリの大倉庫」
ジブリパーク 人々をいざなうタイルで彩られた中央階段
白石普、吉永美帆子(タイル職人/Euclid)、芦澤忠(LIXILやきもの工房)
曲線のタイルだから描ける豊かな表現
──なぜタイルは約150色にも及んだのでしょうか。
白石氏:色鮮やかな豊かな空間にするためにカラフルにしたかった。
吉永氏:そのために、暖色系やピンク系の色を出す試みをしました。
白石氏:ピンクは難しかった。ピンクだけは日本の材料では再現できなくてフランスから輸入しました。実物のブーゲンビリアみたいなショッキングピンク色を再現したかったのですが、鮮やかな色は難しいんです。
吉永氏:釉薬のメーカーさんとの打ち合わせで、どんな色を再現したいのかと問われるので、想像していたピンクに近いクリアファイルの四隅を切って色見本として渡しましたが、「そんな色できる訳がない。無理!」と断られました。「なんとかしてください!」ってお願いしたんですけどね。
白石氏:採用したピンクも色を出すのが難しかった。
吉永氏:ピンクは特に不安定で、ピンク色に発色しないで白くなってしまったり、焼くと消えていったりします。
白石氏:「ジブリの大倉庫」の中央階段に行くとこのピンク色が結構、効いています。日本の色彩感覚では使わない色遣いかもしれませんが、モロッコの幾何学模様では反対色を合わせていきます。差し色というと反対色ですよね。メインは水色や緑色でいこうと考えていましたが、そこに色を差さないといけない。そうなるとピンクや黄、赤といった色が欲しくなってくる。同系色の中に反対色が入ると凄く映えます。
そもそも(ジブリパークの制作現場を指揮する監督の宮崎)吾朗さんがジブリパークは和でもなく洋でもなく、無国籍と言っていました。この世にない世界。このカラフルな色彩のタイルができたのは屋内空間だからで、屋外の場所だったら耐久性が求められ問題になっていたと思います。公共施設で、しかも屋内で、これほど自由な発想でつくらせてもらえるのは、あまりないことです。一度はやってみたいということが、ジブリパークでできた。
──オリジナルタイルには曜日の名前がついているそうですね。
白石氏:7つの形があるので、月曜から日曜まで曜日の名前をつけました。月曜の形は日曜と金曜のタイルでできている。火曜は木曜と土曜でできていて、水曜は日曜と土曜でできています。これだけのパターンで、いろいろな形を展開していけます。カプローニという名のタイルは、ジブリアニメの「紅の豚」で飛行機を製造していたイタリアのメーカーの名前ですが、月曜・火曜・月曜・火曜のパターンからなっています。
吉永氏:ということは、分割もできるということです。だから曜日のタイルを組み合わせる時に差し色を入れてパターン化もできます。
白石氏:吾朗さんに「こういう(7形状の組み合わせ)スタイルでいきませんか」と説明に行ったときに、なんて答えたと思いますか? 「タイルだね」と言ったんですよ。タイリングの神髄を知っているからこその言葉ですよね。ランドスケープをやられているので、石積みやレンガ積み、タイル張りにも造詣が深くて、そういった数学にも強いのか、「これで、曲面もタイリングできるのか」と、普通に“タイリング”という言葉を使われていました。
──四角ではなく曲線のタイルで自在に模様を描いていくのが本来のタイリングということでしょうか。
白石氏:これが、僕がやっているタイルです。吾朗さんは、幾何学の発展でやっている“Euclid”という会社名も理解されていました。日本でもヨーロッパでも、基本は四角いタイルですが、イスラムは違います。なぜかと言えば、曲面をまわしたいからです。モスクのドーム天井は宇宙を表現し、メッカの方向に丸い祠(ほこら)のようなミフラーブを必ずつくります。それが全部曲面でタイル装飾されている。3次元曲面ですから四角いタイルではどうにもならない。だから曲線のタイルを使います。
吉永氏:中央階段に張った曜日のオリジナルタイルは、最初にできたブーゲンビリアの形から派生したものと、それらを分割したものと組み合わせたものなので、いくらでもタイリングできます。
今回のオリジナルタイルを張る職人は、まず7つの形とパターンを覚えなくてはならないので、頭の中がぐちゃぐちゃになりますね。
白石氏:パターンとして無限に展開できますが、曲面に張っていくうちに狂ってくることもあります。だから、揃えているところもあるし、狂わせているところもあります。狂ったときは、クラッシュタイルと同じようにランダムに張っていきます。
中央階段とエレベーター塔を調和させる
──中央階段に隣接するエレベーター塔の艶消しの青色が印象的です。
白石氏:エレベーター塔は「風の谷のナウシカ」の風がテーマの水色のエリアと、「となりのトトロ」の森がテーマの緑色のエリアに挟まれています。エレベーター塔以外の「ジブリの大倉庫」内の建物は、仕上げが木や左官が多く、また鮮やかなタイルの中央階段に接しているのに、エレベーター塔はタイルの指示でした。タイルとタイルでぶつかるところは、上手くセッションしないといけない。同じ素材同士だから隣り合うタイルと喧嘩しないように考え、エレベーター塔のタイルは艶消しにして表情に変化を持たせた。鮮やかな青だけれども風と森に挟まれた、深い海みたいな色合いを表現しました。
芦澤:エレベーター塔のタイルは、白石さんとやきもの工房とコラボさせていただきました。白石さんから受け取った目標のタイル見本は、一つのタイルで少し薄い青と濃い青が同居しているので奥行きもあり、微妙な表情の出方を試みましたが難しかった。いろいろな釉薬を使ってみたり自分たちでもつくりましたがこの色合いになかなか近づかなくて、毎日、青いタイルを焼き続け、苦労しました。
白石氏:ひし形の艶消しの青いタイルで壁が立ち上がり、金色の細ボーダー、鱗状に張ったコーニスのトルコブルーのタイルの3色でつくったエレベーター塔上部の四隅の留めをどうするかとなって、僕が粘土で勾玉のようなデザインモデルをつくり、LIXILやきもの工房で製作してもらいました。
芦澤:建築的にコーナーの処理が凄く難しいところで、最後までなかなか決まりませんでした。粘土を「ジブリの大倉庫」の現場に持ち込んで、夕方、ひと仕事終わったお疲れのタイミングで白石さんにお願いしてしまいました。
白石氏:19時、20時に「角の留めの形が決まらないからやってくれ」って。こっちも仕事モードの延長線で気持ちが高ぶっているから、「丸みを持たせて、曲線のフォルムでなきゃ駄目だ」とか言って勢いでできた形です。建築のプロからは「エレベーター塔がいい」と評価をもらいましたよ。
──「つくるガウディ」展で制作されたタイル「ルーザ」も使われていますが、採用のポイントは何でしょうか。
白石氏:INAXライブミュージアム10周年記念のガウディ展※で公開制作させてもらって、反響もあったけれど、結果的につくったものは解体されてなくなってしまった。自分でも満足していたので、そこでデザインしたタイルをいつかどこかで使いたいと思っていました。とはいえ、個人邸でその人のためだけにというのではなくて、できれば多くの人に見て触ってもらえるような場で使いたいと考えていました。
今回のオリジナルタイルを曲面に張ると尖ったところが出てきてしまう。それを2枚合わせると鋭角で尖っているのが鈍角になり、触り心地がよくなります。それを繰り返しやって全部を張っていくのですが、1枚だと尖がったオリジナルタイルも立体的な丸みのある「ルーザ」と鋭角とを合わせれば、クッションになって子どもが触っても怪我をしない。触り心地をよくするためにも「ルーザ」は必要だったタイルですね。
──「ルーザ」が効果的に使われているところはどこですか。
白石氏:水が流れるカスケード全面に使っています。円形のカスケードで一番アールがきつい箇所なので、全て「ルーザ」で仕上げることにしました。
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公開日:2023年03月13日