REPORT イオンモール常滑
“招き猫”が迎えるショッピングモールに
おもてなしのトイレ空間が誕生
『商店建築』2016年1月号 掲載
伊東豊雄氏が提唱する「自然を感じ、人と人との心がつながる開かれた空間」。
2015年12月4日、愛知県常滑市に“海と空を120 %楽しむエンターテインメントパーク”をコンセプトとした「イオンモール常滑」がグランドオープンした。招き猫の生産地であることから、招き猫を随所に配したレストラン街と屋外エリアについて、そして、高い次元での“快適性”を実現したトイレ空間の魅力をレポートします。
レストラン街の真ん中に鎮座する巨大招き猫
イオンモール㈱が運営する施設としては東海三県では最大となる約20万2000㎡の広大な敷地には、核店舗となる「イオンスタイル常滑」の他、物販、飲食、サービスなど約180の専門店と屋外体験型エンターテインメントパーク「ワンダーフォレスト きゅりお」が出店。名古屋市内から鉄道で最速30分弱で到着するりんくう常滑駅から徒歩1分、中部国際空港セントレアとの間には無料シャトルバスも運行され、県内の人々はもちろん、外国人を含めた空港利用客の集客も見込んでいる。
「イオンモール常滑」では、常滑市を含む知多半島の自然、歴史、文化など、この地が持つ魅力を積極的に発信するPR機能も担っていくという。それを具現化した空間が、15店舗からなるレストラン街「常滑のれん街」である。日本情緒溢れるエントランスから中へと足を踏み入れると、そこには昔ながらの宿場町が再現されている。そして、何よりも来場者の目を引くのが、中央に鎮座する高さ約7mの巨大な招き猫である。レストラン街の環境デザインを手掛けた橋本夕紀夫氏は、この招き猫こそがコンセプトワークにおける大きな鍵になったと語る。
「常滑は全国的にも有名な常滑焼の街であり、招き猫の生産地でもあります。ターゲットはあらゆる人たち。地元だけでなく、インバウンドの方々など、年齢、性別、国籍もさまざまな人たちに楽しんでもらえるようにするため、分かりやすい日本を表現する必要がありました。招き猫は非常に分かりやすいアイコンになり得ると考え、まず最初に巨大な招き猫を中央に据えることが決まりました。宿場町をテーマにインテリアをつくり込み、エントランス脇の祠には金の招き猫を、更に屋外にも大小約50体の招き猫を配置。これらは、地域の窯元や作家などによるオリジナルの招き猫であり、そのうちの14体は愛知県立芸術大学の学生の作品で、常滑市内にあるINAXライブミュージアム内の「LIXILものづくり工房」で絵付けし焼成されたものです。また、僕自身も2階のフードコートへの地上エントランスに踊る猫のキャラクターデザインを手掛け、2体置かせてもらっています(笑)」
共用通路は、軒先に下がる行灯と白いのれんで統一され、床材にはダイナワンの2種類の磁器質タイルを採用。趣のある石畳のような色合いは街道の雰囲気を演出し、その両端には木目調のタイルが敷かれている。この部分は各テナントが自由に使えるスペースとなっており、通路に向かってレストランのサインボードやメニューが迫り出すことでにぎわい感を生み出している。また、レストラン街へ通じる壁面には瓶が埋め込まれ、常滑が焼き物の街であることを感じられるようになっている。
「設計に入る前に常滑の街を視察しました。土管と瓶に囲まれた土管坂など昔ながらの風景が残っており、こんな良いところがあるんだなと思いました。『常滑のれん街』は、そんな常滑の街の新しい名所としてデザインしました。ここに来て、それからまた常滑の街にも足を運んでもらえればと思っています」(橋本氏)
愛知県立芸術大学准教授・夏目知道氏に聞く
学生参加の招き猫づくり
常滑に新規オープンするイオンモールが地域の人々とのコミュニケーションを図る仕掛けをしたいということで、昨年の夏、イオンモール㈱の方からお声掛けいただいたのがきっかけです。“日本 ”らしさをテーマに学内で「招き猫デザインコンペティション」を開き、広く募集をかけました。二つのカテゴリーを設け、一つは「LIXIL ものづくり工房」で用意された高さ約40㎝ の素焼きの招き猫への絵付け案。もう一つはまったくのオリジナル招き猫の創作案を募集しました。
計42案が集まり、今年3月の審査の結果、絵付けのカテゴリーでは、歌舞伎ねこ、忍び猫といった和を連想させるものから、ネコ型ロボット、デコニャンといった日本のポップカルチャーを反映させたものなど10 体、創作カテゴリーでは、富士山の上に座ってポーズを取った猫など3体に決定しました。絵付け作業は、「LIXILものづくり工房」に学生が通って行いました。私も1体特別につくらせてもらい、散歩道には作者名やコンセプトを明記して14体の招き猫を設置していただきました。学生の作品が常設展示されることは稀であり、今回の企画は大変貴重な機会となりました。〈談〉
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公開日:2016年03月01日