INTERVIEW 011 | SATIS

窓辺に居場所をつくる

設計:小野喜規/オノ・デザイン建築設計事務所 | 建主:Yさま

重心のある居場所

設計に際し、その家の中での居場所の重心を考えるそうです。その重心とは自然とそこにいきたくなるような場所だと言います。その重心は必ずしも一つではありません。いくつかの重心を考えていきます。それを重心という言葉を使っていましたが、自然とものが集まってくる重力のようなものかもしれません。
そのために、窓辺の空間を意識しながら、同時に窓からなにがどう見えるか、座った時、立った時、それぞれの行為の中で目に止まる風景を考えることが大事になるそうです。

キッチンからも立った時に庭がいつも視野に入るように配置しています。

キッチンからも立った時に庭がいつも視野に入るように配置しています。

入隅を多くする

外壁を考える時になるべく一直線の壁にならないように入隅を多くつくるようにしているといいます。それは空間を移動するときに風景が変わっていくようにつくりたいのだそうです。その移動する空間の隙間に居場所が生まれてくるのだと。小野さんの建築にはいつもその次の風景を連想させていく楽しみがあります。

階段から玄関を見下ろす

階段から玄関を見下ろす。玄関と外との境にも様々な窓があります。

ルイスバラガンの家

小野さんが感銘し、影響を得ている建築家にルイスバラガンがいます。メキシコを代表する建築家で、強い日差しの中で陰影のある窓のつくり方に特徴があります。小野さんはそのことを「歩いて行った終着点に居場所がある」と言います。動線が内に向かっていくのではなく外に向かってその最後に窓がある。そして窓にそれぞれの個性がありその窓の周りに居場所があるのだとバラガンの建築を説明していました。小野さんの目指すべき指針がそこにあります。

アウトコースとインコース

こうも説明します。外壁の境界線にそって居場所のある家をアウトコースの家と呼んでいます。小野さんはこのアウトコースを意識して設計をするというのです。一方反対にインコースというのは中庭のあるような家をさすそうです。中庭はそこから見える風景もコントロールしやすいし、大きな開口部もつくりやすいのですが、実は動線が中庭の周りに生まれてしまい居場所がなくなるのだとも言います。常に外側との接点を考え、それゆえ窓から見える風景を考え、窓の大きさや高さを調整して行くのです。その景色の変化を楽しみ、移動しながらそこに個性のある居場所をつくって行くのです。

トイレについて

トイレには天窓がつけられています。これもよく意識することのようです。天窓の明るさはトイレを居心地の良い明るい、そして外とのつながりを感じられる居場所にしてくれます。トイレや洗面台など窓がとりにくい空間では天窓の効果は大きいのです。そしてトイレを独立させるのでなく風呂洗面と一緒にすることも多くあり、その場合トイレは座るだけでなく眺めてもいいものを選びたいとも言います。

トイレには天窓があり、明るい空間ができてる。

トイレには天窓があり、明るい空間ができている。

建主のYさん

Yさんは建築家を選ぶにあたって、庭を大切にする人に頼みたいと思ったそうです。小野さんの作品をみてすぐにそのことがわかり、ぜひ頼みたいと思ったそうです。また素朴で主張しない控えめなデザインも気に言ったそうです。海外にお住まいだったのですが、日本に戻ったら家をたてようと海外にいる間の数年間、家の構想を温めていたのだそうです。家の間取りだけでなく、この武蔵野市の場所も以前から決めていて、日本に戻ってまずは賃貸で武蔵野市に住み、その上で土地探しをじっくり始めたそうです。

植栽のメモやスケッチ

伺ったときに設計の打ち合わせの時にYさんの奥さんがつくった植栽のメモやスケッチと植栽図鑑の切り取りを見せてもらいました、そこには詳細な樹木や草の種類がえがかれていました。
出来上がった家にはまだすべての植物は植えられていません。また外に置きたい家具などもこれからです。
まだ未完成な庭だと言っていましたが、一度に完成せずに少しずつ手を入れて庭との関わりも育んでいきたいそうです。とても計画的でまた先を急がない暮らしぶりがよく伺えます。
未完成な庭を眺めて、また庭に出て過ごす時間は、お二人にとってとても大切な時間のようです。

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公開日:2018年03月31日