GIO PONTI × LIXIL
ジオ・ポンティの「愛すべき建築」
鈴野浩一、禿真哉(トラフ建築設計事務所)
大阪のLIXILギャラリーで「建築の皮膚と体温〜イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界〜」展が開催されています(2014年6月6日〜8月19日)。この展覧会は、昨年、常滑のINAXライブミュージアムで好評を博した「建築の皮膚と体温〜イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界〜」 展の展示を再構成して、新たにムービーやパネルの展示を追加したものです。なお本展は、秋には東京にも巡回する予定です。
言葉から探る作品の魅力
ジオ・ポンティは20世紀のイタリアを代表する建築家です。ミラノのピレッリ高層ビル(1956年)、ソレントのホテル・パルコ・デイ・プリンチピ(1962年)、米国デンバーのデンバー美術館(1970年)などの建築を設計したほか、家具や食器などのデザインにも腕をふるいました。ポンティは、モダン建築が特徴としていた抽象的な箱形の空間構成とはベクトルが異なり、より豊かで味わいのある建築をつくりあげたことで知られています。そこにいることで人は喜びを感じ、その空間が好きになってしまう、そんな建築なのです。
ポンティが遺した著作は『建築を愛しなさい』とタイトルが付けられています。この本から言葉を引きながら、彼の「愛すべき建築」の魅力を、外壁、内壁、床、窓といった部位ごとに、見ていきましょう。
外壁 自由に展開するもの
「かつて壁と窓の関係性は<疎と密>で定義されていました。 壁は固体であるがゆえに密であり、窓は孔であるがゆえに疎。ある閉じたボリュームのなかで、密はいつも疎を支配してきました。…しかし今日の壁はもはや、かつての固体、密な真の壁ではありません。それは骨格を覆う皮膚なのです」
ポンティが設計したサン・フランチェスコ教会(イタリア、ミラノ)では、ファサードがところどころで躯体から離れ、自立して展開していきます。構造から解き放たれて、自由にひるがえるのです。そして、その面を覆うピラミッド型のタイルは、天候や時刻の光の反射によって様々に色を変化させます。建物はまるで生きているかのように、表情を変えていきます。
内壁 触りたくなる形
「建築をつくりましょう! 建築をもってする以外にはできないものをつくりましょう! 建築は、外は厳格で緊密なもの、内は遊びと驚きに満ちた有機体です。外側は結晶ですが、内側には人生があります!」
ポンティにとってのタイルは、2次元の面をつくるものではありません。それ自体が厚みや深みをもった3次元の素材なのです。彼が設計したホテル・パルコ・デイ・プリンチピのレセプションやレストランには、ぷくりと膨らんだ小石形のタイルが用いられています。それは思わず、触りたくなる形をしています。人間に近いところにある内壁は、視覚だけでなく触覚をも楽しませるものなのです。
床 パターンの創成
「自然のなかに差し入れられた建築の秩序は、床から始まります。床は法則であり、結晶の投影です。そして床は、建築を完成し躍動させるすべての可動なものと生きるものが、その上で戯れるチェス盤なのです」
海辺に立つホテル・パルコ・デイ・プリンチピの客室には、地中海の青さをそのまま室内に引き込むかのような青のタイルが使われました。また床タイルは1枚でも美しいですが、敷き詰めることでいっそうの面白さを発揮します。同じ模様のタイルでも、その並べ方を変えるだけでまったく異なるパターンがいくつも生まれてくるのです。
窓 人と建築を結ぶもの
「建築のファサードとは理想的にいえば、白い紙片のように無垢な表面です。建築の秘かな遊び、デザイン、躍動は窓から始まります。一方、墓のファサードには窓がありません。そこから誰も顔を覗かせることはないからです。 窓とは生命であり、なかに生きるもののためにあるのです」
ファサードに穿たれた穴であるところの窓は、その中にいる人間を感じさせる部位です。ポンティの建築では多くの場合、単一の窓ではなく、様々な形の窓が並んでいます。それはあたかも、人がそれぞれに違う個性をもっているかのごとくです。
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公開日:2014年06月30日