築地本願寺 × LIXIL
伊東忠太の空間を生かす─復原タイルへの挑戦
長澤輝明(株式会社三菱地所設計)
インフォメーションセンターの外壁タイルに求められた質感の表現
今回、新たに設置されたインフォメーションセンターについて、前出の長澤氏は、設計のポイントを次のように語っています。
「インフォメーションセンターは、軽快な建物にしたかったので、鉄骨造で大きなスパンを飛ばした大空間になっています。ここは参拝者とお寺をつなぐ“門”であり“寺の縁”という位置づけです。存在感のある本堂に対してヴォリュームを押さえ、本堂側を全面ガラスにすることで、しっかり本堂が眺められるようになっています。内部は、来訪者が落ち着けるよう、“木で包まれた空間”にしたかったので、床や天井、テーブルや椅子などすべて木で統一しています。本堂を眺めながらゆっくり時間を過ごしていただける空間になったと思いますよ」。
広々としたカフェに、築地本願寺ゆかりのグッズが置かれたショップ、インフォメーションデスクに展示空間、これらが一続きの空間にあり、2階のカフェ上部は屋上として、境内を一望できる空間になっています。
そして、インフォメーションセンターの外観には、LIXILのオリジナルタイルが使われています。長澤氏からLIXILに出された要望は、本堂と色調を合わせるということでした。本堂外壁に使われている石は、日本の銘石の一つである岡山県産の万成石(まんなりいし)で、ほんのりとした桜色の中に黄色味や錆の赤味が混じり、そのやさしい風合いは昔も今も大変人気で、銀座和光や明治神宮宝物館の外壁にもこの万成石が使われています。外壁タイルには、この万成石のイメージを引き継ぐような色味とテクスチャーが求められました。
試作では、やさしい風合い、やわらかい素材感が望まれたことから湿式製法を選択。表面のテクスチャーは、「フラットなもの」、「少し粗面にしたもの」、「フラットではあるが本石にあるような黒い斑点を入れたもの」の3種類を試作し、結果的に フラットで無垢な表情が選ばれ、つやを落としたシルキーな質感としました。色合いについては、奥行き感を表現するため、モノトーン系、黄味系、ピンク味系の3種類をミックスすることになり、その結果、白壁に柔らかい変化のある表情が生まれました。
タイルにまつわる話がもう一つあります。長澤氏のアイデアで、カフェのカウンター背面に、本堂のラウンジで使った復原タイルが張られました。このことで、新旧の建物にイメージの継承と繋がりが生まれています。
こうした技術者たちのこだわりと、それを実現するための努力の積み重ねで、価値ある建築空間が蘇りました。ぜひこの機会に、伊東忠太の想いに触れられる空間を訪ねてみてはいかがでしょう。
■データ
名称 | 築地本願寺境内整備 インフォメーションセンター・合同墓 |
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所在地 | 東京都中央区築地3-15-1 |
主要用途 | 寺院 |
設計 | 株式会社三菱地所設計 |
施工 | 松井建設株式会社 |
タイル 施工 |
株式会社日本陶業 |
規模 |
敷地面積 19,526.61m2
建築面積 6,824.37m2 延床面積 14,802.25m2
インフォメーションセンター
1階 628.64m2 2階 223.91m2 塔屋階 31.90m2 階数 地上2階 塔屋1階
合同墓
地下1階 252.80m2 1階 100.73m2 階段 地上1階 地下1階 |
竣工 | 2017年10月 |
LIXIL 使用商品 |
■本堂1階ラウンジ復原タイル:
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取材・文/フォンテルノ 撮影/エスエス企画
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公開日:2018年05月31日