LIXIL×大成建設
タイル壁面で街区に統一感をもたらす「なんばパークス サウス」の建築デザイン
タイルのモックアップ製作と工法について
──還元焼成タイルとの出会いが、壁面のイメージの軸になったのですね。
丹下氏:実は今回のタイルを採用するにあたって、いろいろな場所やメーカーさんでさまざまなタイルを見せていただきました。そんな中、LIXIL担当営業の原さんに愛知県常滑市の工場を案内された際に還元焼成タイルと出会い、満場一致で方針が決定。その後は表面の粗さ具合や質感など、多種多様なサンプルを見せていただき現在のデザインに決定しました。また、タイルが1色のみだとちょっとクールになりすぎるので、周辺環境との調和を考え、「なんばパークス」や隣接する敷地の色味からサンプリングしたオレンジ色、黄味がかったタイルも混ぜて使うことになりました。
常滑の工場には材料が豊富にあるので、色味や質感の違うタイルをその場でいろいろ試しながらタイル配置を検討しました。日差しの向きが変わると見える色味も変わるので、それぞれの時間帯やタイルの向きを変えて見るなど、現物を使って検討を繰り返し、イメージを高めていく作業でした。割肌などの立体的な検討も重要だったので、工場の方からの意見はとても参考になったと思います。
塩谷氏:LIXILの工場内を歩いていると面白いタイルや珍しいタイルがたくさんあるので、気に入ったタイルを持ってきては、その場で並べて検討することができたのは良かったですね。中野さんが見つけてきた還元焼成タイルは、割肌が筋状になっていることから地層のイメージにつながり、それが共有できたので採用の決め手になりました。3人それぞれの思いや感性をアドリブでぶつけ合い、楽しみながら柔軟に検討できたのが良かったと思います。(笑)
丹下氏:“緑のまちをつくる”というコンセプトがまちづくりのベースにあったので、建物低層部は緑を生やすための「大地」というイメージを共有認識でもっていました。タイル選定のためのデザイン軸がしっかり共有できていたのが良いデザインに繋がったと思います。
塩谷氏:「大地」や「地層」などのイメージから、タイルは横向きにして積層する感じを出し、自然界のばらつきを表すために、いくつかの色味を混ぜ、壁面の凹凸具合はタイルの厚みを変えることで「地層」を表現しようということになりました。
中野氏:タイルは225×72mm、225×137mmの2種類のサイズを使い、押出成形セメント板にタイルを引っ掛けながら施工する外壁乾式タイル張り工法「アスロックタイルハンギングシステム」を採用させていただきました。荒い肌のタイル(テッセラ)や大判のタイルは他のものよりも厚みを増したパターンとすることで、厚みの違いによる陰影もできるので、より地層や大地のイメージに近づけることができました。
塩谷氏:「アスロックタイルハンギングシステム」について若干補足しますと、タイルの弱点はなんと言っても剥離です。安全性を考慮して開発されたのがこの方法で、押出成形セメント板「アスロック」のリブにタイルを引っ掛けて固着する工法で、施工性も非常に良く、横のラインがきれいに揃います。そこに焼きムラのある還元焼成タイルの表情が加わり、とても味わい深い壁面になったと思います。タイルの質感と工法がマッチしていますね。
中野氏:タイルは2種類のモジュールがあるので、バランスを見ながらタイルの配置を決めていきました。工場だけでなく現場でモックアップをつくり現地の自然光の中で検討しました。壁面の仕上がりに関しては、最初にできたのが南側のA棟とC棟の間の壁でしたが、当初イメージしていた通りにできたと思っています。
丹下氏:タイルに関しては3敷地共通のデザインとなるので、それぞれの関係者様から同意を得る必要がありました。現地にモックアップを持っていき、周辺環境に合うかどうか確認しながらコンセプトとデザイン意図を説明できたことはとてもよかったですね。ご覧のようにかっこいいタイルなので、どなたからも反論はなく、すんなり皆さまから同意を得ることができました。
塩谷氏:私がひとつ心配だったことは外壁パネルごとに出てくる縦方向のタイル目地でした。これは建物の柱モジュールからで決まってくるものですが、3棟の建物はすべて柱モジュールが異なっているので、統一した寸法での割り方ができません。そのリズムが全体の調和を崩すのではと心配でしたが、丹下さんが面ごとに潔く割っていくという合理的なルールを決めて大胆にやってくれたので、継ぎ目がそれほど気にならず、力強さとして表現できたと思います。タイルの持つ力や凹凸のある張りパターンも良かったのでしょうね。
丹下氏:モックアップで何度も確認していたものの、幅40m、高さ20mの大きな面になったときにどんな見え方をするのか、個人的には最後までひやひやしていました。結果としてはすごくよいものになったと思っています。今回使用した還元焼成タイルは、デザインとしての汎用性がとても高いと感じました。大きな面もそうですが、高さ1.8mぐらいの帯状にした時にもいい見え方をしていたのです。それはなぜかというと、1枚のタイルでも光の当たり具合や見る角度など見る時間によって表情が常に変化し印象が変わってくるなど、タイルそのものに存在感とデザインの深みがあるからだと思います。だからこそ、大きな面で使っても全体としての統一感が生まれる。とても勉強になりました。
中野氏:今回はそうしたタイルの存在感を強調するために、窓まわりのタイルとサッシとの取り合いにはさまざまな工夫をしています。タイルの豊かな表情と工業的なサッシをうまく融合させるために、サッシにフィンを出して、タイルとサッシのエッジが際立つような、端正なディテールにしています。また、建物のコーナー部分もコーナータイルを使わずに、タイルの端を45度でカットしたものを貼り合わせてエッジを効かせるなど、ディテールにこだわっています。そのおかげでガラス面とタイル壁面に緊張感が生まれ、より現代的な雰囲気になったのではないかと思っています。
塩谷氏:重厚なタイルがあまり重く感じないのはそのディテールが効いているのだと思いますね。そういったところで、なんばパークスから20年を経た現代らしい考え方を表現しているわけです。還元焼成タイルの中にツヤのあるタイルが入っていますが、あれが空の光を拾って、重苦しさを和らげてくれました。
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公開日:2023年10月16日