INTERVIEW 013 | SATIS
建売と建築家住宅の間
設計:谷尻誠+吉田愛/サポーズデザインオフィス | 建主:幸和ハウジング株式会社さま
「〇〇と〇〇の間」というのは谷尻さん、吉田さんの追求する2人の主題だそうです。今回の住宅では「分譲住宅」と「建築家がつくる家」の間です。その違いの特徴は、分譲住宅は住む人の顔が見えないままつくること、そして建築家住宅は依頼主の顔が見えること。どうしても一般解を探っていくことになる分譲住宅に、それでもこだわっていきたいこと、そしてゆずってもいいことがあります。とかくコストや間取りに制約が多い分、分譲住宅はその境界線をまたいでいくところに面白さがあるといいます。
この住宅は2015年木造金物ジョイント工法SE構法を販売するNCN株式会社が主催した「メイクハウス展」が起点になっています。その時に参加した7人の建築家が、その後実際の建物でこの構法の可能性にチャレンジすることになりました。今回の家は、幸和ハウジングという浜松の年間200棟以上供給する地域ビルダー。谷尻さん、吉田さんはここでは「高床式」という日本の気候に馴染んだ家の作り方を提案しました。
高床式ということ
日本の古来の家の作り方に高床式というのがありました。住宅というよりは食料庫や大事なものを収めておく場所に使われることが多かったようですが、日本の高温多湿の気候を考えるとこの方法は理にかなっていると考えました。また足元の水平力が弱くなる高床式ゆえに、「SE構法」という構造計算をする木造との相性が良さそうだと考えたのです。当初は、家全体を高床式にする計画でしたが、いくつかの理由から断念したものの、その時のアイデアは設計に反映されています。コンクリートを敷き詰めたので、湿気の問題は少ないようですが、高床式によってうまれる視線の変化は、この家のプライバシーと開放性を兼ね備えていくのに役立っています。床下は、子供の格好の遊び場として功をそうしたようです。風通しがよく、外からの視線が遮られた場所は、ちょっとした秘密基地のような感じもします。
中庭をつくる
幅1間、奥行き5.5間の中庭は小さいようにも思えますが、実際に入ってみると、とても開放的な心地よい空間となっています。中庭に向き合う部屋は同じ水平面ではなく、2層の寝室がリビングと半階ずつズレているのも、視線の距離を伸ばす要因のひとつかもしれません。高床式になって中庭の一部が外とつながっていることや、リビングが一層の高さのため、太陽の光が降り注ぐ明るい中庭になっているのです。その中庭に面する壁は、リビング、ダイニング、寝室とすべての居室の窓面になっています。窓は、床から天井までの掃き出し窓となっていて、そのことも開放感を増している理由になっているのです。中庭をはさんで相対する面が上下にあることで高さへのハードルが少なくなり、上下で会話も弾みそうで、半階なら飛び降りても下に行けそうです。実際に飛び降りるかは別にしても、こうした感覚がとても新鮮です。
中庭だからできる開放性を既製のサッシの高さをつかって設計していることも、コストダウンの工夫、このあたりが「〇〇の間」へのチャレンジと言えます。多くの人がいう中庭への憧れを、高床式やステップにしたフロアーの構成など、建築家的なアプローチでうまく融合させています。1階の寝室からリビングの床を通して見える外の景色は、まさにプライバシーをまもりながら外の景色とつながっている感じがします。
プログラムで無理をしない
間取りに関しては建主の顔が見えないということで、なるべく一般的な普通の間取りである3LDKというプログラムを踏襲しています。最近は多くの建築家が開放的な間取りを提案しますが、そこは無理をしないように努めたと言います。ほかにも憧れであるオープンキッチンや独立したトイレなども同じ考えです。しかしそのプログラムを守った上で、どこまで普通ではないようにしていくのか、また使いやすくしていくのかを考えると言います。取材の中で何度となく出てきた「普通」という言葉について、「普通をかさねて、普通でないものを作る」ということも言っていました。谷尻さんは20歳から25歳まで岡山で分譲住宅を販売する不動産会社にいて、設計を担当していたそうです。そのころは提案をしても、なかなか思い通りの設計をさせてもらえなかったと言いますが、そうした時期のリベンジでもあるのかもしれません。分譲住宅とはいえ、少しだけのコストアップなら、素敵な家を欲しいと思ってくれる人がいるはずだと言うのです。
色気ということ
谷尻さん、吉田さんは、インテリアデザイナーとしても活躍しています。そうしたキャリアも関係しているのでしょうか、空間には色気をつくりたいと言います。ただの白い壁やラワン合板をはっただけの家のようにはしたくない、「暮らしには色気が必要だ」と言うのです。この家の壁にはラワン合板をつかっているものの、柾目の表面をステインでウォルナット色に染色し、目地も綺麗にそろえ角もシャープに整えています。床材も地元の杉の木目をいかした染色仕上げにして、全体をシックに仕上げています。天井はカチオン材というタイル下地などに使うとても硬く、ひび割れなどがおきにくい素材です。長年の経験から、ボードに寒冷紗パテ処理塗装という、出来た時のきれいさだけではなく、長年の経年変化にいかに対応できる素材を選ぶかということにも意識を払っていると言います。
「〇〇の間」、2人はつねに新しいプロジェクトでは新しい価値を生み出すことを意識しているそうです。それはスタイルをあえてもたないこととも言います。プロジェクトごとにテーマをみつけ「間」を考えるというアプローチが常に違う、2人は、常に進化し続けるデザインを生み出すのかもしれません。
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公開日:2019年09月30日