Hareza池袋×LIXIL

池袋に誕生した「ハレ」の場

北典夫、土田耕太郎(KAJIMA DESIGN)


Hareza池袋について語るKAJIMA DESIGN・北典夫氏(左)と同・土田耕太郎氏(右)

東京都豊島区東池袋の国家戦略特区に指定されているエリアでは、2015年の豊島区新庁舎移転を契機に新時代を拓くまちづくりが進められています。 中でも旧庁舎と豊島公会堂跡地を活用し、年間1000万人が集う文化・賑わいの拠点を生み出そうとしているのが「豊島プロジェクト」で、区が掲げる「アート・カルチャー都市構想」を牽引する「Hareza池袋」として2020年にグランドオープンします。 この「Hareza池袋」は、3つの街区に1棟ずつ計3棟の建物と、それらが接する公園(中池袋公園)、区道を合わせたエリアにまたがり、全体が劇場都市に位置づけられています。3棟を繋ぐブリッジは「アーバンスクリーン」と称され、エリアの回遊性を高める重要な役割を果たしています。今年11月には、中核となるB棟(東京建物 Brillia HALL)が先行して開業しましたが、1階、2階の空間は、エントランスの赤い大階段と「アーバンスクリーン」の色鮮やかなタイル壁面が印象的で、訪れる人々を非日常の世界へと導いています。 今回、設計を担当されたKAJIMA DESIGN(鹿島建設建築設計本部)の北典夫氏と土田耕太郎氏に、「Hareza池袋」のシンボルとなる「アーバンスクリーン」を中心にお話しを伺いました。

劇場都市として一体感のある空間構成

鹿島建設 常務執行役員 建築設計本部長
北典夫氏

──豊島プロジェクトの事業スキームを教えてください。

北氏:豊島区庁舎が移転した跡地を民間が事業を起こして開発し、活性化するという官民連携プロジェクトの公募型プロポーザルが2015年にありました。東京建物、サンケイビル、鹿島建設がコンソーシアムを組んで応募し、幸いに選ばれて、「豊島プロジェクト」がスタートしました。当初、コンペの対象はA棟、B棟が建つ2街区だけで、C棟の街区、中池袋公園、区道の整備は含まれていませんでした。我々が提案したのは、「IKEBUKURO Times Square —誰もが輝く劇場都市—」というコンセプトで、3街区と中池袋公園のエリア全体を対象とし、7つの異なるタイプの劇場を入れて、広く街づくりを展開しようというものでした。その点が選定された理由の一つだと思います。

土田氏:元は区庁舎と公会堂があって区民によく親しまれ、駅からも非常に近くて便利な場所です。この重要な場所を再開発するにあたって、「7つの劇場」という我々の提案は、区が掲げる「国際アート・カルチャー都市構想」という文化拠点づくりによく応えるものだったのでしょう。たんにホールやシネコンといった箱を並べるのではなく、公園や3棟のエントランスをオープンな、一体的でパブリックな空間とし、だれもが普段使いできる空間を各所に用意した辺りが、評価されたのかもしれません。

Hareza池袋の全体パース。シネコンや劇場、ホールなどが備わった3棟の建物と公園が一つのまとまりとしてエリアを構成している(提供:鹿島建設)

北氏:たんに閉じた箱としての劇場があるということではなくて、街に開かれた屋内外の空間も劇場であるという考え方です。私も以前、池袋に暮らしていたことがありますが、この地域は演劇をはじめとして、映画、漫画、アニメといった広義の演劇文化が根を張り、育まれ、親しまれてきたことを肌で感じていました。コンペ応募時、B棟に中核のホールがあり、目の前の公園と一体となった劇場都市とする、というイメージが最初からありました。

土田氏:B棟には公会堂に代わる「東京建物 Brillia HALL」という新しいホールがあり、区を超えて東京、日本、さらに世界に目を向けたイベントを行う劇場としてオープンします。当初の設計コンセプトが成長しながら計画が進み、提案時点では「7つの劇場」でしたが、C棟のホールも加わり、現在では「8つの劇場」に増えています。そのうちの4つがB棟にあります。1300人収容の劇場「東京建物 Brillia HALL」、駆け出しの若いアーティストなどがイベントを行える500人収容のライブ劇場「harevutai(ハレブタイ)」、エントランスの大階段のスペース「パークプラザ」、ドワンゴが運営する「ハレスタ」の4つです。
A、B、Cの3棟と中池袋公園の間の区道は、池袋駅とサンシャインシティを結ぶ主要な通りの枝道でしたが、劇場都市「Hareza池袋」を貫き、新庁舎エリアと繋がる南北軸として、重要な役割を担います。

北氏:公園と道路を一体的に捉え、建物も低層部をセットバックさせ、ストリートに対して開かれるという構成にしました。


B棟外観。「東京建物 Brillia HALL」を含む4つの劇場が入る

Hareza池袋3棟の断面図(提供:鹿島建設)
開発中の豊島プロジェクトは、池袋駅東口から約300mの立地。3棟と中池袋公園の間を通る区道は、Hareza池袋のオープンで街に新たな人の流れをつくり出すと期待されている(提供:鹿島建設)

建物を繋ぎ回遊性を生み出すアーバンスクリーン

B棟のアーバンスクリーン「ミルチス・マヂョル/ Mirsys Majol / Planetary Commune」(岡﨑乾二郎 デザイン)。劇場への出入り口はガラス(写真奥)、手前はタイルの壁面になっている。2020年のグランドオープンにはA棟からC棟までアーバンスクリーンのカラフルな壁面が途切れることなく並ぶ

──どのようにして3棟と公園、道路をまとまりのある、解放的な一つの街として機能させていますか。

鹿島建設 建築設計統括グループ チーフアーキテクト
土田耕太郎氏

土田氏:通りに面した3棟のエントランスには、それぞれ開放的なオープンスペースを設けました。オフィスビルのA棟には「シネマプラザ」、B棟は大階段の「パークプラザ」、C棟は「シティプラザ」。これら3つの場所を繋ぐ、ブロードウェイのような、皆が共有できるストリート空間を提案しました。

北氏:例えば、パークプラザ前の南北区道上で演劇が行われても良いし、公園での演劇が区道側につながって行っても良い。建物、区道、公園が一体となった演劇の場が形成されます。

土田氏: エリアのまとまりをつくり出す仕掛けとして、3棟の低層部の外装は素数比による縦ラインの自然石として高さ30mに揃え、ブナ林の木立をイメージしています。さらに3棟を繋ぐデザインとして「アーバンスクリーン」のコンセプトが生まれました。

北氏:「アーバンスクリーン」は一種の屏風で、人々のアクティビティを浮き立たせる背景と考えています。時代を遡ると、演劇は屋外に屏風のようなものを置いて“場”としたところに発生しました。式典でも結婚式でも、ちょっと屏風を置くだけで、そこが舞台になりますね。そういう力を屏風は持っています。「アーバンスクリーン」は都市的なスケールを持った屏風なのです。その前では誰もが主役になれ、さまざまに演じることができる。このスクリーンは敷地形状を反映して数ヵ所で屈曲しているので、この折れている感じが屏風のイメージを強めています。

3棟の低層部は高さを揃え、外壁の石張りはブナ林の木立をイメージした。歩道にも同様のパターンを転写して、街区に統一感を持たせている(提供:鹿島建設)

土田氏:スクリーンの長さは約150mにおよび、そのデザインは造形作家の岡﨑乾二郎先生とコラボレーションしました。

──アーバンスクリーンの素材はガラスとタイルを使い分けていますね。

北氏:岡﨑さんとは以前から面識があり、協働もしていて、その経験から依頼しました。ディスカッションを重ね、アーバンスクリーンの柄も進化していきました。例えば、ガラスで作ったサンプルに光を当てたり、透かしてみたりしましたが、外部空間では透過性が十分だが、室内の壁面にしてバックライトで照らしてみるとどうも違う。もっと素材感がある方がいいとなったのです。最初の構想を生かしながら良くしていくために、素材を含めてデザインを発展させ、B棟のパークプラザのアーバンスクリーンはタイルになりました。

土田氏:本当に、タイルにして良かったですよね。

北氏:突然、タイルが湧いて出てきた訳ではなく、以前、中野セントラルパーク・サウス(2012年竣工)のロビー空間に、磁器質の大判ルーバーで竹のような表現をLIXILと協働したことが頭にあった。その前の汐留タワー(2003年竣工)の大判テラコッタタイルも常滑にあるLIXILものづくり工房に行って特注しています。そういったこともタイルを採用した伏線になっていますね。

Hareza池袋低層部模型。建築と公園、道路の境界を越え、まとまりのある一つの空間とした。3棟にブリッジを設けて約150mのアーバンスクリーンで一続きに繋ぐことで、高い回遊性が得られる(提供:鹿島建設)

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公開日:2020年02月18日