日本の窓を、考える<2>
日本の自然を窓辺の意匠に
本田純子(テキスタイルデザイナー)
『コンフォルト』2016 April No.149 掲載
細いフレームのサッシは空間と織物の物語を引き立てる
応接室の窓も布を重ねれば、より奥行きが感じられます。最近はLIXILサーモスシリーズサッシのような細く目立たないフレームが使われ、美しく透ける布使うを演出も引き立つようになっていますね。ここでは少し踏み出し、色彩を抑えつつも薄墨色の織物を掛けることで新たな雰囲気が生まれました。また、庭には梅の木を丹精されていましたので、梅が咲いた瞬間をイメージした織物も用意しました。シルバーの地に白梅の柄で季節感や、もてなしの気持ちを表すこともできますし、さらに晴れの場を演出するなら、思い切って紅梅に掛け替えることもできます。こんなところも布の持つ自由さ、柔軟さでしょう。
寝室はカーテンとレースの組み合わせですが、自然界のゆらぎを表し、ボリューム感を持つ織りを選びました。 一枚の布で空間は大きく変わるものだと思います。今回のしつらいのように、装飾性だけでなく豊かな質感を生かすこともできます。重ねることで保温性や保湿性が高まり、心理的に布に包まれる安心感がもたらされるのも特徴です。また、最近は繊維が進化し、軽やかなデザインで遮熱性の高い布を織ることも可能です。5年ほど前からデザインした織物と空間とのコーディネーションを提案する機会を設けていますが、それがもっとふくらみ、より建築空間の魅力が引き出されることにつながるよう願っています。
応接室の窓:パターン1
木漏れ日を背景に窓の外の樹々にモチーフを重ねる
下/アトリエの応接室では、西側に庭に面して奥行きをもたせた大きな窓が設けられている。この窓には昼下がりから夕刻にかけて陽が入る。
左/レースに映る木漏れ日を背景に、グレーの墨染色のカーテンにふくらみをもたせたしつらい。カーテンの小枝の柄が透けて、窓の外のスギの枝のシルエットに重なる。カーテンは「アピュエース」。縦糸は生成りのシルク・ポリエステル極細糸。横糸はシルクの墨染め。ぼたん雪と小枝のイメージを風通織りで表現したもの。レースは「フェーダー」。
BEFORE
応接室の窓:パターン2
季節感を取り入れ、もてなしの気持ちや晴れの雰囲気を演出
上と同じ窓を別のカーテンでしつらえてみる。 左/自然の意匠は帯や着物などに表されてきた。それを窓辺に取り入れるのもSHブランドの発想。「ピエノット」の白梅は、SHブランドの新作で梅の花が咲く瞬間を風通織で表現。手描きのデザイン画の柔らかな描線がきわめて密度の細かい織りで表されている。縦糸はポリエステル素材極細系。横糸はポリエステル素材ブライト系。絵柄は縦糸3色、横糸6色の組み合わせで織り上げられる。手前のレースは「オンデ」で極細糸と太い糸で薄地にストライプを表現したものだ。奥は「フェーダー」。ともにポリエステル。
下/「ピエノット」の紅梅に掛け替えるとぱっと周囲が華やかになる。レースは「アゾラーレ」、「フェーダー」(奥)。
「ピエノット」「アゾラーレ」は近日発売予定。
寝室のすべり出し窓:自然界のゆらぎ
空気感を厚手の織物とレースで
下/寝室のLIXIL「サーモス」のすべりだし窓からは庭の緑が見える。左/カーテン「カレナート」。極細糸による緻密な組織と、モール糸によるふっくらとした組織が一緒に織り込まれてボリューム感豊かな織物。レースは「セリアーレ」。流れの刺繍のなかに小さな葉のモチーフが配されている。ともにポリエステル。
取材・構成/清水潤 写真/梶原敏英(特記を除く) イラスト/阿部伸二(カレラ)
本田純子さん
川島織物セルコンデザイナー。1986年武蔵野美術大学卒業、川島織物(現・川島織物セルコン)入社。 90年ハイムテキスタイル出展品「イルマーレ」の開発に携わる。94年「イルマーレ」2製品が、アメリカ・スミソニアン協会クーパーヒューイット国立デザイン美術館のコレクションに。 98年にSumiko Hondaブランドとして製品を発表以来、毎年新作を発表する。今年は5月にデザインとコーディネーションのプレゼンテーションが開かれる予定。
問合せ先/川島織物セルコン(PART OF LIXIL)
tel 03-5144-3892
http://www.kawashimaselkon.co.jp
雑誌記事転載
『コンフォルト』2016 April No.149掲載
https://www.kskpub.com/book/b479872.html
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公開日:2016年08月31日