Hareza池袋×LIXIL
池袋に誕生した「ハレ」の場
北典夫、土田耕太郎(KAJIMA DESIGN)
屏風で街を舞台に見立て非日常を演出する
──色とりどりで鮮やかなアーバンスクリーンのデザインが印象的です。
土田氏:岡﨑先生とコンセプトを共有していく中で、ここには8つの劇場があって、東京建物Brillia HALLやシネコンなどは、一般の人々が日常と違う体験を求めて来る場所なので、訪れる人たちの玄関として華やかなパターンの展開がふさわしい、という結論に至りました。
北氏:当初は、ニューヨークのタイムズスクエアのように鮮やかなサインが沢山ある賑わいもイメージしました。確かに、ブロードウェイで上演作品のポスターが溢れるように並んでいるのは活気がありますよね。決して悪くはないですが、法的なこともありますし、より日本を意識したものにしたいと思い、屏風に行き着きました。
参照したアートとか、イメージの特定の源泉とか、そうしたものはありません。もっと即物的に与条件から導いています。人の流れる方向とか、区道の曲がり具合とか。
この「アーバンスクリーン」のデザインについては、細部まで協議、検討を重ねるとともに、岡﨑さんの作家性に委ねることで関係者の方々に同意していただきました。そうして出来たものについては、多様な解釈が可能な豊かな彩りを都市に与えていると思います。
土田氏:そうですね、いろいろな解釈があっていい。岡﨑先生自身も「これはこうだ」という解説は絶対にしないと思います。「今年のイベントを見に来た時と来年と、この風景が全然違うように捉えられていいのではないか」とお話されていました。単純なパターンの繰り返しはなく、30mm角の小さなタイルもあれば300mm角のタイルもあり、色も60種類位ある。それらの組み合わせにより、見た印象が一年前とはまるで違ってくる。自然の風景はそういうものですよね。春夏秋冬、年ごとに移ろい、あるいは見る人の気持ちによってもさまざまな印象を生む。この「アーバンスクリーン」もそのようなものであって欲しいと考えています。
──空間演出のために素材一つひとつを吟味されたそうですね。
土田氏:タイルについては、北と岡﨑先生と一緒に常滑市にあるLIXILのものづくり工房に何度も伺いました。岡﨑先生は、一つひとつのタイルの色だけでなく、隣り合う色との差やバランスなど、その辺にも凄くこだわり、一式並べて、対比する補色の関係などを詳細に確認していきました。60色で2600枚、形状の種類は100以上あったと思います。それを番地図に合わせて職人さんが1枚1枚を現場で貼っていきました。無釉と施釉とでタイルの厚みを変えているので、並べるとそこに影が生まれる。影は時間帯によって変化するので、そこも表現として面白い。
北氏:パークプラザの大階段の踏上げは、レッドカーペットを想起させる赤い石としています。真っ赤な階段と色彩豊かな「アーバンスクリーン」のタイル壁面が鮮やかで、高揚感を沸き立たせます。演劇を観た後、外に出るとたいていは一気に醒めてしまいがちですが、ここでは高揚感が保てるというか、余韻を持たせてくれる。こういう空間は、あるようでない。向かいの中池袋公園も改修されますが、ペーブメントは同じ石で統一しました。
土田氏:緑地や芝などと組み合わせたものはありますが、すべてが石のペーブメントの公園は、日本にはあまりありません。
北氏:ニューヨークのリンカーンセンター、ローマのカンピドーリオ広場などはみな石です。今回、中池袋公園の床仕上げも石にこだわり、ダークベースにして明るい石で文様をつけていくというアプローチにしました。リンカーンセンターもオペラや演劇を上演していて、広場はその前庭的な役割を果たしています。実際、中池袋公園はハードペーブになっているので、イベント広場としてさまざまな演目やパフォーマンスができる。その公園の様子をB棟のパークプラザの大階段に座って、あるいは劇場のホワイエからも楽しめます。
ここも以前は狭い裏通りのような雰囲気でしたが、ショップやカフェが軒を連ね、緑がランダムに植えられて、ハードペーブの公開空地と区道が一体化した広がり感を持った空間になると思います。演劇が終わってここで語らうと、心地よいでしょうね。外装も全部そろえて一体的に整備されるので、通りで分けられた別の街区ではありますが、全体として強いまとまり感があります。
──時間帯によって照明が変化するそうですが、「アーバンスクリーン」はどのように表現されますか。
土田氏:照明デザインは、ライティングデザイナーの内原智史さんと協働し、一日の流れに合わせて3つの色温度を再現できるように計画しています。昼は外が明るく白っぽい光なので5000Kの色温度、夕方そして夜に移るに従って4000 K、3000 Kというように暖かい色に変化していく。日中はさらに、釉薬を掛けてあるタイルに外光が差し込むといった変化が加わる。人工的な照明と自然光が合わさるような環境をつくっています。
照明については、「アーバンスクリーン」の壁面を一様に上から照らすと、高さが3.6mもあるのでグラデーションのように下の方では減光してしまう。それで壁面から90cm離した所にスポットライトを設けて、2つの光源の組み合わせで計画しています。
北氏:フランスのニースにアンリ・マティスが設計・内装を手掛けたロザリオ礼拝堂があります。そこではマティスによるモノクロの線画が描かれたタイルに、ステンドグラスの光が当たるようになっている。線と色を分離していて、その変化がとても豊かです。「アーバンスクリーン」もステンドグラスのように、ガラスに射し込んだ光の色が床に転写される。透過するものと反射・屈折したものが合わさって不思議な模様が浮かび上がります。タイル壁面にも木漏れ日のように光が映り込み、色が重なり合う部分があって、非常に複雑に感じられます。
その場に最適なタイルをつくり出す
──今回、LIXILのものづくり工房でオリジナルのタイルを制作されましたね。
北氏: 2001年に汐留タワーの設計をしたとき、ものづくり工房を立ち上げた後藤さん(当時、常滑東工場)という焼き物博士みたいなLIXIL社員がおられました。資生堂の本社オフィスなので、素焼きではないけれど肌色のようなタイルを彼と一緒に追求しました。当時、ドイツの製品でテラコッタのルーバーなどがあった。でも、何となく金属的で日本らしさがないので、後藤さんと美濃の工房に志野焼を見に行ったりしました。
その頃は、アルミパネルやガラス、タイルもそうですが、モダンな、非常に均質なものが主流で、少しでもムラがあると品質検査で弾かれる、そんな感じでした。真っ白で何も不純なところがない「均一 = モダニズム」みたいになっていましたが、日本の焼き物の良さや日本人の感覚は、ムラを美化していく、そういった「侘び寂び」の感性を持っている。そういう話を後藤さんとして、ムラが出ても構わない、むしろその方が焼き物らしいとなりました。それで全部、還元焼成に変えて、火が回って濃いところ薄いところができてもOKにした。全部で数万枚のテラコッタタイルが使われていて、こんなすごい枚数のタイルで超高層の外装を覆うというのは初めてでした。それと、製品ができるまでのCO2の排出量は、アルミなどと比べて焼き物が一番低い。実際、汐留タワーの外装は、CO2の排出量を調べると、最も環境負荷の少ない素材でできた超高層ビルになりました。それを実践したのがものづくり工房で、20年位前のことです。
こうした経緯と経験があって、タイルという素材の可能性に大きな魅力を感じていました。
土田氏:岡﨑先生も「Hareza池袋」の前に、ものづくり工房とご一緒されたことがあるらしく、工房を我が家のように思っているようでした。ものづくり工房の担当者と阿吽の呼吸で、色づくりについてやり取りされていましたね。
事業者の皆さんも工房に同行された時はとても感動されていました。工房で、床に並べた「アーバンスクリーン」のタイル面を上から見たのですが、外光も入ってくるので、見る時間でどんどん表情が変わっていく。一方で、ちょうど窯から焼き上がった、まだ貫入も入ってきていないようなタイルも確認させてもらった。つるつるで、透明よりもさらに透明みたいな、透き通ったでき立てのタイルの質感を初めて見て驚きました。こういった経験は、普段の建築ではなかなかできない。
また、「Hareza池袋」のような現場にめぐり会いたいですね。
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公開日:2020年02月18日