INTERVIEW 001 | SATIS
使うほどに馴染んでいく家
── ノンブローハウス
設計:海野健三/海 建築家工房 | 建主:藩賢毅さま(ヘアスタイリスト)
この家の名前は「ノンブローハウス」、ヘアースタイリストの建主の言葉を聞いて、海野さんが名付けました。藩さんはお客さんが美容室から帰ったあとプロしかできないようなブローでなくても自然と整うように、さらにそのあとのほうがより自然になるように考えるのだそうです。そしてこの家も建主が住みだしたあとからより自然になるようにと考え、「ノンブローハウス」と名付けたのです。
海野さんは、建築家でありながら図面を引くだけでなく自らも施工をしてしまう建築家として知られています。今は気心の知れた工務店や大工さんとチームを組んで行うので自ら施工することは少なくはなったそうですが、そのものづくりの姿勢は変わってはいません。藩さんと海野さんは、お互いの仕事の仕方に共感し、意気投合してこの家の設計が始まりました。
素のままの素材を使いたい
素材についても二人の意見は一致しています。藩さんはクライアントの顔かたち、髪の質や状態をいかに生かしていくかを考えます。この建物でも木、石、鉄それぞれの持ち味を生かし、素の状態で使うこと、さらには時間が経つほどに深みを増していくように扱っています。コンクリート打ち放しの床、塗装しない鉄の壁や手すり、木肌そのままの壁など、藩さんの哲学に海野さんはとてもうまく応えています。特に外壁の仕上げは興味深い方法をとっています。通常の外壁の上に隙間をあけてステンレスの網をはり、その間に砂利を埋めています。そこをほどよく湿らしてあげることでコケを生やそうという計画です。すでに何度か実験している手法だそうですが、時間とともにこの家が緑のコケに覆われていく様子を今から楽しみにしているといいます。緑と砂利で遮熱効果も高まります。まさに住み始めてからより美しくなっていく家なのです。
仕切りのない家
この家は3層になっています。1階は玄関のみ、ほかはピロティーになっています。2階は大きなリビング、ダイニング、子供用のリビング、そして小さな子供の寝室2つです。寝室は最小限の大きさにしてあとは広い空間の中で自分の居場所を見つけてお互いに目の届く場所で過ごしたいと言います。全てがゆるやかにつながっていきます。この家にはトイレが2つありますが、そのトイレも完全には閉じてはいません。2階のトイレは少し閉じた空間で落ち着ける空間になっているものの壁には水平にスリットが空いて光と音が入ります。スリットには透明のチューブが入っているので見えることはないのですが光が入ることで外部と遮断された感じはしません。3階のトイレは2階とは対照的に白い明るいトイレです。そして扉はありませんし、壁の上部もあいて廊下や階段と空間的にはつながっています。海野さんは、もはやトイレは視線さえうまく遮ればいいのではないかとも言います。藩さんもこの配置に違和感もなく、居心地もよく、ついつい長居をするとも言っていました。3階のお風呂の前室は下の写真のようにとても広くなっています。そこは濡れても平気な畳が敷かれています。ここで寝転んだり、くつろいだり、通常は決して広くない場所を大きくすることでとても贅沢な非日常空間がうまれます。たとえ何か特別なことをするのでなくてもお風呂の中から眺めるだけでも気持ちが豊かになるといいます。
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公開日:2017年11月30日