「Good Job! Center KASHIBA」から考えるトイレの試み
好きな環境を選ぶことのできる寛容さ
森下静香(Good Job! Center KASHIBA センター長)× 大西麻貴+百田有希(建築家)
『新建築』2018年4月号 掲載
マイノリティを見つめ、
みんなが使いやすいトイレを考える
──公共トイレにおいて、高齢者や障がいのある人が使用される中で課題となっていることはありますか?
安部理恵子(以下、安部):
日本人の平均身長は以前に比べ高くなってきているので、現代に合うように便器の上面までの高さも変化してきています。しかし、高齢者の身長は徐々に縮んできますし、足腰や筋力の衰えもあり、最近の便器は高くて使いづらいという意見も出ています。
石原雄太(以下、石原):
公共トイレにおいては、車椅子使用者用トイレに通常の便器の高さよりも少し高いものをご提案するケースがあります。車椅子使用者が自分で便器に移乗する場合には、車椅子の座面と便器の高さが同じくらいであると、体を横にずらしながら乗り移りやすいからで、その高さは一般の方が利用する便器よりも少し高めと考えられています。ただ、体の症状によっては高過ぎて便器への乗り移りが大変だったり、足が床に着いた方がよかったり、ということもあるため、一概に高い便器がよいとは言えない場合があります。高齢者施設や公共施設では、メンテナンスを楽にして効率的であることを重視し、ある最大公約数的な使用者像を想定して、かたちや仕様を決めていかなければなりません。しかし、「ダイバーシティ」という視点でさまざまな人のことを考え、知ることで、実は使えなくて困っている人がいることに気が付いたのです。
──2020年には東京オリンピック・パラリンピックを控え、日本にはますます外国人観光客の数が増えてきていますが、文化の異なる国の方が日本の公共トイレを使用する際にもさまざまな問題が生じそうですね。
安部:
世界中にはさまざまなトイレが存在しますから、たとえば和式便器のように「しゃがむ」スタイルの文化圏の人が日本で洋式便器を利用する場合、靴のまま便座に載ってしまい便座が汚れたり傷が付いたりするケースがあります。ただ注意喚起をすればよいだけではなく、なぜ洋式便器に抵抗があるのか?という文化の違いを知ることも大切だと思っています。洋式便器が世界的にも主流であるという考え方はありますが、その中でも和式スタイルを選びたいということに対して解決策を見出していきたいと思います。
石原:
小便器のかたちも世界中ではさまざまな種類があり、ヨーロッパ圏では小ぶりの小便器が多く使われています。一方、日本の小便器はバリアフリー対応で、子どもから大人までみんなが使えるように縦長形状になっています。最近、観光で外国人利用者が増えると小便器周りが汚れるという声が出てきています。普段小ぶりの小便器を利用しているヨーロッパ圏の外国人が日本の小便器を使う際に、普段と同じように下部の排水口を狙っている可能性があって、飛び跳ねて床が汚れてしまうのかもしれませんが、日本の小便器は中間くらいを狙うのがベストな設計になっています。形状がどうであれ意識しなくとも誰もが自然と使えるように促すデザイン や仕組みを、考えていかなければなりませんね。
選択肢と可変性を持った未来の公共トイレ
──さまざまな人にとって使いやすい、これからの公共トイレの姿はどういうものだとお考えでしょうか?
石原:
ひとつには、個人個人でトイレを選択できるという考え方があると思います。これまでは、高齢者施設でも公共施設でも、標準的なかたちのトイレが一般となっていますが、人には外見だけでは分からないいろいろな背景があることを、建築側やメーカー側が知ることによって、さまざまな選択肢を用意していくということが必要な時代になってきていると思います。
安部:
空間やプロダクトにも可変性があるとよいかもしれません。便座面を高くして立ち座りの負担が軽減できるアタッチメント「補高便座」を用意していますが、高齢者や障がいのある人をはじめ利用者によっては便利な機能だったり、使わない機能が付いていたりするプロダクトがあると思います。自分にあったサイズやかたちに手軽にカスタマイズやアップデートができたら嬉しいですよね。たとえばスマートフォンのように自分好みにできたり、体のコンディションや気分によって機能やデザインの違ったトイレブースを選べるようになるかもしれません。このようなことを想像すると、われわれの商品や技術だけでなく建築設計者、クライアント、異業種、そして当事者とも一緒に会話しながら考えていきたいです。
LIXILの公共トイレ「NEW PUBLIC TOILET HL」
人にも建築にもフィットするデザイン
LIXILの公共トイレ「NEW PUBLIC TOILET HL」は進化を続けている。
テーマは「人間の、かたち。」。人体のサイズや使用方法に合わせ、人が接する部分には曲線や曲面を多用し、人が近寄りやすい形状としてデザインされている。また、建築に接する部分は直線とし、床や壁にすっきりと調和し建築の一部として違和感なく溶け込めるよう工夫されており、人にも建築にもフィットするデザインが実現した。
便器の表面には高硬度な平滑表面を長期間持続できる独自の技術「ハイパーキラミック」を採用し、キズが付きにくく、汚れも付着しにくくなっている。さらに、チェンジオプションとして、汚れの付着を大幅に削減できる新素材「アクアセラミック」(2016年にグッドデザイン金賞受賞)を選ぶことも可能。人と建築に寄り添ったデザインと、清潔がずっと続く技術が融合することで、公共トイレ空間の進化に寄与している。今年に入り、多機能トイレパック、マーベリイナカウンター/シェルフ一体型タイプがリニューアル、サウンドデコレーター(トイレ用音響装置)が新たにラインナップに加わった。(編)
雑誌記事転載
『新建築』2018年4月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/shinkenchiku/sk-201804/
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公開日:2018年10月31日