上野トイレミュージアム×LIXIL
藝大生が創作した体内と自然の循環を感受するトイレ
2020年9月、東京都の上野恩賜公園に「上野トイレミュージアム」がオープンしました。同公園内に点在するトイレのひとつで、芸術の散歩道近くに設置されています。東京都建設局公園緑地部では、これまでも東京藝術大学と上野公園で学生の作品展示などを通じて協働しており、今回も同大学との連携を考え協力を依頼。同大学院美術研究科建築専攻中山研究室のゼミ生が中心となり、工芸、絵画、デザイン、音楽などの学生がそれぞれの分野を活かして改修しました。「排泄と環境」をテーマにしたトイレは、体の中にある小さな循環を学生たちによる作品で空間構成し、そこから地球環境に関わる循環へと繋げていくミュージアムとしての役割も担っています。今回は、「上野トイレミュージアム」の改修プロジェクトに携わった学生の皆さんに、その取り組みについてお話を伺いました。
「排泄と環境」を考えるミュージアムのようなトイレ
——どのような経緯で学生による取り組みとなったのでしょうか。
伊藤さん:プロジェクトの発端は、2019年の5月頃に日比野克彦美術学部長から建築専攻の中山英之准教授に「上野公園のトイレを改修することになった。施設改修といえば建築だろう」と話をいただきました。そこから中山研究室のゼミでトイレ改修することになり、われわれ学生がプロジェクトを引き受けることになりました。せっかくだから藝大らしいユニークなトイレにしたいと思い、「みんな、藝大に友達いる?」と声を掛けて、それぞれの科に協力をお願いして、藝大で一つのものをつくることになりました。
西條さん:上野トイレミュージアムのテーマは「排泄と環境」です。それは先生と学生で話し合いながら決まっていきました。
伊藤さん: 一般的に、“うんち”は不浄なもので忌み嫌われているイメージありますが、そうではなく自分の健康を見直せるような施設にしたいと考えました。改修するトイレの周辺には、上野動物園や上野美術館群があるので、“うんちミュージアム”がいいのではないかとなった。そこから、中山研究室で近隣の病院や上野動物園にヒアリングしていくなかで、「排泄と環境」がテーマになっていきました。建築の中山研究室が、主にトイレの改修と計画の図面や現場の工事に携わる部分を担当したほか、各科の取りまとめ役を担いました。中山研究室のゼミ生5人がそれぞれ担当の科を決めて、例えば、僕の場合は陶芸担当で、陶芸の学生と一緒に話し合いプロジェクトを進めていきました。
——施設入口やトイレブースの曲線が印象的です。空間デザインの演出について教えてください。
西條さん:例えば、上野トイレミュージアムの入口の曲線がどこから来ているかというと、トイレを一つの体の中と仮定してストーリーをつくっています。まずトイレの建物に入って、男子トイレと女子トイレに分かれますが、ひと繋がりの空間にするためにアール(曲線)を用いました。これは、口から食道を通り排泄までの過程が、実は外の自然界と食物連鎖して地球環境に循環している。体の中にあるけれども外の空間というストーリーと結び付けて設計をしています。平面図の段階からそのイメージでつくってきて、正面入口を口として入っていきトイレブース、裏口へと抜けていく、回遊する空間になっています。今回の改修では外観には触れないことを条件として進めていったので、内部は白色に塗り、外部はローバル塗装で艶消しのグレーにすることで内と外を明確にするなどといったディテールも設計で伝えてみました。
伊藤さん:便器や手洗いなどの資材については、公共のトイレなので、便器に蓋を付けられないなどの制約があります。公共トイレ手引きを参考に、コスト面でのバランスも見ながらLIXILのカタログから選んでいきました。上野トイレミュージアムはミュージアムとしての役割も持っていますが、まずはトイレなので実用的で清潔、これは外せない。それでいてひとつのアイコンとなるような、上野を訪れる人たちに愛されるような施設にしたい。そういったヒエラルキーで考えました。竣工してから一週間位、心配で現場に張り込み、木陰から様子をうかがっていました。そうしたら本当にさまざまな人たちが写真を撮ったり、「綺麗になったね」と喜んでくれたり、上野高校の学生たちが「こんなのあったんだ」「面白い」と言ってくれているのを眺めて、すごくホッとしましたね。やっていてよかったと思いました。
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公開日:2020年12月23日