富士市立岩松北小学校×静岡県富士市×LIXIL
コロナ禍の教室環境改善で子どもたちを守りたい
──スタイルシェード実証実験の取り組み
座談会参加者(敬称略、順不同)
■宮川貴志(静岡県富士市立岩松北小学校校長)
■石川 薫(静岡県富士市立岩松北小学校養護教諭)
■大畠美奈(富士市役所 環境部環境総務課主査)
■飯盛光洋(株式会社LIXIL LHTJ サッシ・ドア事業部 窓まわりSBU 窓まわり商品開発室 室長)
■田中邦義(株式会社LIXIL LHTJ 営業本部 営業企画部主幹)
近年の夏の猛暑下では、住居で熱中症になる割合が4割と高く、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大という新たな脅威が発生し、感染防止策として窓を開けての換気が求められた。
そのような中、静岡県にある富士市立岩松北小学校(以下、岩松北小学校)では、富士市やLIXILと連携し、この夏、児童と教師が主体となって教室内の温熱環境改善に取り組んだ。3カ月にわたる実証実験を繰り返しながら、ついに屋外日よけと窓の開閉を組み合わせた最適解を見つけ出すことができた。
室内熱中症予防に取り組んできたLIXILの技術者たちとの交流を通して、子どもたちの探究心が刺激され最後までやり遂げた彼らのプロジェクトは、「ひと涼みアワード2020」※1 の官民連携部門で最優秀賞を受賞し、「行政部門トップランナー賞」にも選定されるなど高い評価を得た。
プロジェクトの仕掛け人である岩松北小学校のお二人の先生と、富士市環境部、LIXIL担当者に、この取り組みの成果と意義についてお話しをうかがった。
岩松北小学校とLIXILの共同プロジェクトまでの経緯
田中:
本日はお忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございます。岩松北小学校が取り組んできた、教室内の温熱環境を改善するプロジェクトが、「ひと涼みアワード2020」のトップランナー賞を受賞されましたこと、おめでとうございます。宮川校長先生、石川先生、富士市役所の方々のご協力はもちろんですが、なにより学校の児童たちが頑張った結果が受賞につながったと思います。私たちLIXILメンバーもとてもうれしい気持ちになりました。この結果を広く伝えていきたいと思い、この座談会を企画しました。どうぞよろしくお願いいたします。
宮川校長:
私は今年(2020)の4月に岩松北小学校に赴任したばかりです。この学校の最大の強みは、2013年からユネスコスクール※2 に加盟していて、以前からESD(持続可能な社会づくりの担い手を育てる教育)やSDGs※3 に取り組んできたことです。本校では独自の「けやき学習」※4 を通して、身近な課題や問題を見つけ、児童や教師が主体的に考えて解決していくという、学校の風土がありました。
これまでも夏の熱中症対策に取り組んできましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、「換気」という新たな問題が出てきました。
本校3階南面の4年生の教室は、向かいにある体育館の屋根の照り返しがまぶしくて黒板が見えない、屋根で熱せられた風が教室に入ってきて暑い、という問題がかねてからありました。昨年6月に全教室にエアコンが付けられましたが、コロナで窓を開けないといけない状況になり、「窓際のカーテンがひらひらして授業に集中できない」「教室で暑いところと寒いところの差がある」など、新たな訴えが児童たちから起こりました。
本校は“開かれた教育”という目標を持っていますので、富士市や企業とコラボレーションして何かできないかと、いろいろ声をかけていました。コロナ禍で暗い雰囲気もあり、なかなか話が進まなかったのですが、以前から熱中症対策に取り組んできた養護教諭の石川先生がLIXILさんのホームページで熱中症対策への取り組みを見つけ、ダメもとでLIXILさんにお話をしたところ、田中さんと出会えて話が進んだわけです。
石川先生:
2019年に「ひと涼みアワード」のプレゼンテーションのため東京に出張した際、埼玉県熊谷市とLIXILさんの取り組みについて知りました。発表の中でLIXILさんが市民の健康を考えた活動をされていたことがとても印象に残り、また環境省の方が、これからは官民連携の時代だということを何度もおっしゃっていたので、「これは!」と思ったのです。
「ひと涼みアワード」では、いろいろな企業の発表がありとても勉強になったのですが、企業だけではできないこと、行政や学校だけでもできないことがあるのではないかと感じました。その思いをしばらく一人で温めて、悩んでいたのですが、教室環境の改善は、このコロナ禍の時代を子どもたちが切り抜けるためにはどうしても解決しないといけない課題だと思い、校長先生に相談したら、「よし!電話してみよう」ということでLIXILさんとつながったのです。
飯盛:
近年は夏の猛暑で年間7万人以上が熱中症で救急搬送されていて、なんとそのうちの約4割が住居で熱中症になっています。室内の温度上昇をおさえるには窓の外側で日射遮蔽することが有効ですので、LIXILでは2017年より自治体と連携し、室内熱中症の予防として日よけを習慣化する啓発活動「クールdeピースPROJECT」※5 を進めてきました。そのような中、岩松北小学校の宮川校長先生から、教室の温熱環境を改善できないかと相談を受けたのです。
岩松北小学校が、児童たちの自主性を重視した教育方針であることや、学校での環境負荷低減を目指していることなどをうかがい、学校の環境教育の一環として児童たちが自ら行う実証実験を、私たちLIXILと共同で行うことをご提案させていただきました。実際に子どもたちが生活している環境で、こうしたデータはなかなか取れないので、私たちにとってもとても貴重な実験になりました。
共同検証実験「★F😊r4 y😊u★プロジェクト」とその結果
石川先生:
家庭科の“暑さを学ぶ”授業で、学校にひとつだけあった暑さ指数(WBGT)※5 測定器をベランダに出し、すだれと打ち水をする前と後を計測したらすごく数値が変わって、児童たちも思わず驚きの声をあげたことがありました。
2019年6月に全教室にエアコンが付いて、当時はそれだけで喜んでいたのですが、コロナで窓を開けなければならなくなり、座席によってかなり温度差が生じてしまいました。こうした困りごとを児童自らLIXILさんにプレゼンテーションして、共同でこの課題に取り組むことになり、4年生はこのプロジェクトを「★F😊r4 y😊u★プロジェクト」と名付けました。
校長先生が先ほどおっしゃったように、岩松北小学校は総合的な学習に力を入れています。教室内の環境で困りごとを抱えている4年生が、どう環境改善を図ることができるかという課題は、まさに総合的な学習です。またこうした取り組みは、子どもたちを通じて保護者の皆さんにも必ず伝わるので、それもとても大事なことだと思いました。
飯盛:
共同検証実験として、南に面する校舎3階の4年1組、2組、3組の3教室のベランダに弊社製品の外付け日よけの「スタイルシェード」をつけ、教室内の窓側、中央、廊下側の3カ所の気温と暑さ指数(WBGT)を1日3回、4年生の皆さんに測定してもらうことにしました。また同様に、ベランダ、エアコンの吹き出し口の温度と暑さ指数(WBGT)、エアコンの消費電力を自動計測し、空気の換気量や二酸化炭素濃度、照度の変化なども計測しました。(図1)
石川先生:
実験当初、3教室で計測したのですが、同じ日なのに3教室の室温が全く違っていました。LIXILの飯盛さんにご相談したら、窓の開け方など教室間で条件が違うのではないかとご指摘を受けたので、3教室のエアコンの設定温度、カーテンの使い方、窓の開口面積などを同じにしたらぴったり同じ室温になったんですね。これでようやく正確に実験ができることになりました。
次に取り組んだのは、エアコンを使いながら窓の開閉方法をどうするかでした。最初、シェードを付けたベランダ側の下の窓を開けていたのですが、3カ所に設置した暑さ指数(WBGT)の値では、やはり窓側の数値が高いままなのです。暑い外気が直接入りエアコンの冷気が平等に届いていないこともわかりました。子どもたちが調べた結果も、シェードを付けても3カ所の差は縮まらない、という結果でした。そのまま夏休みに突入したのですが、ここで何らかの手立てを考えないと、と思い悩み、いろいろ調べていく中で、換気方法を“上から入れて下から抜く”というのを見つけたのです。そこで夏休みの教室で試してみたら、教室内の3カ所の暑さ指数(WBGT)の値がほぼ同じ温度になりました。嬉しくなってすぐに飯盛さんに連絡を入れました。(笑)
飯盛:
素晴らしい発見だったと思います。クーラーをかけている時の換気方法の検討は初めての事ですので、さまざまな開け方を検証した結果、吸気をベランダ側の高窓からにし、排気を廊下側の地窓にすることで教室内の温度差が少なくなり、窓側の席の温熱環境が改善されることがわかりました。(図2)
窓の開閉方法を改善した後の3教室を「日射遮蔽なし」「カーテンのみ」「スタイルシェードのみ」の3パターンにし、それぞれの窓側、中央、廊下側の3カ所で、気温と暑さ指数(WBGT)を測定しました。カーテンのみの場合、窓側席の暑さ指数が27℃近くになり、環境省基準の警戒レベルとなったのに対し、スタイルシェードを使用し、窓の開閉方法を工夫することで、暑さ指数を25℃まで抑えることができました。カーテンの場合は、窓とカーテンの間に熱がこもって窓側席が暑くなっていたんですね。(図3、4)
エアコン使用時の換気方法の検証
室内温度測定結果
暑さ指数測定結果
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公開日:2021年03月24日