誰もが安心して使えるトイレを目指して──。オルタナティブ・トイレから見えてくる、多様性ある社会の形

オルタナティブ・トイレが社会を変えるきっかけになり得る

──オルタナティブ・トイレを見学していただいて、どんな感想を持たれましたか?

ナガノ:

車椅子を使う私としては、一つひとつのスペースが広いことがありがたいです。手すりもありますし、手を洗うことも普通にできる。これまでは膝がぶつかってしまって、車椅子に乗った状態だと洗面台が使えないこともありました。ただ、男性も女性も一緒の空間になっている点について、人によってさまざまな思いを抱くかもしれません。男性からすればさほど抵抗なく利用できると思いますが、女性にとってはどうなんでしょうか?

オルタナティブ・トイレの入口と空室表示モニター。個室に入ると表示がグレーに反転する

オルタナティブ・トイレのレイアウト。中央の通路に面した部分は男女共用、それぞれの裏側に男性用・女性用トイレが配置されたトイレ空間

ニシムラ:

私は元々多機能トイレを利用したくないと思っていたんです。広すぎると落ち着かないし、便座に座っているときにもしも鍵が開いてしまったら……と考えるとソワソワしちゃって。でもオルタナティブ・トイレは程よい広さということもあって、抵抗感がありません。

オルタナティブ・トイレを見学し、その構造に感心する一同

ニシハラ:

この空間のなかで、私は女性用の個室を利用すると思います。ただ、中央に性別を気にせず利用できる個室がいくつも配置されているのは新しいし、すごく良いと思いました。過去の私みたいに性別で悩んでいる人からすれば、オールジェンダーの個室って使いやすいですから。それとデザイン面も良いですよね! 大抵のトイレは男性用が青、女性用が赤で分けられています。でもオルタナティブ・トイレは全体的にブラウンの木目調で統一されているので、性別で悩んでいる人にとっても安心できるはず。機能もデザインも非常に斬新なトイレだと思います。

ニシムラ:

入口はひとつだけど、男性と同じ個室を利用したくない人は女性用の個室に入れば良い。選択肢が用意されているのはありがたいですよね。

永山:

私も女性なので、「どうして男性と同じ個室を使わなければいけないんだろう……」と思う女性の気持ちもわかるんです。ただ一方で、自分の性別に悩んでいるマイノリティの人たちもいて、その問題も解決しなければいけない。マイノリティの人たちと、マジョリティの女性、どちらの想いも同居させる方法はないんだろうかと考えた結果が、このオルタナティブ・トイレです。それだけではなく、男性からは小便器が無いと嫌だという意見もありました。それを反映させたのが小便器個室です。そんな風になるべく多くの人の想いを汲み取って、みんなが利用しやすいスペースを目指しています。

オルタナティブ・トイレを作るときに意識したことについて語る永山さん

ニシハラ:

個人的には丸みのあるデザインからやさしさを感じました。私にとってのトイレって、精神的に不安を感じる、怖い場所だったんです。入るときはどうしたって身構えてしまう。でもオルタナティブ・トイレには全体的にやさしい雰囲気が漂っていて、まるで迎え入れてもらっているような印象も受けました。

永山:

そこはこだわったポイントなので感じ取っていただけてうれしい! 堅苦しいイメージはなるべく排除して、柔らかい雰囲気のあるトイレにしたかったんです。男女共用という点に不安を覚える女性もいるかもしれませんが、そういった人たちに安心して利用してもらいたいという狙いもあります。実際、「女性用の個室もあるし、綺麗だし、柔らかな印象があるから抵抗がないね」という声もいただきました。

ナガノ:

男女共用になっている点についてどんなメリットがあるのか、これまで考えたことがありませんでした。でも性別を移行中の人からすると、共用だからこそ入りやすい、使いやすいんですよね。自分の知らないところでそういったことで悩んでいる人がいることを知って、とても勉強になりました。

──ホリカワさんはいかがですか?

ホリカワ:

本当に綺麗で文句なしだと思います。強いていうとすれば、「空室表示モニター」について。女性の方でも長時間入っていると思われたくない方もいるかもしれませんし、性別移行中のトランスジェンダーの人が男性用、女性用どちらの個室に入ったのか、この画面を注視していればわかってしまいますよね。すると、その人がもしもカミングアウトしていない人だったら、躊躇してしまうかもしれません。「あいつ、見た目は男なのに、なんで女性用の個室に入るんだ?」なんて噂されちゃったりして。そういう点でのリスクを回避できるようになれば、さらに素敵なトイレになりそうです。

石原:

参考になります。その改善策として、入口と出口を分けてみるというご意見もありました。あるいは入口の手前にあるコミュニティスペースから空室表示モニターが見えないようにする、という方法もあるかもしれませんね。

小池:

いずれにしても、オルタナティブ・トイレをきっかけに多様な人同士が仲を深められたら良いな、と考えているんです。障がいのある人のなかには、「トイレに入るところを誰にも見られたくない」と話す人もいました。それだけ周囲の人の目を気にされているのかもしれません。でも本来、トイレは誰もが健康を維持するために使う場所です。だから将来的には、どんな人でも堂々と好きなトイレを利用できるようにしたいな、と。解決すべき課題も多いんですけどね。

オルタナティブ・トイレの可能性を感じ、一人ひとりが意見を出し合った

ニシムラ:

こういったトイレが増えれば、トイレに関して事情を抱えている人たちももっと気軽に外出できるようになると思います。

ニシハラ:

本当にそう思います。それにオルタナティブ・トイレが浸透していくことで、「トイレ=コソコソ行く場所」ではなく「健康維持のために、誰もが当たり前に利用する場所」というイメージが広がっていくんじゃないかって。そしてそれが日本におけるベーシックになれば、トイレや性別に対してもっともっと前向きな印象を持つ人が増えるような気がします。

ホリカワ:

いまはこうやってトイレについての話をしていますけど、これって「未来の可能性」についての話につながっていると思うんです。オルタナティブ・トイレが普及していけば、外出しやすくなる人が増える。ニシハラさんみたいにトイレに恐怖を感じていた人も、安心できるようになる。トイレの在り方を考えることが、結局は多様性ある社会を考えることに通じていく。もしかすると将来、オルタナティブ・トイレを見たメーカーさんが、「多様性のある社会のために、自分たちにもできることをしよう」と考えてくれるかもしれない。そう思うと、この座談会で話していることって、トイレの在り方に限ったことではないんだろうなと感じました。

──ホリカワさんの仰るように、トイレの在り方を見つめることで、この社会に足りていないものが見えてきましたね。

ニシハラ:

あらゆる場面で、社会的マイノリティを取り残さない。そのために必要なのはオルタナティブ・トイレのようなユニバーサルデザインなんだと思います。私も当事者のひとりとして、これからは積極的に協力していきたいです。

ホリカワ:

もちろん、私たちは当事者の代表ではありません。同じ当事者でも意見が異なることもあると思います。でも、たとえ厳しい意見があったとしてもめげることなく、みんなが安心して利用できるトイレを追求していただきたいです。そのために私も一緒に歩んでいけたら、と思っています!

永山:

みなさんが考えているように、オルタナティブ・トイレは新しい価値観を作るためのきっかけになる場所だと思っています。トイレに限らず、さまざまな価値観やシステムを見直さなければいけない時代を迎えています。すべてのところに「こうであるはずだ!」という既成概念がありますが、これからはそれを疑っていかないといけませんよね。「本当にこのままでいいのか」「これまでのやり方は合っているのか」そう考えながら、私はいつもデザインをしています。今回、みなさんとお話ししたことで、あらためて既存の価値観を疑うというスタンスに立ち返ることができました。ありがとうございました。

多様な属性を持つ人たちが集まり、オルタナティブ・トイレから見えてくる未来について話し合った

写真/幡原裕治 取材・文/イガラシダイ

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公開日:2023年01月25日